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お嬢さまは何としてでも日本でヘヴィーメタルを流行らせたい  作者: 微炭酸さいだー
第1章 いいからメタルを聴きなさいジャパニーズ
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第17話 ドミネイト・エンプレス

「いや、しかし……よくこんな歌詞が書けるね」


「やっぱり、変態鬼畜野郎だったか」


「みんなのために頑張って作ったのに、ひどい言われようだーっ!」


 いい感じにスイッチが入った信一から歌詞を見せられた美沙希と春菜は、この人畜無害そうに見える小柄な少年が、実はとんでもない猛毒を隠し持つ危険生物であることを知った。

 ハードロックやメタルを(たしな)む彼女たちですら、闇に染まりきったかのような曲の世界観にドン引きしている。


「まあ、とりあえず……この歌詞と基礎のメロディーに肉付けして、曲を完成させるわけだね。

 ジャンルは何になるんだろう?」


「ブラック・メタルじゃない?」


「悪魔とか裏社会っぽければブラックになるわけじゃないよ、あの”閣下”も実は違うし」


「じゃあ、メロディックスピード、パワーメタル、ネオクラシカル」


「そのあたりでいいんじゃないかな。

 キーボードがいるからオルタとかプログレもできるけど、やっぱりメインに据えたいのは麗香さんだからね。

 あの人の存在感に合わせたほうが、きっと上手くいく」


「美沙希さんがそう言ってくれると助かるよ」


「私は美沙希ちゃんがフロントでも全然問題ないのに」


 ヘヴィーメタルといっても、その傘下に広がるサブジャンルは多岐にわたる。

 バンドが新しい方向性を主張するたびに増えたり、ファンが勝手に名付けて増やしたりするので、正確に把握するのはとても難しい。

 それこそ、クリスマス・メタルや宇宙メタルまであるくらいだ。


 ジャンルを決めた信一たちは、拠点にしているスタジオの中で曲作りを進めていった。

 ギターとドラムの意見を聞きながら、ノートパソコンの作曲ソフトで編集していく作業。

 変更されたメロディーに合わせて歌詞を変えたり、勢いをつけるために区切ったりと、かなり大幅に手が加わる。


「皆さま、ごきげんよう~。

 あら、もう曲作りが始まってますの?」


「こんにちは、麗香さん。いいところに来てくれたね。

 クラシック方面の意見も詳しく聞きたいんだ」


「その前に信一くんが作った歌詞を見てみなよ。ほら、すごいことになってるから」


 入室するなり、歌詞が書かれた紙を美沙希から手渡された麗香。

 並んだ文字を目にした瞬間、その両目が大きく見開かれる。


「こ……これは……!」


 元は信一が学校の授業でやらかしてしまった歌詞。

 しかし、光と闇を反転させて書き直したことで、まったく違う曲へと転生していた。


■ Dominate Empress ■


 (ひざまず)き答えよ 私欲に歪んだ罪人(つみびと)

 なにゆえ愛を手放した 満たされた陽だまりの中で

 なにゆえ安寧(あんねい)を捨てたのだ 救いがたき愚か者め


 その耳 その目で知るがいい

 愛に(なび)かぬ罪人(つみびと)には 煉獄こそが相応(ふさわ)しい

 貴様が欲した絶望を 思いのままにくれてやろう


 Dominate Empress

 全ての存在(もの)に成り代わり

 Dominate Empress

 我らが時代を築くのだ

 Dominate Empress

 光あたらぬ地の底で

 Dominate Empress

 命の限り()えるがいい


 偉大なる(あるじ)の名を 未来永劫その身に刻め

 成すべき大義(たいぎ)は ただひとつ

 『Kill Them All』


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 それはまさしく、麗香のため――もとい、魔卿院(まきょういん)レイチェルのために作られた曲だった。

 爆音の演奏だろうと上から支配してしまうような、サディスティックお姉さまボイス。

 その声で歌ったとき、最も強い効果を発揮するようになっている。


 自己紹介としても、非常に手っ取り早いだろう。

 バンドの象徴であるレイチェルの方向性とイメージが、すぐさま聞き手に伝わる歌だ。


「………………」


 が、それを見た麗香は言葉を失ったかのように立ち尽くしていた。

 なにやら雲行きが怪しくなってきたのを感じ取り、信一は緊張でゴクリと喉を鳴らす。


 さすがに、やりすぎたのだろうか。

 最後に『皆殺し(キル・ゼム・オール)』で〆るのも、正直ちょっとダサいんじゃないかと思っていた。

 どんなダメ出しが来るのかと身構えていると、麗香は信一に歩み寄ってガシッと両肩を掴む。


「わたくしの目に狂いはありませんでしたわ、シンイチさま!

 やはり、あなたとの出会いは必然でしたのね!」


「え……ええっ!? あの、距離……近っ!」


「素晴らしきこと、この上ありませんわ!

 光と安寧に対する闇の世界! そう、そのとおり!

 愛や陽だまりでは幸せになれない人だっているのです!

 これでこそロック、真の自由を渇望する人間の生きざまでしてよ!

 ところで、この『Kill Them All』の部分は一番盛り上がるので、ロングシャウトがいいと思いますの!

 歌詞には載せないけれど2回繰り返す感じで!

 キル・ゼム・オールで〆た後、わたくしがキル・ゼム・オォオオーーーーーール!! ねっ?」


「あぁ……はい……」


「殺戮を大義にしてしまうなんて! ああ~、まさしく統治社会への冒涜ですわ~!」


 何ひとつ欠点のない麗香の美顔が迫ったが、しかし、まくし立てている言葉がヤバい。

 お嬢さまは心から気に入ったようで、信一を放した後も歌詞を眺めつつ、恍惚の表情で熱い息を吐いている。


「良かったね、喜んでもらえて。

 このドミネイト・エンプレスっていう言葉、もうバンドの名前にしちゃっていいんじゃないかな」


「私もいいと思う。ライブのとき、毎回必ずやる看板曲だね」


「えっと……そこまで考えてなかったんだけど、いいのかな?」


「いいんじゃない? 今来たから、よく分からないけど」


 気付くと、制服姿の律子もスタジオに来ていた。

 かくしてバンド名は『ドミネイト・エンプレス』に決定。

 バンドの名前を冠する曲は特別であり、それ自体が顔になる。


 エンプレス、つまり女帝の座につくのは言わずもがな。

 バンドの中心人物(フロント)を務める魔卿院(まきょういん)レイチェルだ。

 当の本人は今、歌詞が書かれた紙を見つめながら何かをつぶやいている。


「Kneel down and answer,greedy sinner.

 Why have you forsaken love?

 In the sunshine that fills.

 Why have you forsaken peace?

 You irredeemable fool」


「即興で英訳してるーーーーー!?」


「英語版も作れば、海外のファンを取り込めますわ。

 世界を取りに行く以上、もうジャパメタルなんて言わせませんわよ」


「麗香さんは(こころざし)がでっかいな~。

 インディーズにすらデビューしてないうちから海外を視野に入れてる人、初めて見たよ」


 いまだにメンバーたちは半信半疑だったが、麗香は本気で頂点を目指している。

 それですら通過点でしかなく、全人類がメタルを聴くように世界を作り変えるのが彼女の最終目標だ。


 そんな高みへの山登りも、まずは準備から。

 学生カバンからノートを取り出した律子は、そこに要点をメモしながら質問を投げかける。


「バンドの名前はドミネイト・エンプレス、と。

 英字だと『Dominate Empress』で……

 ロゴのイメージはどんな感じがいいかな?」


「では、コウモリで」


「「「「えっ?」」」」


「わたくし、コウモリの頭を食いちぎって亡くなったダミアン・オズワルドさまを敬愛してますの。

 できれば首がもげたコウモリがいいのですが……さすがに露骨すぎますわね」


 本当に何を考えてるんだ、このお嬢さまは。

 と、一同は今日も心の中でツッコミを入れた。

 こういうとき、率先して場を取り持ってくれるのは心の広い美沙希だ。


「ま、まあ、いいんじゃないかな?

 ダークなイメージだし、メタルに付き物のマスコットみたいで」


「え? メタルにもマスコットがいるの?」


「洋楽のCDって、ジャケットにミイラとか骸骨とか死神が描かれてるでしょ。

 あれにはちゃんと名前があって、バンドのマスコットになってるんだ。

 メイデンのエディとか、パンプキンのジャックが有名だね」


「へぇ~、マスコットかぁ。コウモリ以外で何か候補はある?」


「じゃあ、コウモリ。首がつながってるヤツ」


 本気か冗談か分からない春菜の言葉に、メンバーたちは失笑してしまった。

 結局、他に意見が出なかったため、ロゴやマスコットは”首がつながった”コウモリに決まる。


 あとは曲を完成させて演奏し、動画を撮ってアップするだけ。

 ドミネイト・エンプレス、女帝の初陣が間近に迫っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] マーダックのworld funeralみたいな歌詞だなあw
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