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お嬢さまは何としてでも日本でヘヴィーメタルを流行らせたい  作者: 微炭酸さいだー
第2章 本気で世の中を作り変えてやりますわ
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第7話 ギターからアンプまでの周辺機器が複雑すぎる

 世界最高のエレキギターを作っている国はどこなのか、答えられる者はいるだろうか。

 ジャズやロックは米英で生まれて栄えたため、世界中に本場として名が知られている。

 実際のところ、市場に出回っているギターのほとんどはアメリカ製、アンプやエフェクターなどの機器も米英が強い。


 しかし、そんな海外に真っ向から挑んでいる楽器生産大国。

 それが日本である。


 この国が持つ異様に高度な加工技術は、耐久性や使いやすさ、何より音の良さを徹底的に追求し、もはや芸術品のような完成度を誇っている。

 特に金管楽器やピアノ、近年ではエレキギターやキーボードの生産が活発であり、日本製を買っておけば一生使えると海外でも大評判だ。


 一部の日本製ギターは、あまりにも精密すぎるため非常に高価で、新品ならば50万円以上に達する。

 そんな超高級、超高性能ギターこそが、麗香の(かな)でる『ピンク・ソウトゥース』であった。


「いや~、すごい上達速度だね。

 さすがにメインのリードをゆずる気はないけど、これならツインリードでも問題ないと思うよ」


「美沙希さまのお墨付きをいただきましたわ~!」


「ほんとに化け物だな……全力で弾きながら歌ったりしたら、普通は自分のギターに声が食われる。

 なのに、1秒たりとも支配権をゆずらないまま、私のドラムや美沙希ちゃんの上をいくんだよ。このボーカルは」


 この日も練習を終えて、ひと息ついているメンバーたち。

 メタル史上最高のシンガーであるダミアン・オズワルドの才能を麗香が継承していることなど、本人しか知らないし、話したところで信じてはもらえないだろう。


 小規模ながらもライブを経験することで、バンド全体の意識も高まってきている。

 特に伸び盛りの律子は、水分を補給しながら信一と談笑していた。


「りっちゃん、お疲れさま。

 コーラスにも慣れたみたいだし、キーボードも調子がいいね」


「うんっ、『回れ回れ』でだいぶ鍛えられたから」


「きつい部分だから心配してたんだけど、しっかりこなしてくれて助かったよ。

 PA機器の使いかたは憶えた?」


「ぜんっぜん分かんない!

 特にギターとベースなんだけど、弾いてる本体からエフェクターっていうのにつなげると音が歪むんだよね?」


「そうそう、オーバードライブとかディストーションっていうやつだね。

 ボリュームペダルにワウペダル、リミッター、イコライザー、オクターバー、ファズ、フランジャー、ディレイとかもつなげたりする。

 で、それをアンプにつないで、さらにミキサーで音量バランスを調整して、最後にスピーカーから音が出るんだ」


「いや、なんでそんなにごちゃごちゃしてるの!?」


「キーボードと違って、全部が内蔵されてるわけじゃないからね。

 りっちゃんはミキサーの部分だけ憶えれば大丈夫だよ。大きなところだとPA担当さんが代わりにやってくれると思うし」


 実際のところ、ロックバンドは大量の電子機器を使用して成り立っている。

 一見すると電源のいらないドラムでも、その音を拾うためのマイクが周囲に置かれているのだ。

 今のところ小さなステージでしか演奏していないので必要ないが、いずれは全体的な音響についても理解しなければならない。


「演奏してる人たちに目が行きがちだけど、ライブを根底から支えてるのは機材なんだ。

 だから、配線とか電気にトラブルが起こると何もできない。どんな歌唱力やパフォーマンスだろうと、これには勝てないんだよ」


「ロックバンドって、もっと荒っぽいものかと思ってたけど……

 電子機器とか配置とか、いろんなことを考えなきゃいけないんだね。

 モヒカン頭の人が鼻にピアスしてギター弾いてるイメージだったのに」


「いやいや、極端すぎだって……そういう見た目の人も、ちゃんと考えてるはずだし」


「おーい! あと10分休憩だから、ごきげんな曲をかけるよ!」


「OK、ありがとう!」


 美沙希とコルナを交わす2人。

 やがてレンタルスタジオの中に、かなり激しい重低音が響き渡った。

 じっくりと音を聞かせるメロディック・メタルとは対象的に、すさまじいスピードでリフを刻む曲調。

 『スラッシュ・メタル』と呼ばれるそれは、このジャンルにおいてデスメタルと並ぶ凶暴性を誇る。


「おお~、【マスター・オブ・バレット】! いいね!」


「有名な曲なの?」


「スラッシュ・メタルの代表的な曲なんだ。

 アメリカではプラチナディスク、日本でいうところのミリオンヒットを記録してるんだよ」


「へぇ~、あんまり想像できないけど……」


 律子がそう言ったのも無理はない。

 ガリガリと何かを削るような低音のリフに、あまり日本では流行りそうにないハードな曲調。

 しかし、途中から雰囲気がガラリと変わる大胆な構成は、信一が『Life on Merry-Go-Round』を書く上で大きな影響を与えていた。


「この曲は歌詞もすごいんだよ、ほら」


「そうなの? って、この感じ……どこかで……」


 信一からスマホで和訳の歌詞を見せられた瞬間、中学生のときに似たような経験をしたことがあるぞと、頭の中にデジャブがよぎった律子。

 絶対ヤバい歌詞に違いない。そう覚悟をして挑んだが、結果は想像以上のものだった。


■ マスター・オブ・バレット ■


 いいから死ねよ 脳みそをブチまけて死ね

 とっくに家畜以下の存在なんだ

 さあ死ね すぐ死ね 世の中のために死ね


 夢も希望も全部捨てて 禁断の果実を食ったのはお前なんだよ

 そのハッピーな頭に銃を当てて 引き金を弾くだけで十分だ

 やるときには ちゃんとこう言って敬意を払えよ


 神さま(マスター)! 神さま(マスター)

 あなたのことを裏切った ゴミクズみたいな私を見てください!

 神さま(マスター)! 神さま(マスター)

 これから出てくる汚らしい脳みそを どうかご覧ください!


■■■■■■■■■■■■■■■■


「(うわぁ……)」


 そこにはメタルらしく攻撃的な歌詞で、社会を批判する内容が(つづ)られていた。

 人の世界に巣食う麻薬と、それに手を出す者の破滅を警告している。


「「「「神さま(マスター)! 神さま(マスター)!」」」」


 律子を除く他の4人は、さも当然であるかのようにサビの部分を叫んでいた。

 日本ではどう考えてもミリオンヒットは難しいが、メタル界隈では有名なフレーズのようだ。


 いつか仲間たちのように、ノリノリで叫べる日が来るのだろうか。

 ヘヴィーメタルに触れたばかりの初心者、織田律子の前途は多難であった。

本日の元ネタ。URLの動画は公式アーティストチャンネルが公開しているものです。

音量に注意しながら、作品の予備知識としてお楽しみください。


▼【マスター・オブ・バレット】

 スラッシュ・メタル四天王と呼ばれる『Metallica』の代表曲『Master of Puppets』。

 アメリカだけで600万枚以上を売り上げた大ヒットアルバムの1曲。

 8分にも及ぶ長さを使い、転調からまた転調へと、組曲のような大胆さで内容が切り替わる。

 冒頭で受けるイメージとまったく違った中盤の印象に、初めて聞く者は驚くだろう。

https://www.youtube.com/watch?v=0obBdrfUMzU

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