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馬車

今回も短いです。

補給を終えたフランたち一行はアライラ湖へ向けて進軍を再開した。


馬車馬の体調は好調なようだ。村へ着く直前と比べて馬車の揺れも少ないように感じられる。フランは先ほどまで行っていた視察の内容を思い出しつつ、自分の統治に生かせる内容がないか吟味していた。


とはいえ、魔界は平和なので今まで報告にあった内容と今回の視察の内容にはそこまで相違がない。作物の取れ高が近年減少傾向にあるようだが、今年、この村ではそこまで深刻な状況ではないようだった。村の者からは、ザンサツバッタの佃煮をもらった。人間界と魔界を行き来するための転移装置から転送されてきたものが魔界で繁殖してしまい、彼らは困っているようであった。また、村の者からは、魔界に生息するサツジン軍隊アリが転移装置を介して人間界の一部の地域に住み着いてしまい、人間の偉い人と少し揉めた事があったという報告も受けた。転移装置の仕様上、仕方ないことではあるが、何とかして被害を軽減させなければ!とフランは鼻息を荒くした。


フランが村の改革案を考えている間、側仕えの2人は人目がなくなったのをいいことに、全力でふざけていた。


「ねえ、お姉さま、馬車の中で足をバタバタするのはお行儀が悪いわよ?」


「え~。だってえ~馬車の中ってすることもなくて暇なんだもん」


「そうね。フラン様はさっきからずっと独り言を言っているだけで、私たちがどれだけからかってもまるで反応がないものね」


「そうそう、私たちの仕事なんて、初めからほとんど無いようなものだしぃ~」


「フラン様をからかって遊ぶことだけがお姉さまの楽しみだものね」


「いやいや、メイサだって楽しそうにからかってるじゃん」


「そうかしら?」


「そうやって大人ぶって~。私はさっきの仕打ちを忘れたわけじゃないんだよ~?」


「何のことか、全くわからないわ」


「さっき村で補給をしている最中にさ~、メイサだけ男にモテてたじゃんか~」


「あら?気づかなかったわ」


「嘘つけ、あんなにドヤ顔してたくせにぃ~。この悪魔ぁ~」


「お姉さま、ちょっとお酒飲みすぎなんじゃないの?」


「あれぇ?メイサ、これぶどうジュースだって言ってたよねぇ?」


「あら、私にしては珍しく失言をしてしまったわ。ぶどうジュースと偽ってお姉さまに一服盛るため、お姉さまに疑われないように私もそれを飲んだのは失敗だったかしら」


ライラはジト目になった!


「もしかしてぇ~一服盛るって言うのは~」


「そうね。自白剤を盛ったわ」


「盛った本人が自白してどうするのさ~」


「さあ、フラン様のお飲み物もこれとすりかえてしまいましょう」


「面白そうだけど、怒られるよ~」


「大丈夫、怒りっぽい大臣たちはお城へ置いてきたわ」


考え事に夢中なフランに悪魔たちの魔の手が迫る!


そのとき、馬車の窓に一瞬だけ何かが映った。


「あら、なにかしら」


「郵便かなぁ?」


「移動中の馬車に郵便物が届くわけがないでしょう?」


「でも、あのハト?見覚えあるよ~?」


「あら、本当だわ。お城からの使いかしら。窓を開けてみましょうか」


メイサが窓を開けると、一羽のハトがばさばさと羽を動かしながら馬車の中に飛び込んできた。その足には書状が括り付けられている。


メイサは包みをほどいて手紙を読んだ。


「あら、これセルバのおじさんからだわ」


「え~セルバはおじさんっていうよりおじいさんでしょ~」


「中身はお爺さんだけど見た目はお兄さんよ?」


「間をとっておじさんだって言いたいのぉ~?最近染めたみたいだけど、白髪も交じってるしぃ~?」


「お姉さまにしては、よくわかったわね。さて、手紙の内容を説明するわよ」


「フラン様ぁ~。セルバから手紙が来たよぉ~」


ライラに呼ばれて、フランの意識は現実へと引き戻された。どうやら馬車に揺られているうちに夢の中へ旅立っていたようだ。なんだかライラの様子がおかしいが、きっとメイサが何かしたんだろう。というよりメイサ以外に犯人が思いうかばなかったフランはあえて何も訊かなかった。


セルバからの手紙には、城で起こった異変と、これから合流しよう、ということだけが手短に書かれていた。余程急いでいたのか、その筆跡にはところどころ読みづらい部分がある。


「へえ~、セルバがここに合流するのかぁ~。やだな~」


「そうね。フラン様を気軽にからかえなくなるものね」


「むう………。からかわれるのは嫌だけど、私もセルバが来るのはもっと嫌ね」


「セルバ、嫌われすぎているんじゃないのかしら」


「セルバじゃなくてミネアに来てほしかったな~」


「フラン様、残念だけどミネアは今、お城の地下に幽閉されているそうよ」


「そんなあ………心配だわ」


「お城を占拠してる奴らはフラン様に害を与えるつもりはないみたいだけど~、そもそもこの手紙自体、信用していいのかなぁ~」


「セルバが黒幕ってこと?」


「それもあり得………ないわね。セルバはどう転んでも裏切るようなタイプの男じゃないわ」


「えぇー………じゃあ犯人は誰なのさ~」


「それは今考えても仕方のないことよ。今は、セルバと合流するか否か、それを考えましょう」


「はいっ!セルバがわざと泳がされている可能性はあるんでしょうか、メイサ先生!」


「うーん、どうなのかしらね。そもそもセルバにはどうすることもできないから放置されているっていう可能性はなくもないけれど………」


「確かに、セルバにはどうしようもできないっていうのはこの手紙から十分に伝わってくるわ。でも、もしかしたら、セルバが相手をどうにもできなかったのと同じように、相手もセルバをどうにもできなかったって言う可能性はどうかしら、メイサ先生!」


「そうね、セルバは性格はかなり頑固だけど、傍系とはいえ王家の血を引いているだけあって魔法の腕前は魔界一と言われているものね。60代半ばで精鋭ぞろいのお城の専属魔術師になった実力は伊達じゃないはずよ。お城で起きている異変の大元が魔術であるなら、犯人がセルバをどうにもできなかったのは納得できるわ」


「同じ王族の血を引いている者でも私とは大違いね」


「フラン様が魔法を使えないのは仕方ないよ。そういう体質なんだから。でもほら、魔法への耐性ならセルバにも勝てるって!」


「たしか、100年前に起こった事件で一部の王族が『魔法への耐性が異常に高くなる代わりに一切の魔法の使用ができなくなる』呪いをかけられたんだったわよね。人間界の王子にも似たような症状が出たってことで10年くらい前にも話題になっていたわ。犯人は今も捕まっていないのだとか?」


「メイサぁ~、今はそんな話はいいんだよ。セルバの件、どうするの~?」


「そうね、セルバが仲間に加われば、もし万が一のことがあった場合にいい戦力になるわ。彼は決して裏切らないでしょうし」


「じゃあ、セルバを仲間に加えるってことで!」


「お姉さまは決定権を持っていないわよ?」


「いいんだよ~細かいことなんていちいち気にしてたらはげるよ~?」


「まあまあ2人とも、私も2人の意見に賛成よ。セルバと合流して彼を仲間に加えましょう」


「次の補給地で待とうか~。


あ、でも、待つまでもなく風魔法を使いながら走って追いついちゃったりして?」


「彼にそんな柔軟な発想はないわよ」


「おじいちゃんだもんね~」


和やかな雰囲気の3人を乗せた馬車と兵士たちは次の補給地を目指して進んでいく。彼女らのまわりだけは平和な世界が広がっているのだった。

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