フログの息子
令和6年7月24日(水)
一部見直し表現を変えましたが、内容に変更はありません。
ある日、兄弟全員で悪魔王に呼ばれた。
まだ小さい弟や妹は、自力で長距離を歩くことはできなかったり、昼寝時間だから寝ていたりしているので、兄、もしくは姉の頭の上に乗せている。
人間社会では身分の高い者に対し、弟妹を頭の上に乗せお会いしたら、不敬になると聞いている。だが悪魔の一員である僕の一族は、頭の上に乗せることで、この子は赤子だと他者に示している。
「まだ赤子もいるのか。そういえばフログから、人数しか聞かなかったな」
だからか悪魔王は、不敬だと言うことなく受け入れてくれた。人間からすると、器量がある方だと思われるかもしれないが、悪魔の外見、習性は様々だ。悪魔王はそれを理解しているだけ。
「まあ、よい。お前たち、イトコについては知っているな?」
「はい」
長兄である僕が全員を代表し、答える。
「お前たちもイトコたちと同じく、悪魔と人間との間に産まれた者。つまり能力や地位に関係なく、人間社会に行き来できる存在だ。そこでだ。お前たち兄弟にも、イトコたちと同じ仕事をしてもらいたい」
イトコたちが悪魔王に命じられ、人間社会で悪魔の書を配っていることは知っている。それを僕たちにも行えと言うことか。
「悪魔王の望むままに」
さすがに最敬礼を行うため、全員が頭に乗せていた弟妹を手に抱え直した。
◇◇◇◇◇
「人間社会、か……」
しっかり目深にフードを被り、背を丸めて歩くのが当たり前となった僕は呟く。
母のように美しい、僕の理想の姿をした者たちだけが暮らす世界。そこに僕は憧れているが、父は言う。
「それは、お前の幻想だ。確かに妻は美しい見た目だが、中には人でありながら、醜い見た目の者だって存在する」
父は僕の思いを、なにも分かっていない。人間の容姿、それだけで羨ましいだけなのに。
だらん。人間に比べて長い両腕を胸の前で垂らし、視線を左右に動かす。これほど多くの人間を見るのは、初めてだ。新鮮で嬉しくもあり、憎くもある。
やはり僕のように、まるで人間の頭から骨を抜いたように平たく、カエルみたいな頭の奴はいない。しかもこんな頭なのに、母と同じ色をした髪の毛は生えている。これほど不気味な見た目をした人間、この世界にいる訳がない。
この見た目が幼い頃から嫌で、鏡で直視しないように前髪を伸ばしている。けれどその毛はくせがあり、うねって余計に醜く見える。己の姿に厭悪し、割った鏡は一枚ではない。
人間社会に降り立ち、なにかの建物の屋上から人々を見回し、一番に出た言葉はこれだった。
「羨ましいなあ」
父が言うように、確かに人間も外見に優劣がつけられる生き物。だけどやっぱり僕のように、父に似た肌色の人間はいない。頭だって母のように丸い。こんな潰れた頭の人間なんて、一人もいない。
人間の外見をしている。それだけで恵まれているというのに、人間は、まだ望むのか。なんて強欲な生き物なのだろう。
ひひっ、自然と笑い声が出る。
「悪魔王に感謝しなければ」
悪魔が魂を食えば、その魂は復活することはない。
これは人間の願いを叶える書でもあるが、人間を滅ぼす書でもある。
僕のように不満を抱え、世を恨んでいるような人間は、たやすく見つかる。僕と同じ、暗い目をした者を探す、それだけでいいのだから。そしてそういう目を持つ者ほど、なにか叶えたいものを抱えている。
「なにを望んでいる? この書には、お前が願いを叶える術が書かれている。そう、悪魔の書だ。さあ、受け取れ」
今日もまた一人、震える手で受け取ると、大事そうに書を抱え走り去る。その後ろ姿を見て、また自然と、ひひっ。笑ってしまう。
憎め、望め、悪魔を呼び出せ。どれだけ恵まれているか理解していない、愚かな人間たちよ。さあ、破滅の道を歩くが良い。