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闇の女王は真紅の絆を辿る  作者: 菖蒲三月
第十八話 模造の勇者と女王の鎌
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18ー4 リリス解放

 ライラヴィラたちは鍛冶工房の応接間に集まり、そこかしこに座った。


「仕切り直しだな」


 レグルスは天井を見上げた。


「そういえば結局、ダヌトゥムナの国王の姿は見つけられなかったわねぇ」


 アンジェラは腕を組んだ。


「王がどうしてるのか。あの感じだと、かなり危ないぞ。そうでないと思いたいが、既に死んでないといいけどな。王子と王女もいたはずなんだがなあ」


 シリウスも額に手を当てた。レグルスが彼に視線を向ける。


「転移魔法で一気に城内の奥まで入るか。欠片(かけら)の騎士は倒すしかない。サンユノアの呪縛から助ける余裕はなさそうだ」

「しかしなあ、あれを倒すのは難儀だぞ。なにせ原点の力に接触してて、光魔力を無理やり引っ張り出して、暴走させとるからなぁ」


 溜息をつくシリウスにライラヴィラが応えた。


「私、今度はリリスで戦う」


 皆が一斉に彼女を見る。


「ダヌトゥムナ城でリリスに戻っていれば、きっと騎士たちは助けられた……」


 闇の深淵(しんえん)そのものである、あまりにも強すぎるリリスの力は人に影響を及ぼす。ライラヴィラはそれを考慮して、常に『()(どもえ)の封鎖』で(おのれ)の力を封じ、リリスの姿に戻ることは控えてきた。

 人を傷つけないために。そして無闇に恐怖を人々に与えないために。

 でももう、そんな配慮をする余裕はない。


「あの時はいけると、俺は油断していた。ライラを人界(ライトガイア)でリリスにさせることは、俺はそうしたくないし、必要もないと判断したが、それは違った」


 レグルスはライラヴィラの方へ寄り、彼女を見つめる。


「リリスの余剰の力は、俺が絆の同調と『盟約の楔』で受け止める。それなら人界への影響は最小限で済むだろう」


 シリウスが扉の方を見て、何かに気づいたかのようにその場から出ていったと思うと、再び男を二人連れて戻ってきた。


「助っ人も呼んだぞ」


 シリウスに続いて入ってきたのは、勇者ジェイドと勇者ディルクだ。


「四人でいけると判断したのは俺のミスだ。六人なら、違うだろ」


 シリウスはニヤリと笑って、到着したばかりの勇者たちの方へ振りむいた。


「話は聞いた。ダヌトゥムナの中枢を乗っ取った、サンユノア教団を掃討すると」


 ディルクは手に大きな杖を持っていた。魔導師(ソーサラー)が着るローブをまとい、かつての槍斧(ハルバード)の戦士の面影はない。


「今度こそ、僕もライラたちの力になるよ」


 ジェイドは剣士のスーツ姿で長剣と盾を手にしてきた。


「勇者が四人と魔王が二人。これで勝てなければ誰がやってももうダメね。ということは、やるっきゃないわよ」


 アンジェラは立ち上がった。


「我もライラヴィラを守る」


 小さな黒猫姿の闇の幻獣ロイがライラヴィラの影から姿を現した。


「人界では我はあまり力が出ぬが、ライラヴィラがリリスとなるなら話は別。リリスから常闇の力を供給されれば魔界と同様に戦えよう」

「ロイ、ありがとう」


 ライラヴィラはリリスの姿になることを考えて、翼と尻尾が出せる加工がしてある魔界の服に魔法で着替えた。ツノを隠していたバンダナは消え去り、小さな黒い円錐(えんすい)が二本、銀髪の間から出ている。


「ライラが今まで魔王って感じがしなかったのは、単純に服のせいか」

人界(ライトガイア)では、出来るだけ普通の冒険者っぽく装ってたから」

「そりゃそうか。ただでさえ、淡紫(たんし)の肌のダークエルフは目立つしな」


 シリウスは漆黒のコートを着たライラヴィラの姿を眺めた。ラベンダー色のシャツが覗く魔王の普段着であるが、二剣を(ふる)う彼女に合わせた裾のスリットや布地の伸縮性、そして莫大な魔力を受け止める親和力が、戦闘服としても申し分ない性能を持っている。襟には深淵の紋章が銀糸で小さく刺繍されていた。


 レグルスも人界の冒険者の服から魔王の戦闘服に着替えていた。ソレイルヴァの紋章が金糸で襟や袖に刺繍されていて、長いマントが垂れ下がった。頭のターバンは外されて、黒光りする立派なツノが黒髪の間から生えている。魔界の超大国の支配者たる、若き魔王の姿である。

 グローブで隠されていた絆の指輪が(あら)わになり、(あか)い光線が一瞬、ふたりの間を交差するのを勇者たちに見せた。


「そうして二人並ぶと、絵になるわねぇ」


 アンジェラも二人の魔王としての姿を物珍しそうに眺めた。


「絆の指輪は互いの瞳の色か。なかなかいいセンスしてるじゃないか」


 シリウスは二人を交互に見てウンウンと頷いた。

 ただ、ジェイドとディルクは何も言わず、二人の姿を距離を置いて眺めた。


 ライラヴィラは彼らが黙ったままの理由は分かっていた。

 自分の魔王の姿はやっぱり見たくはないのだろう。これまでは勇者の候補者としての仲間だったから。今ではもう住む世界を(たが)えたという事実を、嫌でも認めなければならない。


 こうして全員準備を整え、転移魔法でダヌトゥムナ城の中へと直接、突入した。

 

 

 ◇ ◇ ◇



 ダヌトゥムナ城の奥、玉座の間の手前の広間に六人は現れた。前回突入したときに到達できた、最奥の場所である。ライラヴィラの転移魔法の威力は、ここに未訪問で本来は転移不能であるジェイドとディルクも共に導いた。

 前回の戦闘で大きく崩れていたはずの建屋が、すっかり元通りに修復されている。おそらく相当な魔力のある錬金術師の手によるものだろうと、ディルクは復元魔法の痕跡を解析して皆に伝えた。

 彼らの前には光球(ライトフレア)が上方に浮いていた。中には見覚えのある人影が見える。


「またお越しになりましたか、懲りないことで」


 人影から男の声が発せられた。何度も耳にしている嫌な声だ。頭の部分には二つの瞳が白く光るのが見えた。


「クロセル、おまえはここから出て行ってもらおう」


 レグルスが烈火の大剣デュランダルを召喚し、構えた。


「今度は大勇者のなりそこないもいますね」


 クロセルは視線を落とす。その先には勇者ディルクがいた。


「あんたの言うことは全てまやかしだった。俺は目が覚めただけだ」


 ディルクが杖を掲げ、風と光の魔力を発現させた。

 全員に防御魔法(シールド)がかかる。


「私の大勇者たちよ、天主に仇なす者たちに裁きを!」


 クロセルの号令で、光の欠片(かけら)を埋められた騎士が奥から三人現れた。


「生きていたのね!」


 ライラヴィラは騎士たちが生きていたのに安堵(あんど)した。自分が彼らを殺してしまったと強く後悔していたからだ。

 大魔王はディオトリーの大鎌『アダマス=フォンセ』を召喚し、構える。


人界(ライトガイア)では『三つ巴の封鎖』をしたままで、なんて甘いことを考えてたのがいけなかった」


 ライラヴィラは自らに施していた封鎖を外す。複数の魔法陣が取り囲み、絡まっていた鎖が解けていくように光り、消えた。

 ここに闇の深淵(しんえん)の守護者、リリスが現れた。

 漆黒の鎌を構え、輝く真紅の瞳、太くなり伸びた黒いツノに漆黒の羽根と細長い尻尾の姿。人界で伝説の悪神とも死神とも呼ばれる、それである。

 リリスの影から大きなライオンのような、有翼の幻獣ロイが現れた。


「これが、リリスだとな……」


 シリウスはライラヴィラの姿を目に焼き付けるかのように凝視する。はじめて守護者リリスの力に触れて、歓喜と恐怖と未練のような、複雑な感情を治めようとして口元を引きつらせた。


「確かに並の人間では、近づくだけで失神しそうねぇ」


 アンジェラもリリスの姿を凝視し、(あふ)れる闇の覇気(はき)を浴びて少し震えた。

 ライラヴィラは幻獣ロイの背に乗り、大鎌を掲げると深淵の鍵を開いた。胸元に深淵の紋章が浮かび、小さな重力球を三個作り出す。緻密な魔法術式を編み上げ、それを意のままに操った。


「彼らから、欠片(かけら)を取り出せ」


 三つの黒い球体が青紫色の稲妻をまとい、三人の騎士へ向かった。


「いくぞ!」


 レグルスは騎士たちを抑えにかかった。


「そう上手くいきますか」


 光球の中にいるクロセルが片腕を上げた。光の刃を振りかざす。


「何度も何度もっ、同じ手はくらわん!」


 ディルクが六芒星(ヘキサグラム)を組み合わさった多重結界を張る。

 ジェイドも盾を掲げ、更に魔力を放出してディルクの結界の厚みが増した。

 光の刃が結界に接触し、ビリビリと音を立てて激しい振動を起こす。

 ついに凶悪な閃光を完全に防いだ。


「むぅっ」


 クロセルの声色が変わった。

 レグルスとシリウスとアンジェラで三人の騎士の攻撃を抑えた。光の刃を防ぎ切ったジェイドも彼らに加勢し、アンジェラと交代して騎士を抑える。

 アンジェラは騎士と対峙している三人に、光と風の複合魔力である迅雷(じんらい)の力を(まと)わせて支援した。そして彼ら三人が受けた衝撃は更に後方のディルクが結界で分解する。

 ライラヴィラはその間に、騎士たちの心臓に埋められた欠片へ三つの重力球の焦点を合わせていた。


「私も、もう同じ失敗はしない!」


 ライラヴィラは手にした大鎌に闇魔力を乗せて、三つの黒い球体に力を注いだ。

 騎士たちが苦痛で胸を押さえて、その場で膝をついた。


「光の欠片(かけら)は、闇に帰れ」


 ライラヴィラはアダマス=フォンセを大きく斜めに振るう。

 騎士たちから(きら)めく欠片が一瞬で抜き取られ、重力球に吸い込まれた。

 集まった三つの黒い球体へライラヴィラは大鎌を振り下ろし、同時に一刀両断した。激しく弾ける音が何度も聞こえて、球体はやがて霧となって吸い込んだ欠片と共に消えた。


「騎士たちの保護を」


 ライラヴィラが合図すると、皆が気を失った騎士を抱えてきた。

 幻獣ロイから降りたライラヴィラは浮遊魔法で騎士たちをロイに乗せた。


「こやつらは(われ)が守ろう」


 ロイが三人を乗せたあと後方へと下がった。


「やはり、リリスには小手先の細工は効きませんね」


 光球が大きく輝いたかと思うと、クロセルがその姿を現した。


「何故こんなことをするの!」


 ライラヴィラは目の前に降りてきたクロセルに問うた。


「私には、天主アーソグリーダが全て」


 そう告げると一番奥の大きな扉が開いた。見えたのは玉座の間だった。

 ダヌトゥムナ国王が最奥の玉座に束縛されている。

 王の手前には光の荊棘(いばら)が取り囲んだ巨人族(タキラ)の男女がいた。

 魔王と勇者は慎重に足を進めていく。


「王にも欠片を差し上げようとしたのですが、やたら分厚い魔法防壁(シールド)で拒否されましてね。代わりに王子と王女に大勇者になっていただきました」

「なんてこと!」


 ライラは魔眼で彼らを()た。異様に輝くものが心臓でうごめいている。


「ひとりの心臓に、ふたつの欠片を……! 肉体の限界よ!」

「ダヌトゥムナ王族の血統はやはり強かった。欠片を同時に二つ入れらたとは、私も想定外でした。ふふふふっ……」


 レグルスは大剣を構え直し、前を見据えた。


「王を救出する。ライラ、力を借りるぞ」


 魔王の右手首に施された、大魔王の『盟約の楔』が浮かび上がる。レグルスが手にしていた大剣が紅から闇色を帯びた。漆黒の炎が蒼く光る。

 ライラヴィラは大鎌に魔力を流し、小さな重力球体を幾つも作り出した。


「これで欠片を狙う」


 彼女が魔力を上げると球体は青い稲妻をまとって細かく振動した。

 王子と王女が光に包まれると、勇者と魔王を魔法で攻撃してきた。


「抑えるぞ!」


 ディルクが光の泉のようなものを床に敷いた。床から光の粒子が噴き出して、王子と王女の足に絡みつく。彼らは痺れて動けなくなり、その場で立ち尽くす。


「邪魔しないでください、裏切りの勇者」


 クロセルは光の槍を無数に床の泉へと投げた。アンジェラがそれを(とら)えて弓矢を無数の光の軌跡に変えて放ち、槍を撃ち抜いていく。

 シリウスは長剣を収めて、両手で盾を二枚構えて前方に立った。両方の盾から光の鱗のようなものが広がり、魔王と勇者を守る壁の役割を担う。

 レグルスが闇の炎を(まと)った大剣を構えて、玉座の方へ駆け寄る。


「束縛は、燃えろ!」


 魔王はダヌトゥムナ王を縛る光の荊棘(いばら)を細断するように、何度も大剣を振って黒炎を飛ばしていく。王を傷つけないよう、表面を撫でるように狙うと、荊棘(いばら)は外側から燃やされて消えていく。


「うっとおしい」


 クロセルは顔をゆがめて(つぶや)くと、レグルスを狙って光の輪が光球から分離し、いくつも飛んできた。それをジェイドが駆け寄って長剣で打ち払う。更に盾で防いでレグルスを守った。


 ライラヴィラは欠片へ重力球の焦点を合わせた。光の泉の上で立ち尽くした王子と王女の心臓を狙う。彼らの周りにいくつもの黒い球体が浮く。ライラヴィラの周囲はシリウスが生み出した光の鱗で守られている。


「ハァッ!」


 ライラヴィラが大鎌を両手でひと回しすると、同時に重力球体が激しく振動し、光の欠片をダヌトゥムナの王子と王女から引き抜いた。心臓から抜けた四つの欠片は重力球が飲み込む。巨人族(タキラ)の王子と王女はその場で気を失って、膝から崩れるように倒れた。

 倒れた二人を救出するため、シリウスとディルク、アンジェラが彼らのもとに駆け出した。


「どうですかな」


 クロセルはひるまず、余裕の笑みを見せる。両腕を頭上に高く伸ばして、巨大な光の刃の召喚を始めた。天誅(てんちゅう)の刃が落ちる——。


常闇(とこやみ)よ、天主の厄災を終わらせよ!」


 ライラヴィラは胸元の深淵の紋章を開き、闇のカーテンをクロセルの前に下ろして彼の動きを阻んだ。そして抜き取った欠片と光の刃ごと両断するように、大鎌を大きく、何度も振り回した!


「光は、闇と循環する!」


 アダマス=フォンセを更に振り下ろす。闇の女王(ライラヴィラ)の鎌は光を捉えて暗黒の霧を吹き上げた。光の欠片が粉々になり、闇へ溶ける。光の刃も大鎌が生み出した霧が集まって立ち上った常闇の盾に吸収されて、闇と混ざり合って透明化する。


「よし、王を救出だ!」


 レグルスがライラヴィラから絆の指輪で解呪の術式を受け取り、王の束縛を完全に解放した。彼は王を抱きかかえて飛び、シリウスたちの元へ戻る。

 王と王子、王女をディルクの多重結界で保護して、その周りを勇者と魔王が囲んだ。


「な、なんと、あれは伝説にある異形の悪神とな! しかも我を抱えていたのは魔族か!」


 国王は混濁していた意識を完全に回復し、漆黒の羽根を広げたライラヴィラの後ろ姿を目にして、震えながら叫んだ。


「ひぃっ」「ぎゃあっ」


 王子と王女は正気に戻ると、目をむいて震えて、あっという間に気を失った。


「そうか、彼らにはリリスの覇気は耐えられないね」


 ジェイドが治癒魔法(ヒーリング)を王家の三人に施した。

 ライラヴィラは向こうに見えるクロセルを睨みながら声を上げた。


「みんなを連れて、城を脱出して!」

「わかった!」


 勇者たちが(うなず)き、背中に騎士三人を乗せていた幻獣ロイと共に、王族を連れて転移魔法で脱出した。

 残ったレグルスとライラヴィラはクロセルの前に、ふたりで立ち並んだ。


「八年前の因縁だな、思い出したぞ。あの時の坊主(ぼうず)


 レグルスは大剣デュランダルをクロセルに向けた。

 それはライラヴィラが十二歳のときに、クロセルに(さら)われそうになって、たまたま同行していた十四歳のレグルスが彼女と助けたこと。


「ほお? 八年前、そうですね、ライラヴィラを(かば)った魔族!」


 宙に浮いているクロセルがレグルスを見下ろしてにらむ。


少年(ガキ)のくせに、あれは痛かったです」


 八年前にレグルスが強く握り返した腕を、クロセルは手でさすった。


魔界(ダークガイア)でのショータイムは失敗しましたが、人界(ライトガイア)ではどうでしょうか」


 そう告げるとクロセルは城の天井を突き破って空へと飛んだ。


「何をする気!」


 ライラヴィラとレグルスは彼を追って、飛空魔法でクロセルを追った。

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