素振りより勉強をしましょう
7月中旬
体育祭も無事終わったかと思えば次は一週間後にテストが待ち受けていた。
悠真と仁はテスト休みに入り部活はお休みだ。
野球バカの仁の脳は勉強という言葉は覚えておらず一週間後にはテストだというのに公園で素振りの練習をしていた。
「フッ......フッン......フッ」
その光景を買い物帰りの悠真が声を掛けた。
「ーー仁! 素振りの練習?」
「うん。毎日素振りしないと鈍るから」
「そっか! 勉強は終わったの?」
勉強という言葉に仁の腕が止まる。
「……」
「もしかして、勉強の事忘れてた?」
それでもなにも言わない仁におれは苦笑いをした。すると仁はゆっくりと顔を上げ悠真の目を見る。
「どうしよう」
助けを求める目をした仁にきゅんとする。抱きしめたい衝動を必死に押さえながらおれは良いことを思いついた。
「じゃあおれと一緒に勉強する?」
これはチャンスだ。お互い部活が忙しくてなかなか二人きりになれなかった。これはいい口実ができたと自分自身を褒める。仁は別に断る理由もないので甘えることにした。
「する」
「やった! もう遅いし早く帰ろっか!」
頷いてくれたことが嬉しくてテンションが上がった悠真は、鼻歌を歌いながら仁と家に帰っていく。
仁が家に入ったのを見届けておれも家に入り、嬉しい感情がブワッと込み上げてきて玄関先で腕をグッと上げる。
「よっし! よっし!」
進展出来ずに落ち込んでたが、この一週間の間に仁との間を進展させてやると意気込んだ。
♢
その頃、仁はお風呂に入っている途中公園にバットを忘れたことに気づき、急いでお風呂を終わらせ公園まで取りに戻っていた。
「ない」
木の後ろ、遊具の隙間、草原の中、色々探し回ったがバットらしきものが見当たらずどんどん焦っていく。
「どこいったんだ」
滅多に泣かない仁だが、大事なバットをなくしたと思うと涙目になっていく。
すると後ろから声が聞こえ振り向いた。
「ーーねぇ、このバット君の?」
暗くてよく見えないが、スーツを着た男の人の手には探していたバットを持っていた。
「そうです。俺のです」
男の人からバットを受け取り大事に抱える。
「大事なバットだったんだね。涙目になってる」
そう言って男は仁の涙を親指でスッと拭いた。
びっくりした俺は一歩後退りをする。
「あぁ、ごめん。つい」
男は両手を小さく上げ苦笑いをした。
「いえ。バットありがとうございました」
「いえいえ。交番に届けようとしたんだけどそれじゃ見つけられないんじゃないかと思ってまた戻ってきたんだ。正解だったね」
少し警戒していたがいい人そうで安心し、俺はもう一度お礼をして家に帰った。