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訓練

今回も短めです。

というより、一度に長々と書くのが大変なので小分けにすることにしました。

勇者サイドの話を何話か続けて、その後魔王サイドの話にする予定です。

『レストラン チアムース―』で夕食をとった翌日、ヒダルマたち一行は再び訓練場へ向かっていた。


昨日通ったばかりの道であるとはいえ、あまりにも複雑な進み方をするため、ヒダルマはもちろんハーブでさえ、ラーシャンの案内無しには訓練場へたどり着くことはできないということを痛感していた。


同じ風景を何回も見ているなと思ったときにラーシャンが、「ところで今何週目?」と聞いてきたときには寒気を感じたが、一行はなんとかトラップに引っかかることなくラムスの家の前までたどり着くことができた。


家の前には昨日同様に時計とサツジン軍隊アリが待っていた。なんだか昨日より数が増えたよな、というヒダルマのつぶやきにハーブが硬直したのをラーシャンは見逃さなかった。


ハーブはラーシャンから、ザンサツバッタの佃煮に続き、サツジン軍隊アリでもいじられることになった。


一方でヒダルマは、昨日同様蟻をつぶしていた。昨日のラーシャンの忠告はなんだったのかと思ってしまうほどヒダルマは蟻をつぶし続けた。後に彼は『サツジン軍隊アリぷちぷち同好会~会員数は驚異の50人突破!類は友を呼ぶのだ!~』なるものをたちあげ、ハーブから本気の拳骨を落とされることになる。


次々に巣穴から湧いてくる蟻。目をキラキラさせて蟻をつぶすヒダルマ。思わず後ずさりしそうになったところ、ラーシャンに腕を掴まれて間一髪、ちょっとかすったがトラップをだいたい回避したハーブ。今回発動したトラップは、『全力疾走!お命頂戴マン』シリーズのレッドであったようだ。ハーブの足に赤い筋がスッと入ったように見えるのがその証拠だとか。レッドは同シリーズの中で威力を最も重視した仕様となっており、ブルーが使うような神経毒やイエローが使うような睡眠薬は搭載されていない比較的安全なトラップだと販売元は説明していたが、3人はそんなことなど知る由もない。足をサクッとされたハーブはパニックになった。


ハーブが落ち着きを取り戻したころ、ちょうど30分が経過し3人は家の中へ。


リビングではラムスが見た目にそぐわないため息をついていた。


「どうしたんですか?」


ハーブが尋ねると、ラムスは呆れた顔をした。


「……なんでもないわよお。ところで貴女たち、何かトラップに引っかかったわねえ?」


焦るハーブ。はてなマークを浮かべるヒダルマ。口笛を吹くラーシャン。


「ど、どうしてわかったんですか」


「貴女の足、見事に切られてるじゃない。まあでも完全に切断されたわけじゃなくてよかったわあ」


「お、恐ろしいこと言わないでくださいよ」


「サツジン軍隊アリがいくら怖いからって真後ろに引き返しちゃだめよお。横に逃げなきゃ」


「そんなこと、先に説明されなきゃわからないわよ」


ハーブの指摘にラムスは肩をすくめた。


「ところで、この家のまわりって蟻だらけなのに、どうして家の中には一匹もいないんだ?」


「そうねえ、サツジン軍隊アリには魔法がよく効くのよお。だから家の周りに結界を張れば家には入ってこないわあ」


「ふーん。そういうもんなのか」


「……………でも、ワタシが数年前ここに来た時、そんなの住み着いてなかったネ」


「そうなのよ。最近急増したのよねえ。困ったものだわあ」


「……………ほっとくとヒダルマがつぶそうとするから、ワタシたちもとても困ってるヨ」


「貴方、またつぶしたの?こりないわねえ。一度痛い目を見たほうがいいんじゃあないのお?」


「痛い目だけは勘弁してくださいよラムスさん」


「なんか……ヒダルマが三下みたいに見えるわ。気のせいかしら」


「……………気のせい違う、思うヨ」


「まあまあ、あなたたち、そろそろ訓練場へ行きましょうかねえ。話をしてたら昨日みたいに時間が無くなってしまうわよ?」


一行はラムスに促されてさらに地下へと降りていった。


訓練場にたどり着いたラムスは手をパンパンと叩いて一行の顔を順番に見た。


「今日はまず、あなたたちの実力を試させてもらうわあ。と言ってもハーブの魔法は昨日見せてもらったから、今日はヒダルマね。それ以外の2人は走り込みをしていなさい。走った距離に応じてご褒美も用意してあるからがんばってね」


「え~俺にもご褒美は~?」


「あんたは蟻でも食べてなさい」


「……………相変わらず扱いが雑ネ」


「あら、今の実力によってはご褒美があるかもしれないわよお?」


「ほんとか!俺、がんばる!」


(((……………ちょろい)))


ヒダルマはしばらく準備体操をした後、練習用の両刃の剣を持って魔物と対峙した。


背後ではハーブがヒイヒイ言いながら走っている。ラーシャンは、空に飛び立ってしまいそうなくらいの猛スピードで爆走しているがハーブとは対照的に全く疲れた様子はない。


俺も負けていられない。ヒダルマは剣の柄をしっかりと握り、一歩を踏み出した。


ヒダルマの戦う様子を見ていたラムスはそれなりに感心していた。


(ちょっと粗削りなところが多いけど、格上の魔物相手でも油断せずに向き合えているわねえ。経緯を聞いたときはそんなに期待してなかったけれど、勇者と呼ばれる資格は持ち合わせている………かもしれないわね。とはいえ、あの程度の魔物に苦戦しているようじゃ魔王討伐なんて夢のまた夢よ。期限までの2カ月弱でどこまで腕を伸ばすことができるかしら)


5時間後、ヒダルマの実力をしっかりと吟味したラムスは、未だ爆走を続けるラーシャンと数時間前から力尽きて倒れているハーブを呼び寄せ、今後の訓練のメニューについて説明していた。


「そうねえ、ラーシャンはそもそも腕が立つからいいとして、ヒダルマは、さっき説明した通り、剣の振り方や身のこなしに無駄がなくなればこの先でも戦っていけるはずよ。要は基礎を学びなおすべきかしらねえ」


「えぇ!俺、基礎すらできてねえのかよ」


「そうね。でも、勇気と持久力はなかなかのものよお。伸びしろは十分あるわあ」


「つまり、体力バカってことね」


「そんなこと言わないであげて?正直なところ、短期間の訓練だという前提がある以上、ヒダルマよりも貴女のほうがよっぽど扱いが難しいわあ」


「そ、そんな………私には伸びしろがないっていうの?」


「……………伸びしろ云々の前に、ハーブの魔法はそもそも規格外の強さだヨ。多分、ハーブに残されている課題は体力をつけたり、魔力の緻密な調整をできるようにすることくらいだからネ。ラムスは魔法の専門家じゃないから困ってるんだヨ」


「そうね。それに、ハーブ、貴女にはヒダルマが持っているような勇気があまりないのよお。ここまで図太くなれとは言わないけれど、もう少し、格上の魔物や恐ろしい敵に対する恐怖心を和らげられるような能力を身に着けたほうがいいわねえ。まあ、ヒダルマはヒダルマで敵以外の前ではかなりのヘタレだから、そこは何とかしたほうがいいわねえ。じゃないと貴方、尻に敷かれるわよお?」


「……………ヒダルマは既に尻に敷かれてるヨ」


「敷かれてねえよ!……多分な」


「……………………」


「はいはい、これで今日の訓練は終了よお。頑張った皆にご褒美をあ・げ・る!」


3人はラムスから数枚の紙きれを渡された。

その帰り道………


「あれ?さっきもらった紙きれのこのマーク………これって昨日言った店の招待券?じゃねえか。なんでラムスが持ってたんだ?」


「……………ヒダルマ、まさか店の名前聞いても、何も気づいてないわけじゃないよネ?」


「店の名前?………たしか『レストラン チアムース―』とかいう名前だったか?あまりこの辺では聞き覚えがない名前だよな」


「……………『チャムス』……ここまで言えばわかるネ?」


「わからん!」


「……………………」


「それより、さっきからハーブが元気ないぞ。どうするんだラーシャン」


「……………別にワタシ何もしてないネ」


ラーシャンはとぼけている!


「ああ。確かにお前はなんもしてねえよな。ハーブはさっき訓練場で言われたことを気にしてるんだろうけどさ、ここまで静かだとなんか不気味だっ…………っいてえ!」


ラーシャンの攻撃!ラーシャンは回転頭突きを繰り出した!ヒダルマに1000000ダメージ!ヒダルマはひるんだ!


「……………明日になればきっと直るネ。気にするないヨ」


「お前が暴力を振るったら笑い事じゃすまなくなるぞ。現に俺は今、腕が折れたかもしれん。慰謝料100000000ゴールドを請求する!」


「……………気にするないヨ」


ギャーギャー言うヒダルマ。とぼけるラーシャン。沈黙するハーブ。

彼ら3人は『レストラン チアムース―』へ向かうのだった。

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