巻き込まれない腕
「だから、俺らは助けに入ったんですって!」
風雅が叫ぶように訴える。場所は、駅員室で周りには警察官がいる。
「1度ホームから助けたのは、周囲の人から聞いている。けど、腕が刃物で切られたようにスッパリとだね…。」
警察官も困惑しながら風雅を問い詰める。まるで刃物で切ったのが俺らであることを疑っているようだ。
「骨まですっかり切れる訳ないし、刃物を持ってないことも確認したでしょ!」
いつも要領がよい風雅も、状況に焦っているようだ。逆に自分は妙に冷静だ。人間おかしくなると冷静になるらしい。
「田所さん、無線入ってます。」
若い警察官が、年配で風雅と話している警察官に話を投げる。
「あ、あぁ…。」
年配の警察官がその場を少し離れて無線と会話する。
「なぁ、光。どう考えてもおかしいよな。電車に巻き込まれたにしては傷口がスッパリとした刃物で切られたようだしさ。」
風雅が耳打ちしてくる。
「あぁ、おかしい。それに直前まで確かにおじさんと手をつないでいる感覚はあった。それが突然軽くなった。」
今まで隠していた疑問を風雅に投げかける。
「だよな、まるで魔法のように…。」
「おい、君たち。少しここで待っていなさい。」
無線をしていた田所という警察官が戻ってきた。
「田所さん…、ですよね。俺らはどうなりますか。」
少し冷静さが戻ってきた風雅が尋ねる。
「ちょっと偉い人がやって来ることになったから、少し待っていてくれ。詳しくは我々も分からない。ただ、君たちが重要な参考人であることは確かだろう。」
今だ困惑しながらも何かしたことを疑っている田所警察官は、ゆっくりとそう話した。
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「え~、君らが重要参考人かな。」
白髪で60歳にも見えるスーツを着た男性がやってきた。だいぶ温和な雰囲気だ。
「らしいです。」
少し投げやりに答えた。
「あぁ、そうかい。君たちも大変な事件に巻き込まれたんだね。僕、佐々木って言います。佐々木小次郎。小次郎破れたり!って負けそうな名前だよね。」
「俺は、工藤光と言います。こっちは、近藤風雅。」
「近藤風雅です。」
白髪の警察官が自己紹介をしてきたので、自己紹介を返す。風雅も続いた。
「あ、これ。田所くんだったよね。君も難儀だったね。お疲れ様、後はこっちでやっておくよ。」
「よろしくお願いいたします。」
佐々木警察官が、田所警察官を帰す。
「それで、事件当時のことを教えてくれるかな。この事件は君たちが思っている以上に奇妙だからね。」
佐々木警察官が神妙な顔つきになって、そう話す。
「話すも何も、おっさんが『助けてくれっ!殺されるっ!』って叫びながらホームに転げ落ちるものだから、ホームから救い出したら、腕だけになって人身事故です。腕の断面は不思議ですが、酔っ払いだと思いますけど。」
風雅が語る。
「同じくです。」
風雅に同意する。
「いや、しかし、君たちが助けた男性の腕は刃物で切らないとおかしいぐらいにスッパリと切れていた。そこはどう説明するかね。」
佐々木警察官は最大の謎を指摘する。
「さぁ、俺らにはわかりません。」
言い切る風雅。
「じゃあ、腕を持っていた君に尋ねるがね。工藤くん。君は違和感を感じることはなかったかね。どんな些細なことでも良い。」
今度はこちらに追及する佐々木警察官。
「違和感は特には。酔っぱらったおじさんか、病気の人だとしか。」
思ったように話す。
「本当かね。君は本当に何も違和感を感じることはなかったと。」
さらに追及する佐々木警察官。
「あ、よくよく思い起こせば、おじさんが電車に引かれる瞬間、ふと軽くなっていることが違和感でした。腕を握っているから、俺も電車の勢いに巻き込まれるはずなのに、逆に軽くなったんです。」
「やはり…。」
答えを聞き、渋い顔になる佐々木警察官。
「君たちは、とんでもない事件に巻き込まれたようだ。しかし、これ以上はいかん。もう帰りなさい。外も暗くなってきている。連絡先は貰うがね。」
渋い顔付きのまま帰ることを促す佐々木警察官。何はともあれ、危険な事件らしいのでこれ以上首は突っ込みたくない。
「ありがとうございました。」
そう告げると、納得いかない風雅をなだめながら帰路につく。