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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第十二話 ライラヴィラの願い
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12ー4 告白

「なあ」

「あの」

 

 静まり返った玉座の間で同時に声を発した。


「あっ、どうぞ」


 ライラヴィラは急にレグルスとふたりっきりになってしまい緊張した。誰もいない広間はふたりだけで居るには広すぎて、声が遠くに吸い込まれて自分の心もすべて見失いそうな錯覚がする。


「こんなところで立ち話も何だが、まあいいか」

「うん……」


 ふたりはお互いの顔を見られず、並んで大魔王の玉座を見ていた。

 ライラヴィラは思い切って彼に語りかけた。


「魔界と人界、激しい戦いになってしまったけど。もっと仲良くできたらいいのに。悪鬼アモンの歴史を乗り越えていけたら……」

「今回のはよく分からんが、人界の一部の悪意ある奴の反乱だろう? 時間が経てば、また行き来できるようになるさ」


 レグルスが応える。その声が優しく自分を包み込んで守ってくれてるような気がして、彼女は安心して話を続けた。


「クロセルを追いかけて人界に転移した時、サンダリットの爺さまに少しだけ会ったの」

「あの頑固ジジイ、何か言ってたか?」

「彼方にうごめく黒きもの、それに一矢報いてやれって言われて。それで私、一発だけど光の(やいば)(とら)えて返してやったわ」

「やるじゃないか」

「まだよく分からないけどね。あとは……この姿でいきなり村に降りたから、ビックリさせるなって叱られてしまった」


ライラヴィラは両腕を少し広げて背中の羽根を数度動かして見せる。


「生えたものを引っ込めるのは無理だろうに、ハハッ」

「そうね、あの時はただ無我夢中だったら、ふふふ」


 二人は笑いあったあと、またしばらく黙った。

 ——彼に何を言えばいいのだろう。これからのこと? それとも——。

 ライラヴィラはまた緊張してきて、胸で脈打つものが少し早くなった。

 沈黙を破って口を開いたのはレグルスだった。


「あのさ、あの戦いの時に言ってたこと。俺、意識朦朧(いしきもうろう)としてたし、もう一度ちゃんと聞かせてくれないかな」

「え? 何のこと?」


 ライラヴィラもあの時は必死だったので、どのことだろうかと考えた。


「いや、その。俺に……輝いて、ナントカカントカ」

「!」


 ライラヴィラはすぐに思い出した。

 心臓の鼓動がどんどん速くなって耳の奥にまで感じ取られる。

 勢いで……彼に想いを告白してしまっていたのだから。


「あ、あなたこそっ! どさくさに紛れて、私に、そのっ……」


 半ば強引に彼に抱きしめられて、口づけされたことも思い出してしまった。


「ああしないと、おまえ、常闇(とこやみ)の力を使うの、止めなかっただろ」


 レグルスが横目でライラヴィラの顔を覗く。彼の視線を感じたがその声は平静な調子だったので、ライラヴィラは複雑な気持ちになった。


「お、男の人とキスなんて、したこともなかったのにっ、酷いわっ」


 ライラヴィラは自分が言った言葉にまた恥ずかしさがよみがえり(うつむ)いた。あのときの唇の感触は熱かった。


「でも俺は本気だ。あれが、俺の気持ちだ」


 彼はそっとライラヴィラの肩に手を置いた。


「だから聞かせて欲しい。あの時、俺に言ったこと」


 ライラヴィラはそっと顔を上げる。


「本当は覚えてるんでしょ?」

「いや? だから念のため確認をしておきたくてな」


 おそるおそる彼の方へと向いた。いつになく優しい表情に見える。


「うそ、覚えてるのに言わせたいんでしょうっ」

「聞きたいな、もう一度」


 ライラヴィラは自分を見つめる彼が相当意地悪だなと思いつつも、観念して告げた。


(まぶ)しいあなたが好きだって、言ったの」


 そして彼の瞳から目を逸らした。

 金色で全身が熱く貫かれそうで、彼を見ていられなかった。


「ありがとな」


 レグルスはライラヴィラの頬に手を添えて自分の方に顔を向け、唇にそっと軽く触れるような口づけをしてきた。彼の顔を見られなくて瞳を閉じた。


「返事も聞けたし、俺も自国のことがあるから、一旦帰る」


 レグルスはいつもの満足気な魔王の笑みを浮かべて、転移魔法で消えた。


「もう、ずるいわ……」


 ライラヴィラは唇から再び広がった熱い気持ちを抱えつつ、自分の執務室へと戻った。



 ◇ ◇ ◇



 激しい戦いのあった、翌日。

 ライラヴィラはひとり、人界の辺境に住む大賢者ハニンカムの元を訪れていた。

 彼は大魔王が来るのを分かっていたかのように、そこにたたずんでいる。


「来たな。深淵の守護者リリスよ」

「色々お尋ねしたいことがあります」


 ライラヴィラの黒い羽根が山を吹く風に揺れた。


「申せよ」


 ハニンカムは微動だにせず、そこに立ったままだ。


「ミラリスゲートが二箇所、壊れてしまいました。このような事態にどう対応すれば。まさかゲートを壊す力のあるものが存在するなんて……」


 ライラヴィラの動揺に協調するように風が彼女の銀髪を撫でてなびかせる。


「そうだな。ゲートは人界と魔界を繋ぎ、双方の『光の原点』と『闇の深淵』の力を循環させる機能がある。そもそもそちらが主たる機能で、二つの世界をヒトが行き来できるのはオマケと言ったところ」

「そうなのですか!」


 彼女の認識ではゲートとは二つの世界の通り道だった。しかし大賢者が言う『原点と深淵の循環』とは、亡くなる直前に父から聞いた話と一致している。


「つまりは。二つの世界に干渉しようとする存在があるということだ。これは覚えておくがいい」

「はい」


 ——だから両親は二つの世界を護るために命を賭して行動したのか。

 心の隅に引っ掛かっていた疑問がひとつ解けた気がした。

 ライラヴィラはもうひとつ尋ねた。


「壊れたゲートは復活出来ませんか?」

「それは無理だ。今あるゲートで何とかするしかない」

「そう、ですよね。人知を超えた力だろうし……」


 ハニンカムはがっかりしたライラヴィラに柔らかな笑みを浮かべた。


「そなたにひとつ、褒美でもやらんとな」

「えっ?」

「そなたはようやく誕生した二人目のリリス。様々な困難を乗り越えて到達した、その努力と勇気と、人を想う優しさに敬意を()って。なにか願いを叶えよう」

「願い、ですか」


 ライラヴィラは少し考えた。

 ——大賢者はゲートの管理人。ということは、もしかして。


「スペランザ城の地下のゲートと、ここのすぐ近くにあるゲートを、()()()()()繋ぐことは可能ですか?」

「ほう? 面白いことを言うな」


 ハニンカムは口の両端を大きく上げた。


「ゲートが不安定だと、人界と魔界の交流が安定しません。私は二つの世界の混血です。だから、二つの世界が仲良く交流できたら。そのためには安定した通行が可能なゲートが必要です」

「場所は、そなたの城と、そこの辺境のゲートで良いのじゃな?」


 ライラヴィラは頷いて答えた。


「はい。魔界側は私の目が届きますし、人界側は無闇に人が出入りする危険性もありますから、あえて辺境のこの地のものが良いかと。ハニンカムさまのおうちの近くですし」

「うむ。いい考えじゃ。では繋ぐかの」


 ライラヴィラはハニンカムから手助けが必要と聞いたので、一度魔界のスペランザ城地下にあるゲート前に戻った。

 ゲートを見ると、向こう側にハニンカムの姿が見える。


「そなたのリリスの力を魔界からこちらへ注いで繋ぐと良い。我が受け止めてゲートの流れを固定するからの」


 ハニンカムが向こう側から話しかける声が聞こえた。

 今までは魔眼の力で向こうの景色が見えていたが音は聞こえなかったので、これがリリスの力なのかと実感する。

 ライラヴィラは自らの心臓に秘められた深淵の鍵を開いた。

 虹色に輝く紋章が胸元に浮かびあがり、中心からゲートに向かって光の螺旋らせんが伸びていく。

 ハニンカムがそれを掴み、向こう側で何やら作業をした。


「よし、そちらも(くく)りつけると良い」


 ライラヴィラは自分の胸元から伸びる光の螺旋を掴み、深淵の紋章からちぎり取って門柱全体に回し括りつけた。

 虹の光が編み込まれて輝きを放つ。


「よし! 通路は固定された。これはそなたがリリスになったからこそ出来たこと。強固な繋がりになり、あの天主もそうそう手出しはできまいて、フフフ」

「ありがとうございます!」

「礼には及ばぬ。良い事をした」


 そしてハニンカムは人界側のゲート前から立ち去って、姿が見えなくなった。

 

 ライラヴィラは臣下たちに地下のミラリスゲートの行き先が固定された事を告げた。各国の魔王にも親書を送り、これからの人界との交流について協力し合う約束を取り付けた。


「あとは人界側ね。少し時間を取って考えよう。焦っちゃだめ」


 ライラヴィラは魔族も人間もゲートを通じて手を取り合い、平和で豊かに暮らしていく未来を願った。

これにて第二章【大魔王と勇者】完結です!

第三章【真紅の絆】は番外編を挟んでのスタートとなります。

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