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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第十話 戦の足音
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10ー0 幕間 光の理想郷 side クロセル

 教団の拠点として空中要塞を手に入れて早三年。

 かつてここは魔源都市として栄華を誇った。しかし錬金術師どもが自由気ままに我を通したゆえ、内乱が何度も起きた。我々サンユノアが入り込む隙間が生まれたというわけだ。


「大僧正様、ムートラカジ国王との密約はどうなりましたか」


 私は自らの目的を果たすために世界を動かさんと民の信仰心を利用し、国家中枢に対する教団の影響力を増してきた。

 この大僧正は内に秘めた欲を利用するのにうってつけの奴だ。出世欲だけで教団内の地位をのし上がってきた魔力の低い無能。国王との密約を結ぶことはこいつの自尊心を満たす。自分こそが『光の原点』に認めらし、選ばれた者だからだと勝手に勘違いしてくれて表に出る。私としては人知れず、目立たず動けて都合がいい。


「ああ、クロセルか。大魔王ザインフォートを最後に厄災を止めようと、次の大魔王が生まれる前に魔界へ攻め入ることを決断してくださったぞ」

小人族(ドワーフ)は我々の手駒になりましたな。次は巨人族(タキラ)のダヌトゥムナ王家に餌を与えますか」

「そうだな。光の力を継いでるトラヴィスタの国王はやたら用心深いし、エルフの連中は頑固で他国との関わりを嫌うからな。あとは獣人族(キャラン)のほうも、いくつかの集落の首長と接触していこう」


 事実を何も知らない大僧正は呑気なものだ。

 私はその場を下がり、錬金術師どもの研究室に赴いた。

 ここでは人界を支えている『光の原点』の力を握る、あのお方のために働く傀儡(かいらい)を生み出すため、ある物質を作っている。物質と言っていいのか、意思のない生命体のようなものか、あのお方からの知識から生まれたのは、光の精霊の力を行使する『勇者』を手に入れるためのモノだ。


「クロセル様、そろそろ生身の実験体を用意していただきませんと、これ以上の精錬は難しいかと」

「分かっている。AとSの居どころがまだ掴めんが、DとJは容易く接触できるだろう。『原点の賢者』が尻尾を見せんから、用心は怠るな」

「承知いたしました。近いうちに必ずや」


 私は計画がほぼ思うように動いていることを確認し、実験室を出た。

 

 ただひとつ、私の計算外だったことがある。

『光の申し子』のことだ。そう、ダークエルフのライラヴィラ。

 初めてあの者を見た時は(おぞ)ましき生き物だとしか思わなかったが、莫大な光魔力を秘めているのだと知った時、いつか利用してやろうと殺さずに泳がせていた。

 しかし、あれこそが私の夢の実現に必要なモノだと分かった時には遅かった。

 まさか精霊に邪魔されるとはな。


 あのダークエルフに我々が作っているモノを施せば、世界は光の理想郷として昇華するはずだった。

 ところが先日サンダリットで見たあの者は『闇の深淵の鍵』を施され、大魔王と成っていたではないか。魔族のツノまで生やして、すっかり闇に()ちた。

 闇の精霊め、まさか『光の申し子』をあのような強引な手段を取ってまで手の内に置くとはな。

 それもこれも、あのお方に原点と深淵を渡さぬと足掻(あが)く奴らのせいだ。

 その一端をまさか大魔王ザインフォートが握っていたとは迂闊(うかつ)だった。

 

 私は施設内の自室に戻り、あの方からの贈り物を確認する。大きなガラスのフラスコの中に浮く、閃光を放つ不可思議なモノ。あのお方に忠誠を誓った証として与えられた。ここから『光の原点』に接続し、錬金術に必要なエネルギーを得たり、直接、莫大な光の力を行使することも叶う。


 私の目指すものはただひとつ。

 光と闇の繋がりを断ち、光の原点のみの世界を作り上げること。

 それこそが理想郷であり、全てが(かえ)る場所となる。ヒトが永遠の時を得て、宇宙の(ことわり)すら変えることが叶うだろう。

 

 幼き時に四代前の悪鬼アモンにより全てを失った私は、絶望の中でもがきながらも生き長らえた。

 ある日、あのお方の啓示を受けた。

 闇を完全に滅すれば、救われると。


 最初は半信半疑だった。この世界の構造など知らず、ただ何度も大魔王が悪鬼となって人界を襲ってくるのを勇者が止めるしかないと思っていたからだ。

 ただそれが果てしなく繰り返される。終わりなき厄災が当たり前の世界など、あってはならない。

 あのお方の語ることこそが真実だと、突きつけられた。

 ならば私は、あのお方のみに従い、あのお方の理想を実現しようと。

 

「クロセル様、確認をしていただきたく」

「何だ?」


 自室の扉を開けると、尋ねてきた錬金術師が立っている。


「人体実験の結果が芳しくないようです」

「勇者になりたいと自ら申し出た者たちではなかったか?」

「はい、そうなのですが」


 私は再び実験棟へと赴いた。

 我々が作り出したモノを施した人間が三名いる。彼らは錬金術を施す入れ物に入っているのだが、人の大きさの円筒から異様な閃光が幾筋も弾けている。

 ——これは暴走寸前だ。下手すると施設ごと円筒が吹っ飛ぶ。


「むむっ、これは。全員、伏せろ!」


 私は中身が入ったまま、全ての円筒を魔法で浄火した。

 中の実験体は全員、死亡。肉体は完全に燃やし尽くされて骨も何も、跡形もない。実験器具の金属も溶けて元の形が全く分からなくなる。


「光の元へ(かえり)し者たちよ、そなたらの願いは彼方で果たされよう」


 私は僧侶としての鎮魂の祈りを捧げる。彼らは先に彼方の光へと導かれよう。いや、次の実験の糧になるのが本当のところだ。おまえらは運が無かったな。


 勇者になりたいと言う連中は名誉と称賛が欲しいだけだ。その称号を与える仕組みは国家が人の欲につけ込んだカラクリ。本当に勇者になりたくてなる奴などおらん。精霊の意思が関わるからな。

 あのサンダリットの集落も候補者たる者を集めているだけで、実際は精霊の意思がそこへと至らしめる。あの賢者はそれを承知で勇者村を運営している、食えない奴だ。


「クロセル様! こちらへ!」


 別の棟へと呼ばれ、再び足を運んだ。

 そこには実験体が二名。こちらの円筒の輝きは均等に広がっている。


「出力を先ほどよりもほんの少し抑えました。あとこちらの方が魔力の高い個体でして」

「今度こそ、結果が出そうだな」


 やがて光が徐々に減っていき、円筒が技師たちにより開けられた。

 私はすぐに魂魄掌握(こんばくしょうあく)魔法を二人の実験体に施す。我々の作り出したものを施した個体は意識が混濁して何をするか分からないからだ。


「ついに、我らの、サンユノアの勇者が生まれた」


 そう、あのお方の知識から生まれた物体を施された、光の力を発現せし者たちが、今ここに現れた。


「丁重に扱え。意識は支配した」

「はい、仰せのままに」


 私は後のことは信徒たちに任せて、その場を離れた。

 

 自室で私はあの方より賜りしモノ、フラスコの中に入っている閃光をついに飲み込んだ。そう、この時が来たのだと。

 光の原点から直接、力を行使する能力を得る。

 ただこれも、一時のものだ。

 我々が作り出したあの欠片も、所詮は紛い物。


 先ずは本物の勇者を手に入れる。精霊の意思とやらにどこまで抗えられるかの実験をせねばならぬからな。

 そして、あの方より知らされた存在、闇の深淵の鍵の()()()()()()を手に入れること。

 それこそがこの世界を光の理想郷とするために必要なものだ。これが実現できれば何をやったっていい。全ての生きるものがあの方の元に集う。

 その時に私は真に救われるのだ。

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