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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第七話 帰郷そして別離
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7-5 帰還

 幻獣ロイは二人を乗せて、人界の高い空を飛び続けていた。


「落ち着いたか」


 レグルスがライラヴィラを膝の上で抱いたまま、声をかけてきた。


「そろそろ三日目だから迎えに来ただけだったんだが、間に合って良かった」

「来てくれてありがとう。そして、ごめんなさい」


 ライラヴィラは大魔王だと絶対バレてはいけないとレグルスから忠告されていたのに、結局サンダリットの勇者達にバレてしまったことを悔いていた。

 ——翼竜の魔物を無視して、さっさと村から出れば良かったのかもしれない。

 でもあの時、翼竜に対応できるのは私しかいなかった。

 傷つく村の人々を見捨てて去ることはできなかったのだ。


「どうせ、いつものお節介を発揮したんだろ」


 レグルスには見透かされていた。


「そうでなければ、おまえはもっと上手くやれる」


 そして彼は、そっとライラヴィラの頭を()でた。


「でもそこがおまえの良いところか。人を大事にする」


 褒められてるんだか(けな)されてるんだか、でもきっと慰めてくれてるんだろうとライラヴィラは感じた。彼の声が気持ちを落ち着かせてくれる。

 ふと、アイリーンが投げてきた水魔法のブーメランが気になり、リュックの中を覗いた。

 手紙が一通入っている。

 


『いつもの飲み屋で待ってる リーン』

 


「ねえ、悪いけど、トステルのはずれで下ろして欲しいの。リーンが待ってる……」

「リーンって、ああ、猫耳と尻尾のある奴か。あいつなら話が通じそうだな。行くか」


 レグルスは二つ返事で承諾した。


「我はそろそろ飛行の限界だぞ」


 ぼやく声も聞こえた。


「ロイ、もう少しだけ頑張って」

「仕方ない、承知」



 ◇ ◇ ◇



 すっかり日が暮れて夜の街に明かりが灯りだした。一日の仕事を終えて帰宅する人々の影が連なる。

 町はずれの数十軒集まった酒場近く、上空から人の気配が無いのを確認し、魔王たちは降り立った。幻獣ロイは(あるじ)の影に入って休んだ。

 ライラヴィラは予備のバンダナやグローブ、ゴーグルを取り出して身につけた。レグルスもいつの間にかツノをターバンで隠していた。魔族の姿を隠すと二人は繁華街へと足を進める。

 約束の店の中に入ると客はまばらで、木の板で囲まれた奥の席にアイリーンが一人で座っていた。目線が合うと手を振って合図してきたので、ふたりはリーンの向かいに座った。


「おまえって、飛空魔法や転移魔法は無いよな?」


 レグルスが疑問に思ってアイリーンに()いた。


「ここのすぐ近くに、利用料がちょっとお高いんだけど、サンダリットとトステル直通の常設転移魔法陣があるのよ。勇者村で修行に励むみんなの隠れた楽しみ。修行者の場に酒場は御法度という、建前があるからね」

「どこでも酒は辛抱できんか、ハハッ」


 レグルスが呆れるように笑う。最初に注文したエールが運ばれてきたので、三人はジョッキを片手に乾杯した。


「ディルクとジェイドは賢者様に呼ばれてるから来ないわ。まぁ来たいと言われても今は止めるけど。だって勇者と魔王が密会は……」


 ライラヴィラは口に指を当てて『シー!』と合図した。アイリーンはそれを見て猫耳を少し動かし、頭を()いた。


「村から人は来ないかな」


 ライラヴィラは周りが気になってそっと魔眼で見渡す。昼間あんな騒ぎを起こしたばかりだったからだ。


「今夜は教会の連中の、トークショーがあるからね、まぁ大丈夫でしょ」

「それって良いのか悪いのか」


 ライラヴィラは肩をすくめて苦笑いした。

 

 酒を飲みかわしつつ、魔界であった出来事をアイリーンに全て打ち明けた。

 自らの出自、実の父親に会えたこと、そして父の魔王の座を継ぐこと。

 深淵の鍵の宿主、大魔王になった経緯。

 身体に宿した鍵の力の影響で魔族になったこと。

 そしてもう人界には戻らないつもりだと。


「ライラの大きなリュックは、引越し荷物だったのね」


 アイリーンはライラヴィラの話に納得したようだった。おかわりのエールを飲んで笑みを浮かべる。


「ということは、ツノもあるのね?」


 彼女は席を立ちあがると座っているライラヴィラの横に立ち、バンダナをゴソゴソと覗いてみた。中を確認すると彼女のバンダナを丁寧に巻き直した。


「あるねぇ、ツノ。でも小さくて、なんだか可愛い」


 彼女の意外な言葉にライラヴィラは照れ臭くなった。怖いと言われると覚悟してたから。

 

「ライラ、翼竜の群れから村を助けてくれて、ありがとね」


 アイリーンは向かいの席に戻って頬杖をつき、ライラヴィラを見つめる。


「最近、村への魔物討伐の依頼が増えすぎて、それなりに戦える人はみんな出払ってるの。本来後方支援の治癒師(ヒーラー)の私が前線に立つこともあるくらいよ」


 ライラヴィラは今の村の様子が、すっかり変わってしまっていることは気になっていた。サンユノア教団の僧侶がうろつき、魔物と戦えないであろう者たちが大勢身を寄せていたからだ。


「村に大勢の人が押し寄せてるって、城下町でも聞いたわ。実は私も酒場で護衛依頼を受けて、まだ学び舎にいる年の子たちをサンダリットまで送ってきたの」

「ライラが討伐や護衛依頼を受けるのは、賢者様がダメって言ってたじゃない? そんなにお金に困ってたの?」

「地図を買ったりしてたら、人界のお金は使い果たしたの。換金できそうな物はあるけど、全部魔界産だから表立って売りにくくて。人界(こっち)の物は逆に魔界で全部換金してしまったから」

「どこでもお金事情は大変だぁ」


 ライラヴィラとアイリーンはお互いに視線を交わして笑いあった。

 護衛の話で、ライラヴィラはふと思い出した。


「そうだリーン、アルトって人を見なかった? 村に来る途中で一緒だったの。ちょっと怪しくて……かなりの手練(てだ)れだと思う」

「見てないわ。というか、もう人が多すぎて分かんない」


 話を聞いてたレグルスが首をかしげて腕を組む。


「ライラが怪しいって感じる奴は、気になるな」

「多分、姿を誤魔化す幻惑魔法を使ってた。私の魔眼のこと分かってたし、もしかすると彼も魔眼なのかもしれない。今まで見たことない、濃い紫の瞳だった」

「そうか、おまえは魔眼だが、他の魔眼持ちに会ったことがなければハッキリは分からないか。アルト……魔眼……思い当たる奴が一人いるが、まさかな」

「ということは、やっぱり魔族?」

「俺の予想通りなら」

「何事も無ければいいけど」


 三人は気になりつつも、これ以上考えても仕方ないと話題を変えた。

 村の現状についてアイリーンから更に詳しく聞く。


「賢者さまは世界が動き始めたと皆におっしゃってね。波乱の時代に対応できるよう更に精進せよ、って」

「たった二月(ふたつき)の間に随分変わってしまったのね……」


 ライラヴィラは深い溜息(ためいき)をついた。


「今日はフォルゲルさまには会えたのよね?」


 アイリーンが心配そうな顔でライラヴィラへ問いかけてくる。


「ええ。爺さまは私のこと、既に全部わかってた。そして教えてくれたの。私が悪鬼アモンになると決まった訳ではないと」


 ライラヴィラはフォルゲルからの助言を二人に伝えた。


「情報を小出しにせず、全部ぶちまけろよ、頑固ジジイめ」


 レグルスは空になったジョッキを音を立てて置いた。彼は相変わらずフォルゲルが気に食わないようだ。


「でも希望はあるって分かったから。私は魔界で頑張ってみる。今できることをするわ」


 ライラヴィラは長居できないと()びてアイリーンに別れを告げ、レグルスと共に居酒屋を出た。




「時間が無いな、転移魔法でハニなんとかの近くのゲートに行くか?」


 レグルスはスペランザ城のベルントを説得した、三日間の約束を気にしているようだった。すっかり夜が更けて星の瞬く空を見上げる。


「レグルス、私、その、前にも言ったけど、転移魔法は無いから」


 ライラヴィラは彼が転移できるのに、自分のせいで使えないのは申し訳ないなと思いつつ、正直に伝えた。


「おまえほどの魔力と魔法技術の持ち主が転移魔法できないって、やっぱりおかしいだろ? 俺でも使えるのに」

「その、教わる機会もなかったし、教えてもらえなかった。転移魔法の魔術書も(うち)には無かった。私は暴走させるからダメだって言われて……」

「またあの頑固ジジイかよ! 仕方ないな。俺は自分一人しか転移できないし、ここから近くのゲートに飛空魔法で行くしかないか」

「ベルントとの約束、遅刻かな」

「ジジイのせいにしとけ」


 こうしてふたりは、なんとか日付の変わる前に魔界へ帰った。

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