表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/46

36話 公爵邸

 

 私はアリョーシャの行方を追うため、帝都へ向かうことにした。馬車でこの前の街へ行き、そこから帝都行きの馬車に乗り換える。


「悪いね、ついて行ってやれなくて」

「村の仕事があるから仕方がないよ」


 帝都では、カーチャの旦那さんであるアルトゥルおじさんと、息子のセルゲイに頼ることになる。二人にはもちろん会ったことがないが、手紙でなんとなくの人となりはわかったし、何よりカーチャの家族なので不安はない。


「ほんとはさ。あんたが来た時、息子の嫁にどうかなって思ってたんだよ」

「え」


 突然そんな事を言われて固まってしまう。カーチャ、そんな適当な妄想をしてたのか。


「あんたは素直だし、丈夫で体力もあるし、息子と気が合うんじゃないかってね。まあ、そのあとすぐにあの子が来たからまあ仕方ないか。って思ってたんだよ」


 カーチャはいつもと変わらない顔で、ガハハと笑う。


「ま、この機会だ。ビクビクしてても仕方がない。全部スッキリさせておいで。その上で、セリョージャに乗り換えるってんなら歓迎するからさ」


「あ、あはは……」


 イリヤ爺さんの馬車に乗り、街へ向かう。見送りには、タチアナ婆さんもついてきてくれた。お礼を言うと、「デートのついでさ」と素っ気ない返事が返ってきた。


「……」

「……」

「……」


 老夫婦はあまり喋る人たちではないので、馬車の中は静かだ。外の鳥の鳴き声が聞こえて来る。


 私、帝都に行ってどうすればいいんだろう。国家権力に逆らう事はできないし、問答無用で誘拐する様な相手だ。もしかしたら、私の知らない所で公爵家の子になろうと普通に考えてもおかしくない。きっと、帝都にはなんでもあるだろうし。さっきからずーっと、同じ事を考えている。我ながら、テンションが上がったり下がったりで忙しすぎる。


「はあ……」


「ばーん!!」

 何度目かのため息をついた、その時。突然、積んでいた箱の中からジェーニャが飛び出してきた。


「何してんの!?」

「寂しくないように、ジェーニャもついていくよ〜」

「ダメに決まってんでしょ!!」


「えー。精霊様がいいって言ったもん」

「言うわけないでしょ!」

「いいました!」


 私達の押し問答が聞こえたのか、御者台からイリヤ爺さんの声が聞こえる。


「精霊様がいいと言うなら仕方がねえ。連れていきな。きっといいことがある」

「ええ……」

「親にはあたしらが説明しておくから」


「ちゃーんと、お手紙をかきましたから。だいじょーぶ」

「そんなバカな」


 ジェーニャがちゃんとした手紙を書けるのかどうかは置いておいて、大人二人がいいというのなら、私には反対できない。


「ちゃ、ちゃんと旅行の準備してきた?」

「もちろん」


 どっと脱力する。会えるかわからないアリョーシャの事より、目の前のジェーニャの事で頭がいっぱいになる。タチアナ婆さんに、気がついてた?と尋ねると、「もちろん」と言われ、さらに体から力が抜ける。


 昼過ぎに街へ到着し、4人で軽い食事を取り、次の馬車に乗る。


「ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げると、何か言いたげに口をモゴモゴさせ、意を決した様にこちらを見る。

「……俺、婆さんとは再婚同士でよう。60過ぎてから出会ったんだ。ま、生きてりゃいいことも悪いこともひっくるめて、いろんな事が起きるもんだ。達者でな」


「あたしらが生きてる間に帰っておいでよね」


 手を振る二人に見送られ、ジェーニャの手を引き、帝都行きの馬車に乗り継ぐ。何台もが連なって帝都へ向かう中の、比較的女性が多いものに乗せてもらう。


「お嬢さんたち、二人で帝都に何しに行くんだい」

 私たちはきっと珍しい組み合わせなのだろう。中年の夫婦が話しかけてきた。ふたりは息子の結婚式に出るのだそうだ。


「ちょっと、人を訪ねて」

 私は曖昧にしか答えられなかった。夫婦はその返答に納得した様で、その後もずっと観光地の事を話していた。



 休憩を何度も挟んで、丸二日ぐらいかかってやっと帝都に到着した。


 馬車は広場に停車する。遠目にも、色鮮やかな宮殿の屋根が見える。カラフルな玉ねぎみたいな丸っこい屋根だ。


「えーと、兵舎……」


 道ゆく人に話を聞き、やっとのことで騎士団の兵舎へたどり着く。一般人は敷地内に入れてもらえないが、カーチャ宛に来た手紙によると名前を言えば通してくれる手筈になっているらしい。守衛のおじさんに恐る恐る声をかける。


「あの、すみません。セルゲイ・コーチさんを訪ねて来たんですけど……」

「ああ、親戚の子かい?間の悪いことに、息子さんもお父さんも出ちゃってるんだよねえ。忙しい人たちだから」


「そうですか……」

 夜までには戻ってくるだろうとの話だったので、教会などを観光してくるとの言付けを頼み、その場を離れる。


「これからどうしよっか」

 冷静に考えると、向こうは社会人なのだから昼間に家を訪ねても、在宅している筈がない。


「こーしゃくの家にいこー」

「え、そんな事していいの?」

「いいの! 元気にしてるなら、ショーコを見せろ! ショーコを!」


 証拠、ね。手紙に書いてあったのは間違いなくアリョーシャの字だった。魔法を使えば逃げ出せるだろうに、戻ってこないとは、やはり何か理由があるのだろうか?


「まあ楽しくやってるならそれにこしたことはないよね」

「思ってもいないことをゆーな!」


 最近のジェーニャはすこぶる口が悪い。とうとう反抗期に突入してしまったのだろうか。またもや人に尋ね回って、貴族のお屋敷が密集している地域に来た。周りの視線が痛い。道ゆく使用人っぽい人たちに公爵邸の場所を教えてもらう。



「お通しできません」

 公爵家の入り口でけんもほろろに断られた。当たり前の展開だ。セルゲイが散々ダメだったと言っていたんだから、私たちはもっとダメだ。我ながら馬鹿な事をしているなと少し後悔する。


「試しに、私たちが来たことをお伝えしてもらえませんか?親戚なんです」

「仰っていることがわかりかねます」


 門番の人は無表情で、手に持っていたベルを鳴らした。


「おうおう、ショーコはあがってるんだー。キシダンを呼んだっていいんだぞー」

 ジェーニャの口がどんどん悪くなっていく。やめなさいと、手で静止する。


「アリョーシャは元気ですか?」

「当家の方のお名前をみだりに呼ぶのはおやめ下さい。庶子とは言え、公爵家に連なる方ですので」


「彼は元気ですか?」

「お答えできかねます」


 横の勝手口から衛兵らしき人が出てきて、門から引き剥がされる。立派な鉄製の柵にしがみつきながら屋敷を見ると、窓に人影があった。長い銀髪。アリョーシャだ。間違いなく、あの影はアリョーシャだ。


「アリョーシャ!」

 私は大きな声で彼の名前を呼ぶ。人影がビクリと反応したのがはっきりと見えた。窓に手をかけて、身を乗り出そうとした身体を、後ろにいた誰かが引き止めている。


「アリョーシャ! 私! モニカだよ! ねえ! 本当に元気にしているの!?」

 可能な限りの大声を出す。大人の男性の力には到底かなわず、私たちは歩道に叩き出された。というか、押し出された。いかつい衛兵が、私に顔を近づけて、ささやくような声で話しかけてきた。


「わざわざ田舎から出てきて気の毒だが、あの兄ちゃんの事は諦めた方がいいぜ、公爵家には近寄るな。騎士団にツテがあるなら、大人しく保護して貰って帰りな。報告はしないでおいてやるからよ」


 どんな暴言を吐かれるのかと思いきや、思いのほか優しい事を言われてびっくりしてしまった。そのまま、呆然としている私たちを置き去りにして衛兵と門番は中に引っ込んでしまい、私とジェーニャは馬車がそこを通るまでそこに立ち尽くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 名前がロシア風なので、みんなロシア風(ウクライナ、ベラルーシかも)の美男美女で妄想。私の脳内のアリョーシャはやばいくらい美しいです。 そしておばちゃんは恰幅がいい(笑) 音楽がこの現実世界…
2020/01/13 17:14 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ