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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第十五話 勇者たちへの賛歌
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15ー1 久しぶりに人界へ

 魔導城郭都市スペランザの魔王、ライラヴィラの執務室では春の花祭り(ベルディ)について話し合われていた。

 財務官長コルネリアと調理長オイゲンにも入ってもらい、どの程度の規模で開催できるかなど、従者の皆が意見を出しあった。


「目玉品は、人界の何かがあると面白いですなぁ」


 オイゲンからの意見が出された。


「しかしまだ人界との公式な和平協定や、貿易協定が結べる状況ではありません」


 侍従長ベルントが魔王の従者たちに現状を説明する。

 彼の言う通り、人界軍が撤退してまだ半月と少ししか経ってない。魔界の各国との調整もこれからといったところで、人界のものを入れるのはかなり無理がありそうだった。


「久しぶりにお里帰りされますか? 陛下」


 侍女長ミリィが進言する。

 ライラヴィラは今では深い仲となった魔王レグルスに見つからないよう、身を隠そうとして人界へ一度逃げて以来、全く向こうへは行ってなかった。


「向こうのことは気になるけど、わたしひとりで国家間の和平協定や貿易協定は無理があるわ。わたしは人界では勇者村(サンダリット)の修行者で、ただのダークエルフだから」

「そんな大袈裟なことをなさらずとも、地道に少しずつ広げるのも手です」


 ベルントの意見を聞いて、非公式に少しずつ動くのも良いかもと、ライラヴィラは考えた。

 ──ふたつの世界の和平。それは魔王とライトエルフの間に生まれた自分の務めのようにも感じられる。

 双方に流された血の歴史と積み重なった怨嗟(えんさ)。それらを闇の守護者として「終焉(しゅうえん)」へと導くのが、リリスである私がいる意味なのかもしれない。


「では一度あちらへ行ってみる。何かしらの情報も欲しいから」


 今後も準備を進めるとのことで、会議はお開きになった。

 

 従者たちが全員執務室から出て行き、ライラヴィラは少し背伸びをした。

 ——魔界で国単位のお祭りを開くのに関わることになるなんて。

 慣れない施政や経済関連の事は、まだまだ勉強中。


 育ての親である賢者フォルゲルからは、魔力の扱いや魔法術だけではなく、歴史文学に政治経済ほか、幅広い教育を与えられていた。それでも全然至らないと、日々学問にも取り組んでいる。

 

 ライラヴィラの身に施している『闇の深淵(しんえん)の守護者リリス』の力を制限する秘術『三つ巴の封鎖』は上手く機能していた。

 ただし封鎖には限界があった。時々ガス抜きのように術を解かないと、突然封印が消え、反動で力が(あふ)れて常闇(とこやみ)覇気(はき)が暴走してしまう。


 守護者リリスの(まと)う覇気はライラヴィラの身に宿した『闇の深淵の鍵』、彼女の心臓と同化したそれの安全装置のようなものだ。覇気があることでリリスの肉体が平常に保たれ、守られている。

 それほどまでに『闇の深淵』のエネルギーは莫大である。

 なにせ魔界という世界全体を支える根源なのだから。

 

 人界に行く前にリリスの封鎖をかけ直すため、人の寄り付かない深淵近くの森、(あか)き誓いの谷のはずれへと魔法で移動した。中は誓いを立てる時しか入れない。

 人の気配がないのを確認して、ただの魔族から守護者リリスへと『戻る』。


 ──時々はリリスでも身体を動かさないと。


 ライラヴィラは姿を戻すと短剣を何本も取り出し、曲芸のような訓練を始めた。同時に五本の短剣を宙に投げて受けて、時々飛ばしては魔力で手元に戻す。

 リリスの身体はツノが大きく伸びていて、背丈に広がる漆黒の二枚羽根に細長い尻尾まである。普段の小さいツノの魔族の姿とは全く違うため、身体に慣れるまでは苦労した。

 

 生い茂る草を踏み進める、誰かの足音が聞こえた。

 ソレイルヴァの魔王、レグルスだった。

 彼の気配を受けてライラの『真紅の絆』の証たる指輪に紅き光が灯る。


「もうリリスの身体の扱いは完璧だな」


 ライラヴィラは彼の方を向いた。今日のレグルスは軽装の冒険者のような姿で現れた。ただ黒髪から生える黒い立派なツノと金の瞳が只者ではないのを示す。彼が強い魔力を秘めていることを隠さない。


「あなたのおかげよ」


 彼女は短剣をしまった。彼の方へと歩み寄り笑顔で応えた。


「リリスの気配がしたから寄ってみたが。少し調整するか」


 レグルスはライラヴィラの左手を自分の右手で取った。そして彼の左手が彼女の手の指先を摘まむ。彼女も自分の手に視線をやった。

 彼の左の薬指にある紅いルビーの指輪が光を放つ。

 彼女の左の薬指にある金のトパーズの指輪が応えるように光を放つ。

 二人の魔力が繋がり、ライラヴィラからレグルスへと力が少し移った。


「うん、これくらいで大丈夫」


 ライラヴィラが(うなず)くとレグルスはそっと手を離した。


「相変わらずの魔力だな」


 レグルスはその感触を手を握ったり広げたりして確かめる。


「絆の指輪に、こんな便利な機能があったなんて。ビックリね」


 ふたりは互いを強く想うゆえに魔族特有の紅化(こうか)が発現し、ここ紅き誓いの谷で『真紅の絆』の儀式を行った。特殊な魔導具である絆の指輪に魔力を込めて交換し、誓いの口づけをして魔力の根源たる精霊の認めし相方となったのだ。

 それからは互いの持つ魔力を交換したり、お互いの居場所を知りたい時に常に感じられるようになった。


 魔力の調整が終わったので、ライラヴィラは『三つ巴の封鎖』を再びかけて、普段の小さなツノの魔族になった。封鎖をかけた姿は一般人から見ると弱い魔族にしか見えないし、秘めたる莫大(ばくだい)な魔力も相当な能力者でないと見破ることは出来ない。


「わざわざ封鎖をかけ直すということは、人界にでも行くのか」


 レグルスが()いてきた。


「私は随分サンダリットに行ってないし、あの戦いの後、どうなったのかこの目で確かめたいから」

「俺はソレイルヴァでの花祭り(ベルディ)の準備があるし、そのあとの予定もあるから今回は行かんぞ。でも何かあれば連絡を寄越せ」

「わかった」


 ふたりは目が合うと軽い口づけをした。レグルスが彼女の頭をそっと撫でる。ライラヴィラは彼の腕に手を添えた。


「リリスになった時に居場所に困ったら、俺の王宮の離れの棟を勝手に使えばいい。あそこはソレイルヴァ代々の魔王とその連れあいしか使えんから安心しろ」


 そう言うと彼は転移魔法で消えた。

 ライラヴィラは彼が言ったことを頭の中で復唱した。


 ──連れあいって、あっさり言うのね。

 それが嬉しいけど、そう言われるのにまだ慣れなかった。

 

 

 

 翌日──。

 ライラヴィラは魔界の資材や素材を魔導カバンになっている大きなリュックにありったけ詰め込み、予備の魔導トランクもカバンに収納する。魔剣も収納し、護身用の短剣一本だけ腰に差して、城の地下にあるミラリスゲートを抜けた。


 今日は人界側ゲートのすぐそばに住んでいる大賢者ハニンカムに会っていこうと、彼の住居に立ち寄った。

 いつものように紅い瞳の白い子どもが山頂で立っている。


「先日は、ありがとうございました」


 ライラヴィラは先日のレグルスからの逃亡劇をやったときに、彼がそっと言葉を送ってくれたのを忘れてなかった。

 自分に嘘をつくな、と。


「そなたは素直そうに見えて、なかなかの意地っ張りだからな」


 ハニンカムは柔らかい笑みを見せた。


「頑固だって、言われます」


 ライラヴィラは苦笑いした。


「リリスよ、『闇の深淵』はそなたのおかげで安定した。そうそう常闇の嵐が起こったり、闇の侵食が溢れることはなかろう」

「それは良かったです」

「悪鬼アモンの大魔王は、もう生まれない。悲劇は終わったのだ」


 二人は山岳地帯の風を受けた。ライラヴィラの青みを帯びた銀髪が揺れる。


「ただ……『光の原点』が震えておる」


 ハニンカムは眉を歪めた。


「今はまだ時が来ておらぬが、いずれリリスのそなたに力を貸してもらわねばならぬ。今度は『光の原点』を守るためにな」

「私が、ですか?」


 ライラヴィラにはよく分からなかった。

 深淵の守護者の自分が、原点にまで関わりがあるのは何故だろう。


「うむ。そなたにしか、出来ん」


 それ以上、ハニンカムは答えてくれなかった。


「行くべき所へ、行かれよ」


 彼は目の前の魔族に先へとうながすと、建屋に入ってしまった。

 ライラヴィラは疑問だらけで気持ちが落ち着かなかったが、仕方なく転移魔法で勇者村サンダリットへと移動した。

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