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過去の思い出(1)

 私は部屋の中をグルグルと歩いていた。

自分の部屋なのに落ち着けやしない。もうそろそろ悠真が来てしまう。


 普段は優しい悠真だが、いつの日か仁が絡むと私に冷たい態度を取るようになった。今では仁のことが好きだからなんだと分かるからいいが、知らなかった時は戸惑い心の奥底で悠真に対して苦手意識が出来上がった。今でもそれをちょっと引きずっている。


ーーコンコンコン。


 ドアをノックする音に背筋を伸ばし息を整え返事をする。


「ーーどうぞ」


 私の返事を聞きドアを開ける悠真はニコニコしている。怖っ。


「す、座っていいよ……えっと、私の部屋に来た理由は?」


 面接官みたいな質問しちゃったなと心の中で呟く。悠真は私の勉強机の椅子に座った瞬間、深刻そうな顔で呟いた。


「おれ、仁が好きなんだよね」


 怒られると思っていたから拍子抜けだ。知ってると言おうか迷っていると、悠真はなにも言わない私を見て言葉を続けた。


「応援してほしいんだよね。できれば協力とかも」


「協力!? えっいいの? 私で」


私に協力をお願いするなんて驚きを隠せない。


「応援も協力もおれらの事をよく知ってる美紀にしてほしいと思ってるよ」


 泣きそうだ。私に対して冷たいと感じていたのは勘違いだったのだろうか。


「悠真は私のこと嫌いなのかと思ってた」


「嫌いじゃない! ただ昔のことがあってそれで冷たくなってたのかもしれない」


「昔ってどういうこと?」


 悠真に何か怒らせるようなことしたのだろうか。思い当たる事が多すぎる。


「小学五年の頃、仁が美紀に告白した事覚えてる?」


「ーーえっ! 告白!?」


「そう。 あの時……」





〜六年前〜


ーーピンポーン


「じーん! あーそーぼー!」


 仁の野球の練習がない日は三人でよく遊んでいた。この日は仁の野球が休みの日で遊ぶのを楽しみにしていたおれは朝から仁を誘った。玄関の扉がゆっくりと開き眠そうな顔をした仁が出てきた。


「俺起きたばっかだよ」


「えぇーもう八時だよ! あそぼ!」


「……待ってて。 じゅんびしてくる」

 

「わかった! その間に美紀も誘ってくる!」


 仁の玄関を閉め、次は美紀の家のピンポンを鳴らすがいつまで経っても出てこない美紀に痺れを切らし扉を強く叩いた。


「みーき! あーそーぼー!!」


 すると勢いよく扉が開き、なぜか怒っている美紀が出てきた。


「ーーうるさいっ! 今プリ◯ュアみてるの!!」


「ごめん。じゃあ見たら大林公園きてね!」


「おわったらね!!」


 勢いよく扉が閉まると、ニ分後に仁が出てきた。


「大林公園?」


「うん! でもまだ美紀は来ないらしい」


「プリ◯ュアでしょ。聞こえてたよ」


 歩いて五分の大林公園に着いた。

ここの公園は沢山の遊具があり小学生のおれたちは遊び回っていた。


「おーい! きたよー!」


 手を振りながら美紀が走ってきた。おれたちは遊びを中断し美紀の方へと手を振り返す。息を切らしながらもまだまだ体力が有り余っている美紀に、おれと仁はキラキラした顔で見る。


「「ねぇ! なにして遊ぶ!?」」


「ーーかげおにだーー!!」


 美紀のその掛け声で、周りの小学生も巻き込みながら昼のすぎまで遊んだ。まだまだ遊びたかったおれは二人を午後も遊ぼうと誘った。


「わたし明日から京都行くの。その準備があって遊べなーい」


 それを聞いたおれは旅行いいなーと羨ましがっていたが、仁は美紀が京都に引っ越すと勘違いをしてしまった。


「京都に行くの?」


「うん! 楽しみ〜!」


 家に着いて美紀とおれが玄関を開けようとした瞬間仁は美紀を呼び止める。思わずおれも立ち止まってしまった。


「俺……みきがすきだ。だから行かないでよ」


 おれの胸が痛くなる。無意識に手を心臓に当て仁を見た。泣きそうな顔の仁を見て、また胸がチクッと痛む。たまらず視線を美紀にうつすと、美紀は困った顔で仁に答える。


「それはむり! ごめん!」


 そう言って家の中へ入っていった。仁はその場でしゃがみ込んで泣いた。


 痛い。胸が痛い。仁の泣き顔はなんでおれの胸を痛くするんだ。小学生だったおれには、この痛みの消し方が分からず泣いている仁をただただ抱きしめた。


 やっと泣き止んだ仁は家に帰り、おれも家に戻った。その後も仁のことが頭から離れず夜寝るまで考える。考えて、考えて、思わず出た言葉は…



「なんでおれじゃないんだ」


ーーまてよ。今、なんでおれじゃないんだって悔しくなってるんだ? おれは仁が好きなの? 


「……すき」


小さい声で呟くと、ストンっと気持ちが和らぐ。


 あぁそっか。仁が美紀を好きなように、おれは仁が好きなんだ。


「自覚した瞬間失恋とかおれも泣きそ〜」


 おれは腕で目を隠し、眠りについた。

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