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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第十話 戦の足音
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10ー3 勇者の現状

 ライラヴィラとレグルス、そして人界から訪れていたアイリーンは揃ってミラリスゲートを抜けた。

 見覚えのある光景が広がっている。そこはライラヴィラが初めて魔界へ訪れるために通った、大賢者ハニンカムの住う辺境の山岳地帯だった。雪に埋もれて太陽から注がれる光が反射する。


「ゲートの向こうにこの場所が映し出された時、行けると思ったわ」


 ライラヴィラは振り返ってゲートを魔眼で見つめると、スペランザ城の地下が映し出されているのを確認する。


「ハニンカムさまのところに寄りましょう。ここに着いたというのは、きっと意味がありそう」


 ライラヴィラはレグルスとアイリーンに提案し、揃って大賢者の家に向かった。


「来たか。入るがよい」


 またしてもハニンカムは家の前に立ち、ライラヴィラたちが来るのが分かっていたのように極寒の中でひとり(たたず)んでいた。

 全身が白い姿で冬景色に溶けているようにも見えた。ただ(あか)い瞳が彼の存在を知らせる。


 三人は彼に促されて石造りの大賢者の家に入った。外側は凍っていたが家の中は炎魔法による暖房がよく効いている。床に並べられたクッションの上に座ると、ライラヴィラとレグルスは顔を覆い隠していたマスクを外した。アイリーンも猫耳を覆うように被っていた防寒用の帽子を脱ぐ。


「戦の足音が聞こえるな」


 ハニンカムが口を開いた。つぶらな瞳はまばたきもせず、訪問者ではなくどこかを見つめているようだ。

 その言葉にアイリーンが問うた。


「人界が魔界を攻め入るのは、止められないということですか?」

「おそらく」


 ハニンカムは一言、答えた。彼は微動だにしない。


「人界、ライトガイアと、魔界、ダークガイア。双方の世界を超えたものが遥か彼方でうごめいておるからな。前に言うただろう? 今は解決不可能な問題と」


 そして彼は以前にも出してくれた、甘味のある茶を飲んだ。三人も彼が淹れてくれた暖かい茶を口にする。


「うーむ。変わらぬ味かと思いきや、少し風合いが変わったかの」


 大賢者の人形のようだった表情が動き、眉間にシワが寄る。


「解決不可能な問題、これを解決に導くもの……その音色も聞こえるかの」

「それをはっきり教えてくれよ」


 レグルスは腕を組んで彼を見据え、言葉に苛立ちを隠さない。


「そなたの友人であったザインフォートも言うたであろう? 未来を知りすぎると不幸になるというのは、知ることで未来が変わることが多々あるからだ」

「なんで、それを……」


 レグルスは困惑した。


「ザインフォートは『遠望の魔眼』ゆえ、ここにも時々来ておった。それ以上は言えぬ。精霊の意思に見られているからの」


 ライラヴィラが二人のやりとりを聞いていたが、何を尋ねるか考え抜き、ひとつだけ彼に訊いた。


「今、私たちがするべきことを、教えてください」


 ハニンカムはニヤリと笑った。


「ライラヴィラよ、良い質問だ。そうだな……思うように()せ、と言うておく」


 ハニンカムが立ち上がった。


「絆の子らよ、今は行け。次に会うときには、もう少し違うことも伝えられよう」


 三人はハニンカムの家を後にし、マスクを再び着けてライラの転移魔法で一緒に勇者村(サンダリット)近くの森へと移動した。



 ◇ ◇ ◇



 到着した森はライラヴィラとレグルスが初めて出会った場所だった。

 まだ春は遠く、向こうに見える湖岸には雪があちこちで積もっている。


「村は今、サンユノアの連中が取り仕切ってるの。私は今は教団に追われてて行けないし。そうね、ジョルジュ先生に連絡するかな」


 アイリーンが水魔法で蝶のようなものを作り、そっと飛ばした。


(じい)さまとは連絡が取れないの?」


 ライラヴィラが尋ねると、アイリーンは目を伏せた。


「フォルゲルさまはムートラカジ城のどこかで軟禁されてるわ」

「え! まさかっ!」


 ライラヴィラはジェイドから(おきな)は大丈夫だと聞いていたので驚いた。

 ——軟禁とは、ただ事ではない。きっと教団の仕業だろう。

 しばらくすると足音がふたつ聞こえてきた。


「誰だ?」


 レグルスが拳を握り、身構える。


「リーン! 無事だったか!」


 こちらへ駆けてきたのは鍛冶師のマナリカだった。

 彼女の後ろからはサンダリット治療院の院長、ジョルジュも歩いてくる。


「アイリーン、よく帰ってきてくれた。マスクのふたりはライラヴィラと以前会った魔族か?」


 ジョルジュが皆を森の奥にある小屋へと案内すると言うので、三人は彼についていった。道の無い樹木の間を進んでいくと丸太を組み合わせた木造建屋が現れる。小屋の壁には緑のツタが絡み、少しコケも生えていた。


「ここは村に昔から居るものしか知らんから、安心していい」


 案内してくれた院長に言われてライラヴィラとレグルスはマスクを外した。全員が揃って小屋の中に入り、まずは冷え切った室内で過ごせるよう暖炉に火を入れる。


「ライラだ!」


 マナリカが満面の笑みを見せてライラヴィラに抱きついた。


「どうしてるかと思ったよ! 知らない間にあたしの友達が大魔王って、ヘンな感じだよっ」

「本当は会いたかったけど、あの騒動で会えずに帰ったから」


 ライラヴィラも抱き返しつつ応えた。

 マナリカがライラの隣に立っているレグルスを見た。


「えーっと、こちらのオトコマエは、どちら様?」

「あ、マナリカは会ったことなかったね。魔界の魔王のうちのひとりで、レグルスよ。ついてきてくれたの」


 レグルスは無言でマナリカに視線を向けた。


「魔王! ということは、ライラの子分?」


 その言葉にレグルスが顔を歪めて怒鳴る。


「俺は従者ではないぞっ! 大魔王と『盟約の(くさび)』で結ばれし同志ってところか」

「ふふーん……」


 マナリカがライラヴィラとレグルスの二人を交互に見た。興味津々といった表情に変わり、思ったことをハッキリ口にしてくる。


「魔王って知らなきゃ、彼氏彼女って風にしか見えないな、怪しいぞ君たち」

「え! 違うわよっ」

「いきなり何を言う」


 ライラヴィラとレグルスは否定したまま、互いの顔を背けて黙り込んだ。


「確かに、怪しいってのは同意だけど、そうでもなさそうかな」


 アイリーンがふざけ気味のマナリカに視線を送り、やんわり間に入った。


「今こちらがどうなってるのか、詳しい話をするね」


 その場にいた全員が暖炉の前に座り込み、冷えた身体を温めながらアイリーンの話に聞き入った。

 


 ——光の教団サンユノアが研究していた物質『光の欠片(かけら)』。

 それは人界を支える『光の原点』の力と繋がるもの。

 光の象徴である、闇の大魔王を討伐せし『勇者』に与えると、絶大な力をもって闇を滅ぼすことが出来るという。

 

 その光の欠片を当代の勇者であるディルクとジェイドに複数の国家の(めい)()って施術された。

 ディルクは力の代償として記憶を失ってしまい、今は教団にいる。

 ジェイドは拒否したのだが、囚われて施術されてしまい、その後は不明。

 アイリーンはジェイドを助け出そうと城に潜入したものの、教団の僧兵に逆に囚われそうになり、なんとか逃げ出した。

 

 光の欠片の施術に反対した賢者フォルゲルは、各国の命に逆らったとして騎士団に囚われたあと、ムートラカジ城に軟禁されている。

 勇者を育てた賢者ということで、その身の安全は保証されてるが。

 各国の国王や大臣他の状況は分からない。

 ムートラカジの騎士団はサンユノア教団の下で動いている。

 


「いつの間に、サンユノア教団は人界の国々を乗っ取ったの……」


 ライラヴィラは半年も経たぬうちに何が起こったのか、理解し難かった。勇者村サンダリットは人界のどの国にも属していない、いわばミニ国家のような立ち位置だったからだ。そのサンダリットが各国の都合で振り回されている。


「ずっと前から狙っていたのであろう」


 ジョルジュが肩を落として暖炉を見つめて呟く。


「そして悪鬼アモンとなった大魔王が現れるのを待ち、これを契機に水面下で準備していたことを表面化させた、というところか」

 

 ジョルジュの話は続いた。

 

 サンユノアの裏に何か強大な力があると賢者さまは(おっしゃ)っていた。

 そうでなければ、このような反乱は起こせないと。

 光の欠片(かけら)が完成したことで、教団が変わった。

 そしてアモン襲来により誕生した『勇者』に狙いを定めたのだ。

 

 教団は光の欠片を埋められた勇者を使って、魔界を征服、あるいは滅ぼす気なのだろう。

 これまで人界は魔界や魔族に直接手出しはしてこなかった。

 なぜなら自分たちは大魔王アモンのようにはならないという、自負と誇りがあったからだ。


 しかし今、人界を支える『光の原点』の力がなぜか弱まりつつあり、人界が不安定になったことで、サンユノアが陰で各国に揺さぶりをかけて不安を(あお)り、魔界に手を出させるように仕向けたのだ。

 


「無意味な戦いを、止めなくては」


 ライラヴィラは拳を握りしめる。そしてサンダリットの皆の方へと向いた。


「魔界は、少なくとも大魔王(わたし)は悪鬼アモンの悲劇を終わらせるために動いてるの。人界を攻める気など全くない。そのためにまず、爺さまと勇者たちを解放しないといけない」

「これは俺も、魔王として黙っていられない事態だな」


 レグルスもライラヴィラに頷いた。


「今夜、城に潜入して、早く助け出しましょう」


 その場の全員が頷き、救出計画を立てることになった。

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