保健室で覗きはやめましょう。
突然だが、今日は体育祭だ。今日までになにか悠真と仁に進展があればと思っていたが、なんにもなく体育祭がやってきてしまった。
イベントごとは、キュンキュン展開が起こりやすいと漫画で読んだことがある。私は二人を注意深く観察することにした。
さっそく第一種目。借り物競走が始まる。
参加するのは悠真だ。白いボックスに手を入れ紙を取った。悠真は内容を確認すると、私たちのクラスに走ってきた。
「ーー仁! 一緒にきて!」
仁の返事も聞かず手をとりゴールまで走り出した。迷うことなく仁の手を取った悠真は、一番にゴールすることになった。
「やったー! 一番とったよ!」
悠真が両手を上げて笑顔で戻ってきたが、私は紙の内容が気になったので聞いてみる。
「どんなことが書かれてたの?」
私の質問に、もう一度紙を見て迷うことなく答えた。
「ん? えっとね、宝物!」
「た、宝物って仁のこと?」
大胆発言に戸惑うと、悠真は目を丸くして同然かのように答えた。
「当たり前じゃん! 俺の宝物は仁だよ」
じゃあ私はなんだと事情がわからなければイラッとするが、これはもう仕方がないと呆れていると、悠真の隣にいた仁は目をパチクリとさせていた。
「悠真は俺のことが宝物なのか?」
悠真があからさますぎて仁にバレちゃったんじゃないかとハラハラした私とは違って、悠真はケロッとした顔で返事をする。
「そうだよ! 仁の宝物はなに?」
「バット」
悠真の質問に仁も迷いなく答えると、悠真はあからさまに落ち込んでいた。私は悠真の肩を軽く一回叩き同情した。仁の野球バカがまだまだ健在なことを改めて認識した。
次に第二種目。騎馬戦が始まった。
参加するのは仁だ。身長が高く支える方を担当していた。熱い戦いをした結果三位になった。
第三種目 女子クラス対抗 綱引き
私のクラスの女子は負けず嫌いが多く、袖をまくりハチマキをして気合を入れる。その結果一位を取ることができ、女子全員でハイタッチをして喜んだ。
第三種目が終わり昼食に入った。
最近できた友達の雪ちゃんとご飯を食べ、少し時間があったのでおしゃべり休憩をしていた。すると雪ちゃんはなにかを思い出したかのように『あ!』と声を出した。
「美紀ちゃん! 4種目始まる時先生に呼ばれてて。私の代わりに保健室の留守番お願いしていいかな?」
雪ちゃんは、申し訳なさそうに手を合わせお願いポーズを取った。
普通は保健の先生が怪我の手当てなど出来るよう待機するらしいけど、その先生は他にやることがあるらしく雪ちゃんに待機を任せていたらしい。
「いいよ! もう私出るのないから」
快く引き受けると、雪ちゃんは顔をパッと上げて安心したように笑った。
「ありがとう! ベットあるし誰も来ないから横になっててもバレないよ」
そう言うと雪ちゃんは可愛いウィンクをした。
さすが気の合う友。私の企みを分かっている。
♢
お昼も終わり第四種目が始まった。
一年部活対抗リレーだ。悠真はバスケ部のアンカーとして、仁は野球部のアンカーとして出ていた。私はそれを知らず保健室のベットで横になっていた。
第一走者、第二走者と続きバトンが第五走者目に渡った頃、アンカーも走る準備をする。バスケ部と野球部が接戦している。それを見た悠真は、横にいた仁に声をかけた。
「おれが勝ったらお願い聞いてくれる?」
「お願い? まぁいいけど。勝てるならな」
仁はニヤッと笑い五走者からバトンを受け取った。一秒後に悠真もバトンを受け取り走り出す。接戦だ。誰が勝つかわからない緊張に周りも声援が大きくなる。
ーーパンッ
ゴールと同時にピストルの音が鳴った。勝者はバスケ部悠真だ。でも悠真は焦った顔をしていた。
「仁! 大丈夫!?」
仁はゴール手前で足首を捻り転んでしまった。
「ーーっだぃじょーぶだ」
少し膝を擦りむきながらもすぐに起き上がり歩き出すが足首の痛さによろけてしまった。悠真はすぐ仁の腰を支える。
「全然大丈夫じゃないじゃん。俺につかまって。保健室に行こう」
「ごめん、頼む」
仁は素直に体を預け、足を引きずりながら二人で保健室へ向かった。そうとも知らず美紀はウトウトと眠る寸前まできていた。
ガラッガラガラガラ
ーービクッッ!
ドアが開いた音でびっくりして飛び起きる。恐る恐るカーテンの隙間から盗み見ると、見覚えのある二人が入ってきた。
「すみませーん。先生いますか?」
悠真はキョロキョロと先生を探す。
私はそれを見て、よからぬことを考えた。
ーーまてよ? もし二人きりだとわかったら悠真はどうするかちょっと見てみたいかも。
私はニヤニヤしながら気づかれないよう覗き見た。
「先生いないね。じゃあおれがテーピングするから、仁は椅子に座って」
「自分でできる」
「自分ではやりにくいでしょ〜。おれが勝負ふきこんだせいでもあるんだしおれにやらせてよ」
そう言って仁を椅子に座らせた。悠真は片膝を立て太ももをトントンと叩く。
「仁の足おれのここに置いて」
素直に仁は足を悠真の太ももに置き、悠真は慣れた手つきでテーピングを巻いていく。
「ごめんね」
テーピングを巻き終わるが、まだ思い詰めたような表情のままだった。
「おまえのせいじゃない」
「でも……」
消えるような声で言い俯くと、仁の両手が悠真の頬を掴み顔を上げさせた。
「お前は昔から俺が怪我をすると苦い顔をするよな今もしてる」
急に上を向かされた悠真は驚いた顔をするが、すぐにフワッとした笑顔になり、頬を掴んでいた仁の手を自分の手と重ね合わせる。
「おれの宝物だからね」
「まだ言ってるのか」
仁は呆れながら重なっている手を解いた。でもすぐに悠真が手首を掴み、また頬へと持っていき目を閉じ微笑む。
「言うよ。何度でも」
その言葉その表情にドキッとした仁は、言葉が出てこなくなった。悠真は目を開け二人で見つめ合い、静かな時間が流れる。悠真はこの流れに任せて告白しちゃおうかと考えた時、ベットのカーテンが大きい音を立て開いた。
「あまーーーーーい! 甘すぎる! なにこの甘い雰囲気!!」
カーテンを開けたのは我慢ができなくなった美紀だった。誰もいないと思っていた仁と悠真は驚く。
「ーーえ? いつからいたの?」
「最初からよ!」
「でも声かけても出てこなかったじゃん」
考えなしに勢いで出てきてしまったが、悠真に詰められどんどん勢いがなくなっていく。
「えっあー……最初は寝てて、起きたら話し声が聞こえたから出るに出れなくて」
下心があったなんて気がつかれたらどうなるかわからない。わたしは必死に誤魔化した。
「でも話は聞いてたんだよね?」
「えっまぁなんとなくは」
上へ横へと目を泳がし、誤魔化しきれていない私を見て悠真は目を細めた。
「ふ〜んーー夜、美紀の部屋に行くね」
悠真はニコッと微笑んだ。普通の女子ならその笑みに顔を赤らめるだろう。だが長い付き合いの私は顔を青ざめた。
「あっいや! 今日はバイトが……」
「バイトはないって言ってたよね」
「うっ」
ーーしまった!カーテンを開けるべきじゃなかった!!
後悔先に立たずとはこういうことをいうのだろう。蚊帳の外にされていた仁はムスッとする。
「おい。さっきからなんの話だ」
「ああ、なんでもないよ仁」
悠真は振り向き私とは違う笑みを見せると、保健室のドアが開いた。
「美紀ちゃん! 留守番ありがとう! もう閉会式も終わって、皆帰っていくよ」
雪ちゃんの登場にホッと息を撫で下ろす。
「そっか! じゃあ雪ちゃん一緒に帰ろ!」
わたしは、悠真に何か言われる前にそそくさと保健室を出た。