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お嬢さまは何としてでも日本でヘヴィーメタルを流行らせたい  作者: 微炭酸さいだー
第2章 本気で世の中を作り変えてやりますわ
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第1話 もっと薄汚く! もっと反社会的に!

 バンドのメンバーたちが活動拠点にしている貸しスタジオ。

 結成以降、5人はほとんど休むことなく練習に力を入れていた。

 特に麗香のギターと織田(おだ)律子(りつこ)のキーボードは、しっかりと期間を取って集中強化している。


 が、しかし――その成果はいまいち(かんば)しくない。


「はぁ~、指が痛ったいですわ~!

 水ぶくれになってしまいそうです」


「私も指が動かなくなってきちゃった……」


 日々の猛練習に耐えかねて、麗香と律子には限界が来ていた。

 授業中、バイオリンの演奏が急に止まってしまったのは、指先に強い痛みを感じたからだ。


 このバンド『ドミネイト・エンプレス』の中心人物は麗香だが、技術面はギタリストの桐生(きりゅう)美沙希(みさき)が監督を務めている。


「2人とも強く弾きすぎだよ。

 エレキギターもキーボードも、音を出すのは機械だから力を入れる必要はないんだ」


「分かってるけど、曲がかっこいいと力が入っちゃって」


「わたくしもですわ~。バイオリンで慣れているつもりだったのですが」


「他の楽器とは違うものだと考えたほうがいいよ。

 今日の練習はここまでにして、明日からは指にサックをつけて補強しよう」


「わたくしはシンイチさまのように、黄金の両手になるまで鍛えても構いませんわ」


「ダメダメ、あれは悪い例。

 信一くん、自分の両手をどうやって作ったのか、指を見せながら言ってくれる?」


 信一は(うなず)きながら、両手を広げてみせた。

 ベースの弦は『巻線』と呼ばれる細い金属がコイル状になっており、さらには指で直接弾く奏者が多い。

 そんな楽器をひたすら弾きまくると、どうなるのか。


「最初は手が絆創膏だらけになって何度も皮が剥けたよ。ひどいときには、お箸を持てなくてフォークで食べてた。

 6弦ベースだと『指板』も広くなるから、左手の指が引き裂けそうになったし。

 それでも毎日練習を繰り返してるうちに皮が固くなって、どれだけ弾いても剥けなくなったんだ」


「さすが、シンイチさま! かっこいいですわ~!」


「だから、そういうやりかたはダメなんだって。

 楽器に血が付いて傷んじゃうし、爪もボロボロになるよ」


「あいつ、やっぱり変態だな」


 呆れながらジト目で言ったのは、ドラマーの高見沢(たかみざわ)春菜(はるな)

 可愛い見た目からは想像できないような、激しい爆音と乱打を繰り出すヘヴィーメタルの使徒だ。


 律子は疲れた指先を冷やしながら、春菜の手を見て話しかける。


「春菜ちゃんの手って、きれいだよね。

 この中で一番、すごい動きと音で演奏してるのに」


「私は力学で叩いてるからね。

 この体じゃ、どう頑張っても体格がいいドラマーには勝てない。

 だから、いつもグリップを意識して、叩いた勢いが100%ドラムに乗るようにしてる」


「え? あれだけスピードを出しながら、そんなこと考えてるの?」


「逆。ちゃんと考えてるからスピードを出せる。

 手の保護にもつながるし、力学的に考えるのはすごくコスパがいいよ」


「はぁ……」


 律子から見れば、信一と同レベルの楽器マニアでしかなかった。

 春菜は骨の構造やスティックの重心、叩いたときの威力が推進する角度まで、全て意識しながら演奏しているのだ。

 よって、嵐のような乱打でも手が痛くならないし、小柄な体から爆音を作り出すことができる。


「ドラムはマッチョな人が力任せに叩いてるイメージだけど、そんなことをしたら自分の筋力で体を壊しちゃうんだ。

 あたしは春菜のドラムが好きだよ。

 自分を壊さないように気を付けながら、一番大きくて重い音が出るようにしてる。本当にきれいで素敵だね」


「美沙希ちゃん……」


 中学時代から組んでいただけあって、美沙希は相棒のことをよく理解している。

 気難しい性格の春菜も、彼女の前では飼いネコのようにおとなしい。


「とにかく、体がおかしくなるような練習は絶対にダメ。こっそり秘密特訓とかもしないでね。

 あとは信一くん、みんなの演奏を聞いて思ったことはある?」


「う~ん……ちょっと、全体的にきれいすぎるかな」


「だよね。あたしも自分に言い聞かせてるんだけど、ブルージーが足りてないと思う」


「ブルージーって……何?」


 語りあう美沙希と信一に、首をかしげながら質問する律子。

 それに対する答えを、メンバーたちは次々と上げていく。


「スレた感じ、かな?」


「おっさん臭さ」


「ワイルドとかダンディーとか」


「管理社会がお上品なら、それに反逆するメタルはお下品でなければいけませんわ」


「つまり……下品でワイルドでダンディーで、スレたおじさん臭さが足りないってこと?」


「男の僕が言うとアレだけど、このバンドは女の子ばかりだから、それが弱点になっちゃうんだ。

 ガールズバンドは明るさとか切なさを出すときは強い。1曲目に作った『Dominate Empress』もキラキラ疾走系だからウケた。

 でも、ロックの魅力を引き立てる渋くてワイルドな男っぽさは、そう簡単に出せるものじゃないよね」


 それを聞かされて、少女たちは顔を見合わせる。

 ここにいるのは信一を除くと全員が女性、しかも平和な日本で生まれた10代の女子高生たちだ。

 革ジャンを着てハーレーに(またが)り、タバコを吹かすような男らしさとは真逆の世界にいる。


「もちろん、女の子らしい持ち味を活かすことはできるけど……

 方向性を決めるのはリーダーだから、判断は任せるよ」


 美沙希に話を振られるまで発言を控えていた麗香は、今日も今日とて優雅な(たたず)まいだった。

 相変わらずメタルバンドのTシャツを着ていること以外は完璧なお嬢さまだ。


 そんな彼女の口から出たのは、意外にも庶民的な言葉。


「わたくし、世俗を知るために娯楽メディアなども履修しているのですが。

 この世の中で、最も強い能力は何だと思います?」


「え? 魔法とか?」


「いいえ、答えは簡単! すでに最強と呼ばれている者を取り込んで、好きなように扱う能力ですわ!

 歴代ヒーローの力を使ったり、モンスターの力を吸収したり。

 主人公の能力として最強なのは、『コピー』か『無効化』と相場が決まってますの」


 そう言って立ち上がり、豊満な胸を張りながら高らかに宣言する麗香。

 彼女は常に頂点を目指している。


「わたくしは世界が欲しい! メタルが異端として廃れていく世の中を、この手で作り変えたい!

 幸いにも、この21世紀には数々のバンドが生涯をかけて完成させたものが残されていますわ。

 それを取り込んで自分たちの力にできれば、いずれ最強主人公になるのも夢ではなくてよ」


「相変わらず規模がデカいなぁ……で、具体的にはどうするの?」


「わたくしたちは女の子、それゆえ丁寧でお上品すぎるのです。

 特に有名なアーティストの曲を演奏するときは、失礼になってはいけないという気持ちから、つい『自分』を忘れがちですわ。

 その結果、カヴァーとしては完璧な仕上がりでも個性が失われる」


「ああ……耳が痛いね。【ファー・ビヨンド・サンダウン】の動画対決で、散々にやられたヤツだ」


「敬意を払うだけではなく、自分のものとして取り込んだ上でのカヴァー。

 そして、たくさんのものを吸収した上で作るオリジナルソング。

 それはきっと、他にはない強力な武器になるはずですわ。

 今日からは楽器の練習に加えて、ロックの魂も学んでいきましょう!

 もっと薄汚く! もっと反社会的に!」


 言いながら麗香は拳を握って手の甲を見せ、人差し指と小指だけを立てる。


「これは『コルナ』という、ヘヴィーメタルの界隈ではお決まりのサインですの。

 今後、わたくしたちの間で『いいね』や『グッジョブ』は、全てこれに統一しますわよ」


 ロックの魂を磨くために、何事もまずはカタチから。

 これまで高校生として生きてきた少年少女たちは、下品でワイルドでダンディーな生活へと身を投じるのであった。

▼コルナ(Corna)

 日本で普通に生きてると、あまり見ることがないサイン。メロイックサインとも呼ばれる。

 人差し指と小指を立て、他の3本を握り込む。その状態で手の甲を見せるパターンと、手の平を見せるパターンがある。

 海外では侮辱や悪魔崇拝などを意味する場合もあるため、あまり人前で使ってはいけない。

 逆にヘヴィーメタルでは使いまくるサインなので、ライブに行ったら積極的にコルナを振りかざそう。

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