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今年僕に起きた三つの奇跡について(1)

「鈴木君の夢は何ですか?」

突然話しかけられたので、その声が自分に向けられているのだと気づくのに、しばらく時間がかかった。

 ファミレスでのバイト中、休憩時間。いつものように、スマホを眺めていた。

 しばらくの沈黙。はっとして慌てて答える。

「はぁ、えっと、何もないですかね。」

って、ばかみたいな答えだな。


 そっと声の主を確認する。

 川崎さん。女性。二十代前半?年齢は僕の勘。ちょっと美人?これは僕の好み。マスクしてるから目元しか分からないけど。


 今まで休憩時間がかぶっても話しらしい話しはした事がない。最近、女性と話していないのもあって僕はどぎまぎした。


「ふーん。鈴木君何歳だっけ?」

「十九です。」

「若っ!いいなー。高校の時は夢あった?」

 夢!?夢と呼べるほど、大層なものは思いつかないなぁ。

「えっ、そーですね。無いですかね。」

再び沈黙。なんなんだ。

「ふーん。」

 僕は内心焦っていた。とっさに気の利いた返事が出来なかった自分が、恥ずかしかった。

 でも、夢が無いのは事実。自分のつまらなさがあらわになって、いたたまれない。

「すみません・・・。」

取り敢えず、謝ってみたりして。


 川崎さんはクスッと笑った。

「弟がね、まだ高校生なんだけど。最近、学校サボりがちで。家にこもっていて。

 母親がね、弟に言うのよ。若いのに夢は無いのか。さぼってないで、進みなさいって。

 それを聞いて思ったわけよ。夢って皆んな持ってるものかな?という事があっての市場調査でした。」

「はあ。」

 わざと気の無い返事をした。もやっとする話しだ。

「弟さん、ほっといて欲しいでしょうね。かわいそうに。」

 川崎さんは少し眉を上げた。目が笑った。今回の返事は当たりだったのかもしれない。

 ぼんやりそんな事を考えていたら、ふと思い出したフレーズがあった。僕の想いとシンクロした言葉。


「僕に一人で生きていく力があれば あとはもう必要ないでしょう。」


 口に出して、しまった、と思った。

 恥ずかしい。恥ずかしいすぎる。


 歌詞はこの後、「全てを手放したいがための戯言でしょうか?」と続くのだがそこまで声に出さなくてよかった。


「何?鈴木君の夢?すごい、立派な夢かがあるじゃない!」

 くすくすとマスクの中から笑い声が聴こえてくる。

 悔しくなって僕も聞いた。

「川崎さんの夢は何なんですか!?」

「私?私は素敵な花嫁さん。うそです。漫画家です。」

どちらも嘘だろう。ふざけている。



 バイトの帰り道。すっかり夜になっている。日曜日だからかいつもより道ゆく人が少ない。自転車をこぐ僕に触れる爽やかな風が、初夏を感じさせた。


 そう言えば女子とまともに話したのは高校卒業以来かもしれない。いや、高校でもまともには話していないか。川崎さんとも今まで、仕事以外に話した事がなかった。

 というか、人とたわいもない会話をすること自体が最近ない。

 コロナ禍とはいえ、やばくないか?去年は浪人して一年間、外に出たとしても予備校くらいだった。今年は浪人二年目。バイトを始めたのも先月からだ。しかたないよな。


 いやいや、思い返せば中学三年から息を潜めて生きて来たのだ。高校の時だって、そんなに仲のいい奴もいなかった。そうやって生きてきたのは自分の意思だ。


「僕に一人で生きていく力があれば あとはもう必要ないでしょう。全てを手放したいがための戯言でしょうか?」


 好きなバンド、ラビットの新曲のフレーズ。

 この歌詞を聴いた時、今僕の気持ちだと感じた。


 早く家を出たい。早く自立したい。

 僕に一人で生きて行ける力があれば、それでいい。


 本当は去年家を出たかった。だけど、浪人中である事とコロナのせいで二の足を踏んだ。


 歌の中の主人公は一人で生きて行くのではなく、二人で生きて行く出会いがあったようだ。僕の人生、そんな出会いは一度もない。


「恋愛なんて、めんどくさいだけだろ。」

心の中で思うつもりが、うっかり声になっていた。

 やばい。こんな事聞かれたら、ただの痛い奴だ。自転車でよかった。マスクもしてるし。

 こんな時、マスクというのは便利だと思う。コロナは嫌だけど、マスク文化は僕みたいな人間には顔が隠せて都合がいい。

 誰も僕の事なんて見ていないのは知っているけど。


 

 自転車を玄関の脇に止め、鞄から鍵を出し、戸を開ける。気配をなるべく消して中に入る。

 リビングからテレビの音と、かすかな話し声が聞こえてくる。


「おかえりなさい。」


 気配を消していたはずなのに、今日も気づかれた。

「はい。」

 しかたないので、いつものように返事をして二階の自分の部屋に早足で向かった。


 部屋に入ると取り敢えず、除菌シートで手を拭き、マスクをはずし、机に向かう。参考書とスマホ、どちらを手にしようか悩み、結局スマホに。

 そのまま、不動産サイトを開く。チェックをしていた物件が残っているか調べたり、新しくいいところがでていないか確認したり。

 見ているといつの間にか時間が流れていく。


 コンコン、と部屋の戸がノックされた。

「夕ご飯、置いておくね。」

「はい。」

とだけ返事をし、足音が遠のくのを待つ。人の気配が無くなると、そっとドアを開け、床に置いてあるお盆を部屋の中に入れた。




 翌日の月曜日もバイトだった。

 予備校を夕方に抜け、バイト先に向う。ファミレスのスタッフ用駐輪場に自転車を止め、スマホで時間を確認する。少し早く着いてしまったようだ。

 ここでこのまま時間を潰そうか、それとも店に入ろうとか迷っていると、こちらに近づいてくる人の気配がした。

 気配を無視して顔を上げずにスマホを見ている僕に

「すみません。」

と、その近づいて来た人物が声を掛けてきた。


 まじか!

 視界に入るのは、その人物の腰から下だったが、あきらかにスカートであり制服だ。

 しかも声がアニメ声でかわいい。


 動揺しているのがバレないよう、冷静に冷静に顔を上げる。

 やはり制服。しかもシャツにだぼっとしたニットベストというスタイル。近くの女子校の物だ。

 顔はマスク着用なので、目元だけ見える。肩より少し長い髪を後ろでひとつにまとめていた。


「あの。少しお時間よろしいでしょうか?」


 お、お時間!?女子校生が僕のお時間を求めている!?動揺が体内を駆け巡る。

 あれか、新しいバイトか。そうだな、それが真っ当だ。それか道に迷ったか?いやいや、学校の近所だぞ、ここは。

 頭の中は小さなパニックを起こしているのに、それを顔に出さずに(出ていないと自分で信じている。)冷静に冷静に返事をする。

「少しなら。何ですか?」

 よしっ!声のトーンはおかしくない。

「・・・あの、ですね。」

そう言って、女子高生は斜め下に視線を移した。


 やばい。何だか分からないけどやばい。

 心臓がドキドキしてきた。変な期待が高まる。


「何?新しいバイトの人ですか?店長なら中に居ると思うけど。」

 少しの間にも息苦しさを感じて、取り敢えず思いついた事を言葉にしてみる。

「えっ!違うんです。すみません。」

 女子校生はそのまま、黙り込む。

 本当に何なんだ。こんなの勘違いしてしまうじゃないか!手のひらや鼻の下に変な汁が出てきたぞ。いや、汗なんだけど。


 ふと、少し離れた車の影に同じ制服の女子校生が二人見えた。

 初めは僕の勘違い通り、これは告白シーンで、車の影に隠れているのは告白を応援する友達なのかと思った。

 それにしては、彼女達の動きがおかしい。明らかにこちらを見て笑っている。


 その姿を見て、僕は一気に冷静になって来た。嫌な予感がする。もう店に入ろう。面倒な事になりそうだ。

 僕はバイトに行く事を女子校生に伝えようと口を開きかけた。とたん、先に彼女が声を出す。

「あのっ。私と付き合ってください。」

 女子校生は下を向いたままだ。


 僕はすっかり冷静になっていたので、その言葉を聞いても何も感じなかった。反対に下を向いている女子校生を哀れに思えた。

「これって、罰ゲームか何か?」

 驚いて彼女は顔を上げた。

「向こうで爆笑してる友達が丸見えだよ。ってか、あれ友達?いじめられているんじゃないよね?」

 彼女は力強く首を振った。

 その反応からすると、嫌な予感の方が当たっていたようだ。

 あっちの女子校生二人の存在に気づいていなかったら、あほな男になるところだった。ふぅ、危なかった。

「そんならいいけど。あんまりタチの悪い事しない方がいいよ。他人巻き込んで。人を傷つけたり、恨まれたりするから。」

 みるみる女子校生の眼から涙目が溢れてきた。

「ごめんなさい。ごめんなさい・・・。」

 手で顔を覆って泣き始める。

 ちょっと待ってくれ。泣きたいのはこっちなんだ。僕の淡い期待をどうしてくれるんだ。


 なす術もなくおろおろしていると、こちらに向かって歩いてくる川崎さんが見えた。今日もシフトが一緒らしい。

 助かった。一緒に店に入ろう。

 僕はすがるように川崎さんを見た。にも関わらず、川崎さんはこちらを一瞥して、

「よっ、鈴木君。青春だね!」

と軽く手を上げ、前を通り過ぎる。


 いやちょっと待て、川崎。それは無いだろう。これがどんな場面であれ、それは無い。


「いやっ、一緒に入りますよ。もう時間だし。」

 僕はこの機会を逃してはならないと食いついた。それなのに、

「いやいや、鈴木君。世の中にはバイトより大切な物は山ほどある。気にしないで続けるように。私が店長に伝えておくから。」

 もっともらしく真面目な顔をして言ってるけど、あんた何なんだ。キャラ設定もよく分からない。


 困惑して固まっている僕に、女子校生の可愛らしい声が聞こえた。

「すみません。お仕事前に。ご迷惑をお掛けして本当にすみませんでした。」

 彼女は深々とお辞儀をして、そのまま駆け去ってしまった。

 友達の前をも通り過ぎて駆けて行くので、残された女子校生二人も、慌てて追いかけて行く。


 何なんだ、本当に。

 僕はぼーぜんと彼女達が去って行くのを見送った。

「鈴木君、素晴らしいね。今度参考にさせてもらうよ。」

と、川崎さん。

 何のだよ。そしてさっきから何のキャラだよ。



 その日はバイトの間もずっと、その事件が頭の中を巡っていた。

 自分の行動を思い返し、あれはあの言葉で間違っていなかった、僕もやればできるじゃないかと自分をほめたり、いやいやもう少し気遣いのある対応をしたらよかったのでは、と反省したり。そもそも、こんなにこの事を自分で引きずっているのは、経験値が少ないからだ、と自分を下げたりと、僕の脳内は忙しい。

 

 それに加え、川崎さんがバイト中、隙あるごとに、

「鈴木君、もてもてだよね。うらやましい。」

やら、

「鈴木君、青春フラグが立ったねー。」

やら、何度違うと説明しても、はやしたててくる。


「川崎さん、小学生じゃないんだから、いい加減にして仕事に集中して下さい!」

 僕が思い切って注意すると、寄り目をするという、本当に小学生男子みたいな反応をした。


 そんなやりとりが不快では無く、むしろ楽しくも感じて不思議な気がした。

 すごくバカにされていると思うのに、悪意は感じない。友達とふざけ合っている感じだ。

 昨日まではほぼ話した事のない年上の女性と、こんな気軽なやりとりができるようになるとは思わなかった。

 変な人だけど、川崎さんの人柄なんだと思う。変な人だけど。



 それから半月ほどたった土曜日。その日も僕はファミレスでバイトしていた。

 本当はキッチンが希望なんだけど、ホールの人手がたりないからとなかなか移れなかった。

 川崎さんもホールだ。あの告白事件以来、よく話すようになっていた。


 コロナで皆んな行くところが無いからか、夕食の時間帯はそれなりに混み合う。

 順番待ちをしていたグループを、空いた席に案内するため声を掛けた。

「ミヨシ様。ミヨシ様どうぞ。」

 どうやら家族連れらしい。中年夫婦と中高生くらいの娘との三人だ。

 席まで案内し、その場を離れた。すると娘が席につかず、こちらに向かってくる。

 トイレかな?と振り向いた時、聞いた事のある、あの可愛い声がした。

「あの、この間はすみませんでした。」

 ドキッ!この声は!心臓が高鳴る。

 私服だし、髪はおろしているし、顔にはマスクだし、で全然気づかなかったけど、告白事件の女子校生だ。


「ああ。」

 僕の心臓とは真逆の、落ちついた声が出てほっとする。

「あの後直ぐに謝りたくて、何度か来たんですがタイミングが合わなくて。」

 この間も思っていたが、なかなか丁寧な話し方をするコだ。

「厚かましくも、家族でご飯食べに来てしまって、すみません。」

 ペコリと頭を下げる。

 髪がサラッと肩から落ち、僕の心臓を刺激する。しっかりしろ!何でもかんでも、意識するんじゃない!

「全然。気にしないで、いつでも食べに来てください。」

 なんとかそう答えた僕に、彼女は嬉しいそうに眉を下げて微笑んだ。

 マスク越しでも笑顔は分かるもんだなー、と感動している僕に、彼女はまたペコリと頭を下げた。

「お仕事中、失礼しました。鈴木先輩、本当にありがとうございます。」

 もう一度、お辞儀をして彼女は席に戻って行った。


 ん?鈴木先輩?なんだその呼び方?名前は名札で分かるとしても、先輩とは?女子校で流行っている呼び方なのだろうか。

 気になったけど、聞き返す事も出来ない。


 店内は間隔を開けている事もあり満席で、配膳も慌ただしい。そんな忙しい中、川崎さんが

「ひゅーう♪」

と、よく分からないかけ声で冷やかしてくる。

「なんなんですか。やめて下さいよ。」

「あのコ、よくうちの店に来るコだよねー。いつも家族で来てるよね。」

「そうなんですか?」

「制服の時は気づかなかったけど、確かにあのコでしょ。」

 どうやら、先程の会話を聞いていたらしい。抜け目のない人だ。

「鈴木パイセン。ひゅーう♪」

「だからやめて下さいって。」

「後輩だったの?」

「違うでしょ。彼女女子校じゃないですか。ほら、働いて!」

 川崎さんはぶーぶー言いながら仕事に戻る。

 全くしょうがない人だ。


 しばらくバタバタと働いていたが、しょうがない人である川崎さんは、隙をついてまた話し掛けてきた。

「ところで鈴木君。今日バイト終わった後時間ある?」

「はっ?まぁ家に帰るだけなんで。何ですか?」

「君に伝えておかないといけない事があってね。黙っていようか悩んでたんだけど、面白い、いやっ、興味深い?いや、まあ何と言うか耳にしておいた方がいい事案があるので、ちょっと話しをする時間をちょうだいよ。」

 引っかかる言い方だ。聞かずに帰るのもありだけど、やっぱり気になるよな。

「分かりました。いいですよ。だから働いて、働いて。」

 そう言って僕は、再び川崎さんを追い払った。



 バイト後、川崎さんと二人で小さな公園に行く事にした。緊急事態宣言中なので、飲食店は早くしまってしまう。ゆっくり話せる場所がそこしか思いつかなかったのだ。

 滑り台とブランコとベンチだけの小さな公園だ。

 僕と川崎さんは自販機で飲み物を買い、ベンチに座った。コロナ禍なので近すぎるとまずいかなと思い、座る距離はとってある。


「それで話しって何ですか?」

 僕はそうそうに切り出した。川崎さんといえども、夜の公園で女性と二人なんて緊張するのだ。

「タカヒサ君?」

 ドキッ。

 突然、川崎さんが僕を下の名前で呼ぶ。

「何ですか、いきなり。」

「そうか、やっぱり鈴木君がタカヒサ君か。」

「は?本当に何なんですか?」

 川崎さんはいつものように意味が分からない。


 取り敢えず落ち着こうとさっき買ったコーヒーを一口飲む。川崎さんも買ったりんごジュースを一口飲んだ。

 りんごジュースなんて可愛らしい物を選ぶな、と思っていたら、

「やっぱり夜はビールがいいなー。」

と、つぶやいている。


「それで話しって何ですか?」

 僕はもう一度尋ねた。

 川崎さんは、眉を上げて

「そうそう、こないだ金髪の男が君を探していたのよ。」

と言った。


 どうやら僕が休みの日に、店に金髪の男が来て、この店に『鈴木隆久』たる人物が働いていないか聞いてきたらしい。川崎さんは僕の下の名前を知らなかったので、いるかもしれないし、いないかもしれない、と答えたそうだ。

 川崎さんに聞いた時点でその金髪頭は運が悪い。


 僕はその金髪男が誰なのかすぐに思いあたった。

 坂上太一だ。小、中、高校とずっと同じ学校だった奴だ。

 僕がシフトに入っている日も友達とファミレスに来ていた。チラチラと僕の方を気にして見ていたのも知っていた。僕の方は気づかないふりをしたけど。


 太一とは昔、仲が良かった。小学校の頃は毎日のように遊んでいた。中学に入ってからも、よくつるんでいた。

 そう、中学三年のあの出来事までは。

 あの日からほぼ口を聞いていない。


 ファミレスで僕が働いているのを見かけたけど、僕が無視を決め込んでいたので、本人か不安になったのだろうか?

 そう言うところが昔からバカだと思う。分かるだろ普通。マスクしてたって。

 だいたい僕だと分かったところで、何をするつもりなんだ、今さら。頭も金になってるし。


「いいですよ、ほっといて。害は無い奴ですから。」

 僕はため息をつきながら川崎さんにそう伝えた。

「ふーん。探されているの知ってたんだ。鈴木君はモテるんだね。」

 そう言って、僕の顔をじっと眺める。

 その口元にマスクが無く、僕はドキッとした。

 よく考えたら、マスクを外した状態で顔を見るのは初めてだ。目元は美人だと思っていたけど、全体のバランスも取れている。

 僕もマスクをあごにずらしているのを思い出し、恥ずかしくなって、そっとマスクを持ち上げた。

 顔にさほど自信がない。


「昔の彼氏?」

 僕が他の事に気を取られて、黙っているのをいい事に、また適当なことを言ってくる。

「何でそうなるんですか?」

 僕はまたため息をつく。

「面白そうだから。なんだ、彼の片想いか。切ないね。」

「高校の時、彼女いましたよ。」

「鈴木君、やるじゃない。」

「僕じゃないですよ!太一にですよ!」

 真面目に返答しているのがバカらしくなってくる。

 そして、僕に彼女がいなかったのが、ばれてしまったじゃないか。


 僕は顔を見せないよう、横を向いてコーヒーを飲み干し、ベンチから腰を上げた。

「話しも済んだので帰りますね。」

 マスクでしっかり顔を覆い、川崎さんを見る。

「鈴木君、素晴らしいね。」

 僕はムッとした。

「バカにしてるんですか?」

「違うよ。本当に感心してるの。参考にさせてもらうよ。」

 だから何の参考にするんだよ!?

「今度は一緒にビール飲もうよ。公園呑み会。」

「僕、未成年ですけど。」

 本当は後二ヶ月もしたら二十歳になるのだけど、黙っておこう。ややこしそうだ。

「なんだ、つまらない。」

 川崎さんはそう言って頬をふくらませる。

 ちょっと可愛いとこが、しゃくにさわるなぁ。しかたない。

「コーヒーでよければまた付き合いますよ。」

そう言って、僕は公園を後にした。


 


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