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29話 そして春が来た 上

長いので前半後半に分けます。夜に後編を更新できたらと。

「せいやっ」


 私は薪割りをしている。これは冗談ではない。春夏秋の間に、次の冬で使う薪を作っておかねばならない。乾燥させなければいけないので、冬になってあわてて作り始めても絶対に間にあわないのだ。


 薪割り体験をした事がある女子高生……元女子高生か。は、なかなかレアキャラだろう。上半身の筋肉もかなりついてきた。女子なので、そこまで見た目ムキムキにはならないけどね。


「モニカ……お疲れさま。クヴァスがあるよ」

「あー、ありがとう」


 アリョーシャが飲み物を持ってきてくれる。クヴァスと言う、あえて説明するならば麦茶を甘くして、さらに炭酸を追加したような味だ。最初はめちゃくちゃ慣れなかったけど、だんだんぐいぐいいけるようになる。慣れって怖い。


 冷えたクヴァスを喉に流し込む。アリョーシャの魔法は本当に便利だ。


「じゃあ僕は、倉庫に行ってくるね」

 最終的に、アリョーシャは村の食糧庫で働く事になった。何しろ氷の魔法が使えるし、読み書き計算も得意。食料を凍らせて、保管する係になった。夏場も冷凍庫が使えるようになったと言うのは、この村にとって物凄い進歩だった。私?私はガチの農民ですけれど。


 畑仕事が始まると、悠長にスケートしたり、音楽の練習をする時間はない。ニコロは雪解けと共に去っていった。冬になったらまた村に来るのか?と聞いたけど、曖昧に笑うばかりで返事をしなかった。あいつ、音楽プレーヤーから書き起こした楽譜を使って帝都で荒稼ぎをするつもりだな。私にはわかる。


 出稼ぎに出かけているカーチャの旦那さんは、帝都で息子さんの仕事を手伝っているらしく、そちらが忙しすぎて戻れないらしい。まあ、息子……セルゲイさんが全く帰省してこないぐらいだからね。こちらも人手が増えたからまあいいかという事で、そのままだ。ちゃんと毎週手紙が届いている。


 なんと、旦那さんは一回り年下らしい。昔は上司と部下の関係で、カーチャが仕事を辞める時に婿にしてくれとついてきたと言うのだ。それを聞いてびっくりしてしまった。例のなんかカッコいい二つ名については、まだ聞けないでいる。


 ホールの建設作業も、並行してちんたらと進んでいる。なにせ、春はやることが多いものだから、どうしても後回しになるのだ。


「おーい、モニカー。明日暇か?」

「暇な日なんて1日もないっ!」


 ドミトリに返事をしながら、最後の薪を叩き割る。


「お前、薪割りの才能もあったのか。普通の女子はこんなにできねえよ」

 ドミトリが心底感心した様子で私の作った薪を見る。体を鍛えていて本当に良かった。異世界トリップを夢見る女子には、是非とも体を鍛えておくことをお勧めする。お姫様やお嬢様になれるとは限らないからだ。


「ま、こんなもんでしょ。ところで明日、なんだって?」

「明日、山に行かねえ?ついさっき、アリョーシャが春になったら秘密の場所に案内してくれるって言ってたのを思い出したんだよ」


 そういえばそんな事もあったな、と思い出す。


「私はいいけど、他の人は?ドミトリが取りまとめしてくれるの?」

「いいぜ。モニカはアリョーシャに言っといてくれ。俺は他のやつを集めるから」


 あいつ、私たちのことを暇人だと思っているな。走り去るドミトリの背中を少し睨む。


 軽く汗を流し、今度は畑に向かう。何もない雪原だと思っていた場所は全て畑だった。オリガがちんたらと土を耕している。


「おお、モニカ。救いの神よ……」

 私に気がついたオリガが鍬を投げて、私を拝み始めた。これは農作業を代わってくれのポーズだ。そのかわり、私も細かい作業を代わってもらう。


「本当にひ弱だね……」

 オリガは洋裁なら夜通し作業ができるのだが、力仕事はからっきしだ。私はその真逆なので、なんだかんだうまくいっている。


 畑を耕し終わって休憩場所へ戻ると、柵の修繕をしているカーチャに出会った。


「モニカ、今日も頑張っているね。やっぱり足腰を鍛えている子は違うね」

「ふふーん」


 冬の時はあんなに先行きに不安を感じていた私だが、すっかり氷娘から土娘にジョブチェンジしてしまった。やはり冬場は鬱っぽくなる人が多いという話、あれは本当だったのだ。


「明日、皆で山へ行こうって話になって。その前に、耕しておかなきゃ」

「そんなに頑張らなくても大丈夫だよ。あたしの仕事がなくなっちまう」


 二人で農作業をし、家に戻る。家のお風呂に入って、夕食の準備をする。


「あ、そうだ。明日、アイスクリームを作って持って行こう」

 普段なら、この季節になると氷菓子は食べられない。しかしアリョーシャの魔法があれば、凍ったまま持ち運ぶ事ができる。作るのも一瞬だ。この世界において、魔法が使えると言うのはあまりにもチートだ。


「あー、私も魔法を使えたらな」

 芋の皮を剥きながらこぼすと、カーチャがふと手を止めた。

「確かに便利だけど、煩わしい事もいっぱいあるさ。やれあれしろこうしろだの、周りがうるさいもんさ」


 確かにそうかもしれない。アリョーシャに頼む時は気をつけて、ちゃんとお礼を言おう。そもそも材料が揃ってるかな。ぼんやり考えながら、皮を剥いた芋を潰す。私も腕力が強くなったもんだ。筋肉は裏切らない。


「帝都には魔法が使える人がいっぱいいるの?」

「いっぱい、って程でもないと思うがね。まあ、稼ぎはいいけど大変だよ」


 喋っているうちに、噂の男が帰ってきた。手に食料品の入った袋を持っている。

「明日、アイスクリームでも作って持って行こうかと思って」

「私も、ちょうど同じこと考えてた!」


 顔を見合わせて笑う。私も、アリョーシャも、お互い出会った頃よりよく笑う様になった。夕食後、アイスクリームの仕込みをして、荷造りをする。寝る前、筋肉痛にならない様ストレッチをもう一度する。


「マジで、随分筋肉がついたよなあ」


 上腕二頭筋をさすり、就寝する。私はその日、夢を見た。上半身の筋肉がムキムキになりすぎて、スケオタ達からのあだ名が「モニカちゃん」から「モニカの姉貴」になってしまう夢だった。


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