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20話 雪の尋ね人 下

 

 嫌な沈黙が続く。


「お邪魔しました」

 アレクセイがガタリと立ち上がる。


「いや、お待ち。すまないね、あんたに対して思う所がある訳じゃない。ただ、背後にいる奴は誰なんだろうって、少し思っただけさ」


 カーチャは座るよう、身振りで示す。アレクセイは少し腑に落ちない、といった感じの表情をした。


「イリーナはあんたに、人里へ降りないように言い残した。でも、あんたは今日初めて村に降りてきた。それはどういう事なんだい」


「はい。私は今18歳なんですが、そろそろいいだろう、との精霊様の判断です。後数年のうちに、眠りに入られるとの事ですので。その前に普通の人間と一緒に暮らすことができるか、試しなさいと」


「眠り?」

 精霊って寝るのか。意外だった。


「そうか……それで、あんたを守ってやる事ができなくなると、そういう事だね」

「はい。今すぐにではないですが、ご本人にそのような感覚があるそうです」


「そ、それ何がどうなるの?冬がめっちゃ厳しくなるとか?」

「そこまでの事はないと思うけど、今までみたいにお話をすることができなくなるってことさ。この地を守ってはいただけるが、交流はできなくなる。ま、この地域が自由すぎるんだけどね」



「冬眠みたいなものだ」

 冬眠。なるほどね。それならなんとなく理解できる。

「なるほど。それで、住むところがなくなったので親戚を頼ってきたってことね」


「厚かましい話なんですが、そうです。エカテリーナさんが今の村長だとお伺いしたので」


「ダメなら山へ帰りますので、少し、村に滞在させていただけないでしょうか」


 アレクセイは真剣な顔でカーチャを見つめる。厚かましさで言ったら私の方が100倍上なので何も言えない。むしろ二人養えないって言われて、追い出されたらどうしようと、ちょっとビクビクする。カーチャはそんなことしないと信じてはいるけれど。


「あたしは構わないさ。部屋は余ってるからね。モニカはそれでいいかい?」

「へ?いいんじゃないの?」


 私に選択権はない。当然の事だ。別に嫌なわけでもないし、ニート同士仲良くしようよ?とすら思う。いやしかし、超絶有能だったらこちらの肩身がいっそう狭くなる。少なくとも、魔法?は使えるんだろうし……。


「ありがとうございます。精霊様から預かったお金があるんですが」

「お金はいらないよ。モニカからも貰ってないんだ。あんたが払ったら話がややこしくなるだろ」


 ちょっと、いやかなりひやっとした。やっぱり私、自分で言ってて悲しいけど、相当厚かましいな。


「そうですか。では、村に何かあった時のために取っておきます」

「ああ。それでいいよ。いつかそんな日が……いや、来なくていいんだけどさ」


 カーチャはポットのお湯を継ぎ足しに、席を立つ。その後ろ姿を見送る。アレクセイの方をチラッと見ると、彼もこちらを見ていた。気まずい。


「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 いきなり丁寧に話しかけられたので、オウムのようになってしまう。


「あ、バラ、ありがとう。私の国では、気に入ったスケート選手にお花を送る風習があるの」

「母の遺品に、乾燥させたバラがあったから、女性はバラが好きなんだと思ったんだ。でも、司祭はスイートピーだと書いていた。確かにそうかもしれない」


「それ、単に服のイメージじゃない?」

 私が持っている衣装はピンクのグラデーションに、スワロフスキーをあしらった一般的なものだ。フィギュアスケート、と言われて大体の人が私の着ているようなものを連想すると思う。


「そうかな」

 アレクセイは私をじっと見た。やっぱり、どう見ても画面の中の世界の人だ。あんまりこの顔を眺めていると、後で自分の顔を見た時にショックを受けかねないな。


「ねえ、スケートする?」

「しない……」


 スケートしないのか。意外だ。あんなに立派なリンク……いや湖か。があるのに勿体ない。

「じゃあ、明日スケートしようよ。まあ、その前に雪かきしなきゃいけないんだけどさ。男手が一人増えたら、早く終わるかもしれないし」


 正直に言って雪かきはかなりの重労働なので、そんなに早く終わるとは思っていないけど。


「雪かき……家の屋根とか、道とか、人が通る所の雪をずらせばいいんだろう?」

「そうそう」


「それなら、多分できると思う。すぐに……」

「え、そうなの?魔法で?」


「ああ。スケート?氷も綺麗にできると思う。多分だけど」

「もしかして、夏でも氷を作れたりする?」


 あの湖で見た、つるつるの氷。もし、あれが魔法によるものだとしたら?このバラが魔法で作られているなら、もしかして、スケートリンクすらも作れるんじゃないだろうか。


「あの湖の大きさぐらいなら」


 アレクセイの言葉に、私は天に両手を突き上げてガッツポーズした。お菓子とポットを持ってきたカーチャが不審な目でこちらを見つめている。


「どうしたんだい?」

「夏でも氷が作れるか、と聞かれて」


 もう一回、ガッツポーズをした。多分、もっと有効活用できることがあるんだろうけど。私にとっては、それが一番大事だ。


「夏でもスケートしたいのかい?せっかくなんだから、水浴びとか山登りをすればいいのに。やっぱり氷娘なんじゃないか?」


「夏は夏で好きだよ!」

 でも、一年中スケートが出来るかもしれない。そのことで、私の胸は喜びでいっぱいになった。





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