表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢さまは何としてでも日本でヘヴィーメタルを流行らせたい  作者: 微炭酸さいだー
第1章 いいからメタルを聴きなさいジャパニーズ
2/27

第1話 拝啓、偉大なる前世さま

「●ァーーーーーーーーーーーック!!」


 水無月(みなづき)麗香(れいか)の生活は優雅そのものであった。

 一族は代々、音楽の家系。父は自衛隊の楽団に技術指導をするほどの優れた演奏者、母は海外にまで名が知れ渡っているオペラ歌手。

 そんな両親の血を完璧に受け継いだサラブレッドとして生まれ、演奏から歌まで何をやらせても天才的。日本音楽会の未来を担う若者として、その将来を期待されている。


 (よわい)16となり、麗香は青春真っ只中(ただなか)

 誰もがうらやむ高貴な美貌に、非の打ちどころがないプロポーション。

 今朝も学校へ行く支度をしながら、スマホでネットの情報をチェックしていたのだが――


HR(ハードロック)HM(ヘヴィーメタル)を扱うインディーズレコード会社、不況に耐えきれず倒産!

 売れ行きの低迷、新しい世代の若手バンドも現れず、ライブの中止が相次いで赤字に……

 なんということでしょう、またしても日本からメタルが遠のいてしまいましたわ!

 ただでさえ、メタルと二次元と女装が趣味な人は、素性を明かして生きることが許されないというのに!」


 自室でワナワナと震えながら、傷ひとつない美しい指先でスマホを操作する麗香。

 その正体はダミアン・オズワルドの意志を受け継ぐ、悪魔に選ばれし新生児。

 偉大なるダミアンの死と同時に生まれた彼女は、自身に課せられた使命と、誇り高きメタル魂を理解していた。


 とある記事にたどり着くと、麗香の表情は悲しげなものへと変わっていく。


「伝説のメタルシンガー、ダミアン・オズワルドの死から16年。追悼のためにコウモリの人形を持ち寄って食らいつくファンたち。

 ああ……偉大なるわたくしの前世、ダミアンさま! あなたの死、そしてわたくしの生から16年!

 明日のメタル界に身を捧げるべく、密かに”そっち方面”の音楽を学んで、研鑽(けんさん)を積む日々を過ごして参りましたが……

 なぜ!? なぜ、わたくしは日本に生まれてしまったのでしょうか?」


 麗香は自分の前世であるダミアンを、絶対的な神のごとく尊敬していた。

 偉大なる意志を継承したのだが、彼女が置かれている状況は(かんば)しくない。


「日本でのヘヴィーメタルはイロモノ扱い!

 奇天烈(きてれつ)な格好をしたり、激しい曲調でアニソンや蜜柑(みかん)の歌を叫んだり、1秒間に10回レ●プ発言したり、アイドルの要素を入れたりしなければ流行らない!

 ダミアンさまのように黒いレザーに身を包んだ正統派のメタルバンドは、滅多に出てこないような国ですわ!

 そんな場所で……わたくしは、どうやって弱き民を導く反体制主義者になればよいのでしょう!?」


 誰もいない自室で天井を(あお)ぎながら叫んだ後、窓を開けて話し相手と向かいあう麗香。

 広い敷地を誇る水無月家の屋敷では、ペットとして2羽のハトが放し飼いになっている。

 ハトたちは窓辺によく来るため、麗香は彼らに名前をつけて可愛がっていた。


「おはようございます、メガデス、メタリカ。

 未来はこんなにも重苦しいのに、なんて爽快な青空なのでしょう。

 愚かな人間がどれほど汚物(クソ)を垂れ流そうと、母なる地球はおむつを換えてくれますわ」


 ハトたちは『くるっぽー』としか応じないが、お嬢さまである麗香に秘密があることは彼らしか知らない。

 なまじ名家に生まれてしまったため、メタル・ゴッドの後継者であることを人に打ち明けられないのだ。


 しかし、麗香は覚悟を決めて決意した。

 どれほどの逆境にあろうと、必ず前世から受け継いだ意志を貫いてみせると。


「そうですわね、嘆いてばかりでは何も始まりません……現状が苦しいなら、力の限り足掻(あが)くのみ!

 まるでメタルを聴こうとしない日本猿(イエローモンキー)どもを再教育して、わたくしがこの国を作り変えてみせますわ。

 反逆! 反逆でしてよ! 16歳になりましたもの、自分の道は自分の手で切り開きます!」


 晴れ渡った青空を見上げて決意表明をする麗香。

 前世であるダミアン・オズワルドの意志を受け継ぎ、この日本――いや、世界に対する壮大な反逆を夢見る。


 決意したら即実行。

 彼女の運命が本格的に動き出すのは、翌日の夜であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ