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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第十八話 模造の勇者と女王の鎌
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18ー2 ダヌトゥムナ城突入

  賢者の家を出たライラヴィラは勇者たちに礼を言って、レグルスと共に魔界へ帰ろうとミラリスゲート行き転移魔法を発動させた。しかしそれを勇者シリウスが制止する。


「俺とアンジェラはダヌトゥムナに戻って、サンユノアが巣食う王城を掃除してしまおうかと考えてる。あんたら、付き合わねえか?」


 シリウスはニヤリと笑った。その目は魔界の魔王を見ているのではなく、勇者村(サンダリット)の仲間を見るかのようだった。自信と信頼に満ちた視線だ。


「それって、教会に欠片が埋められた()()()いたから?」


 勇者が自ら向かうのは、それが理由だろうとライラヴィラは予想した。


「ご明察ぅ。衛兵ならまだ分かる。だが王家直属の騎士までとなると、話が変わってくる。人間ヒューズの国トラヴィスタは、まだそこまで教会の影響は及んでなさそうだが、巨人族(タキラ)のダヌトゥムナは——ヤバイねぇ」


 シリウスが腕を組んだ。アンジェラも彼と同じように腕を組んで溜息(ためいき)をついた。


「ちっともゆっくりさせてもらえないわねえ。さっさとお掃除済ませて、バカンスにでも行きたいわぁ」

「なるほど、サンユノア掃討か。ならば付き合おう。魔界を天主から守るためには必要なことだろう」

「私も行くわ」


 レグルスとライラヴィラは顔を見合わせた。

 

 四人はダヌトゥムナ城へ乗り込むための、城下町の宿で準備を始めた。勇者シリウスの顔で、宿のオーナーに広い部屋を用意してもらった。

 ライラヴィラは対になっている長剣二本、短剣二本、杖を一本、回復薬を念のため各種を魔導カバンの小型ポーチに押し込んでいく。


「もうツノもツメも、隠さなくてもいいんじゃね?」


 シリウスが頭にターバンを巻くライラヴィラとレグルスを見た。


「勇者と魔王の結託を見せるのもオツかもねっ」


 アンジェラも愛用の弓の調整を楽しげにしている。


「そう言うおまえらが勇者には全く見えん」


 レグルスが苦笑いした。彼は既に準備を終えて椅子に深く座っていた。丈夫で動きやすい魔剣士の装束姿だ。魔法で加工された戦闘服は見た目よりも頑丈にできている。黒髪に緋色の布が映える。


「魔王が攻めてきたって勘違いされるのは困るわ。大魔王の厄災は終わり、魔界は人界を害する意思は無いと、これから示していかなければならないのに」


 ライラヴィラはそう苦言を漏らしつつ、薄革のグローブをはめた。手元を保護するためでもあるが、これで魔族の黒いツメを隠すことが出来る。漆黒の装束は深い青の縁取りで彩られて、頭に巻いたターバンの端が長く垂れ下がる。青みがかった銀髪も相まって魔王の気品を漂わせた。


「まさか魔界(ダークガイア)の大魔王が、勇者と共に人界(ライトガイア)の城に尋問に来るとは、誰も予想せんだろうなぁ」


 シリウスは口笛を吹きつつ、道楽剣士から白銀装備の勇者へと姿を変えた。アンジェラも魔導師(ソーサラー)のとんがり帽子に膝丈のローブ姿である。


「では先を行くのは俺とシリウス、後方で補助魔法と打ちもらしの始末はアンジェラ。そして『欠片(かけら)入り』を潰すのが魔眼のあるライラだ」


 レグルスがそれぞれの役割を決めた。彼は勇者にも臆せず指示を出す。そんな魔王の態度に苦笑いして、勇者たちは了承した。


「目的はあくまでサンユノアのあぶり出しと、ダヌトゥムナ国王との直談判。戦うのは最小限にな」


 シリウスが自制を促す。四人で顔を見合わせて頷いた。


「サンユノアの親玉がどう出てくるかは、行ってみないと分からんからなぁ。まあ、このメンツなら何とかなるだろっ」


 楽観的な言葉とは裏腹に、シリウスは強い眼差しの厳しい顔になった。

 

 アンジェラの転移魔法でダヌトゥムナ城の正門前に到着した四人が並んだ。

 真っ昼間の勇者たちの登場は、街の人々を騒然とさせた。何事かと周りを遠巻きに囲む。街を守る衛兵たちも一斉に駆け付けたが、勇者を目の前にして全く行動できずにいる。

 

 ライラヴィラは闇と水で氷晶の二剣。

 レグルスは闇と炎の大剣。

 アンジェラは光と風で雷の弓。

 シリウスは光と土の金剛石(ダイヤモンド)の剣盾。

 それぞれの属性魔力をまとい、堂々たる正面突破が始まった!

 

 レグルスが初手、大剣を振り下ろして門を吹き飛ばす。


「抵抗しなければ何もせん! 王に会わせろ。道を開けろ!」


 彼は烈火の大剣デュランダルを構えつつ、立ちはだかる巨人族(タキラ)の兵たちを(にら)む。

 魔王の宣言を合図にシリウスが前面に立ち、向かってくる者たちを光魔力で一気になぎ倒す。

 後方のアンジェラが弓を構えて光の矢を注ぐ。

 ライラヴィラは全員に防御魔法(シールド)(まと)わせて、欠片(かけら)のある者を魔眼で探そうと広く見渡した。

 

 四人はその体制で前へ奥へと進んでいく。

 衛兵も、騎士も、魔導師(ソーサラー)も、誰も彼らを止められない。


「殺すなよ!」

「分かってるわよぉ」


 レグルスが後方のアンジェラに言うと、彼女は面倒そうな返事を返してきた。


「少し怪我させるのは仕方ねえかなぁ、後で治してやるよ」


 シリウスも急所は外しつつ、兵士たちを遠慮なくなぎ倒す。


「数が多すぎる、みんな構えて!」


 ライラヴィラは真紅の魔眼の力を上げて、前方へ放った。


「ここを、通しなさいっ!」


 彼女の『覇者(はしゃ)の魔眼』の視界に入った者が、次々と倒れて気を失った。


「今だけ……ごめんなさい」


 ライラヴィラはできるだけ魔眼の支配力は使いたくなかったが、彼らの身の安全を考えると割り切るしかなかった。

 

 四人は兵士達の波を乗り越えていった。罠もあちらこちらに仕掛けられていたが、ライラヴィラの魔眼が全て見破り、解除されていく。

 そしてついに玉座の手前にある広間に到達した。奥に大扉があり、王家直属の護衛であろう鎧の騎士が立ち塞がる。巨人族(タキラ)ならではの体躯はさながら防御壁のようだった。


欠片(かけら)のある騎士が、三人もいるわ」


 ライラヴィラは更に詳しく、欠片を埋められた騎士たちを()た。

 今までは肩や脇腹、みぞおちなどだったのに、今回は——。


「三人とも、欠片は心臓にある……」


 彼女の言葉に三人は厳しい顔を見せた。

 騎士たちは正常な意識は無いようで、ただこちらの様子を見ている。


「本物の『鍵』の位置は心臓だものねえ、それに模造品も(なら)ったのかも」


 アンジェラがライラヴィラへ視線を送る。大魔王の『深淵の鍵』も施されているのは心臓だ。ただ守護者リリスである彼女の鍵は心臓と同化し溶け込み、その形は無くなっているが。


「確かに、そうだけど……」


 今までは魔眼で場所を特定し、そこを突いて欠片を壊すか、深淵(しんえん)の力で(つか)んで取り出すことで、欠片を埋められた人を解放してきた。

 しかし心臓となると、突くことも掴むことも出来ない。

 突然、強烈な光球が現れ、声が王城の広間に響いた。


「さあ、お手並み拝見といきますか、フフフフ」


 聞き覚えのある、その声——。


「クロセル! 何も知らない人に、欠片を施すなんて!」


 ライラヴィラは広間に高く浮かぶ、光球(ライトフレア)の中に見える人影を睨みつけた。レグルスと勇者たちも揃って身構える。


「彼らは自ら望んで施術を受けましたよ、ライラヴィラ」


 クロセルは誇らしげな声を発した。その圧に負けまいとライラヴィラも大声で言い返した。


「どうせ、騙したのでしょう!」

「私は真実しか言ってませんよ。この欠片を心臓に埋めたものが『光の大勇者』と()りうるのだとね」


 彼の笑い声が不気味に部屋中をこだまする。ライラヴィラは浮かんでいる光球(ライトフレア)を魔眼で見据えるが、溶けあうように影がうかがえるだけだ。


「再び魔界で大魔王が誕生した、間も無くこの城を攻めてくると告げたら、この者たちは()()()、勇者たる力を分けてほしいと言いました!」


 クロセルは勝ち誇ったように高唱を続ける。


「そして、あなたは来た! 深淵の大魔王! これは事実だ!」


 ライラヴィラは考えた。

 クロセルの言葉に惑わされてはいけない。

 自分は悪鬼アモンではないのだから。

 大魔王はもう人界に厄災をもたらさない。


「何言ってるんだ? ホンモノの勇者も一緒だぞ。あんたがサンユノアの親玉か?」


 シリウスが長剣を構えつつ問いかけた。


「勇者の称号に欠片(かけら)は関係ないはずよねぇ? あたし、称号なんて要らないって言ったのに、エライ人に押し付けられたもの」


 アンジェラも弓を構えた。


「俺だって魔王なのに、どこかの面倒な奴から勝手に勇者って認定されたな。魔族を勇者になぞ、迷惑な話だ」


 レグルスも大剣をクロセルの声のする方へと向けた。


「ライラ、おまえは三人の騎士から、欠片を取り除くことに集中しろ。俺たちが邪魔な奴は抑える」

「わかった、やってみる」


 ライラヴィラは二本の長剣を魔法で魔導ポーチへとしまい、大きな宝珠の入った杖をポーチから召喚した。

 両手で杖を構え、胸元の深淵の鍵を開ける。そこには虹色の円環の紋章が浮かび上がった。

 ライラヴィラの前にレグルスとシリウスが立ち、彼女の隣にはアンジェラが弓を構えた。


欠片(かけら)()()()たちよ、勇者ニセモノを片付けてしまいなさい!」


 クロセルが命ずると、三人の騎士たちが豪速で襲いかかってきた。

 そして影を内包した光球(ライトフレア)が一瞬(きら)めいたかと思うと、消えた。

 

 レグルスは騎士の戦斧を烈火の大剣で受け止めて、押し返す。

 光の盾でシリウスが騎士の振りかざした大剣を弾く。

 アンジェラは騎士の足元に光の矢を撃ち込んで威嚇(いかく)する。

 心臓に『光の欠片』を埋められた騎士の力は、これまでとは違って圧倒的で、勇者たちは防御するだけで精一杯だった。

 ライラヴィラは三人が騎士を止めている間に、常闇(とこやみ)の力を呼び起こした。


「突けない、掴めない、ならば——重力で引っぱりだす!」


 原点の賢者フォルゲルから学んだこと、そしてスペランザの侍女長ミリィから教わった、光と闇の知識を実践することにした。

 ——闇とは収束、光とは拡散だ。闇は引き込み、光は弾く。

 杖を媒体に魔力を貯め込み、常闇の重力球を生み出す。

 それは少しずつ膨れていく。(あか)い魔眼の視線で魔法術式を編み上げる。


「ライラ! まだかっ?」


 レグルスは騎士の攻撃を何度も受け止めながら、横目で彼女を確認する。

 三人の騎士は止まることなく、狂ったように止めどなく攻めてきた。

 レグルスが押され、シリウスが飛ばされ、またレグルスが前に立った。


「もう少し!」


 そのとき、人影を内包した光球(ライトフレア)が再び現れた。


「それは、邪魔ですね」


 クロセルが告げると、ライラヴィラが生み出した重力球へ向けて、彼方の天から発せられた光の刃を落とされる!


「危ないっ!」


 ライラヴィラは生み出した重力球を攻めてきた光の刃にぶつけた。

 天井が崩れ落ち、爆発的な轟音(ごうおん)が響く。

 衝撃で三人の騎士たちが部屋の壁を突き破って吹っ飛ばされた。

 ライラヴィラたちはシリウスが瞬間的に作った光の結界で衝撃を緩和され、なんとか飛ばされずに済んだ。

 その時、ライラヴィラが手にしていた杖にはまっていた宝珠が砕け散った。


「ああっ、光の刃と重力球、両方の威力に耐えられなかった——」


 シリウスは光の盾を構えて結界を張り、それを支えた時に衝撃で白銀の鎧があちこち欠けて、全身が傷だらけになっていた。


「ふうっ、今回はなんとか、大魔王を……」


 (つぶや)いたシリウスが膝をついた。


「おいっ!」


 レグルスがシリウスに駆け寄って、彼を支える。


「そうか、分かりましたよ。あなたはかつての大魔王ディオトリーと絆になった、禁忌の勇者でしたか」


 クロセルから思いがけない言葉を聞かされた。


「禁忌って? 絆……?」


 ライラヴィラは動揺した。絆って、まさか……真紅(しんく)の絆?

 だからシリウスは絆の指輪も、リリスのことも知っていた?


「絆に禁忌なんて、ないわよっ!」


 アンジェラが無数の矢をクロセルを包む光球(ライトフレア)に射った。しかし矢は全て溶かされてしまい、光球(ライトフレア)も何度か(きら)めいて消え去った。


「いったん撤退しましょ、これ以上は無理だわ」


 アンジェラは大きな転移魔法陣を広げたかと思うと、高速発動させて四人まるごと移動させ、ダヌトゥムナ城から脱出した。

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