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15話 冬の祭り 下

「ええ!?違うの!?」

 思わずストレートな感想を述べてしまう。


「まぎらわしくて、すいません……」

 美青年はうつむいてしまった。


「こちらこそすいません。てっきりそうなのかと思ってしまって。精霊様じゃないってことは、例のイリーナさんの息子さんですか?ちょっとお父様に取り次いでもらえませんか?」


「精霊様の息子でもないです……」


「なんでもいいって。息子じゃないって言っても、育ててもらってんだろ?」

「はやく」

「はやくしろ」

「精霊様を見せろ」

「こいつよく見たらうちの母ちゃんの作った耳当てしてんな」

「あらホント。よく似合ってるわー。それにしても美男子ね。うちの父ちゃんと交換しようかしら」


 精霊ではないと言った瞬間に、村人のテンションが通常営業になる。酔っ払いがちらほら混じっているので、自称精霊ではないさんに対して非常に手厳しい。


「あ、あの……その……申し訳ありません……」

「でかい図体のくせに声小せえな!」


 パーヴェルさんの酒癖は最悪だった。ベロンベロンに酔っ払っている。真面目な人がお酒で豹変するところは見たくなかった……。


 確かに青年は声が小さい。遠目から見たときは威厳がありそうに見えたけれど、今は完全にヘタレっぽいオーラを出している。手に持っている、氷のバラも心なしか萎れて見える。


「ちょっと!皆さん、めちゃくちゃ言わないで!!機嫌を損ねたら、不作になるとか脅してたのはなんだったの!?」


「精霊じゃなくてこの辺に住んでる人間なら、うちの村人扱いだろ」

 ドミトリがしれっとした顔で言う。何、その人類皆友達理論は。


「あ、あの。私、精霊様にお会いしいたくて。ここにいる、んですよね……?」

「今呼んできます」


 青年が一歩後ろに下がろうとした瞬間、


「あんまりアリョーシャをいじめないでやってくれ。その子は人間に慣れていないんじゃ」


 突然妙にいい声が響き渡った。


「せ、精霊さま!今度こそ本物の精霊様です!」

 パーヴェルさんは酔いが一気に覚めた様で、普通の状態に戻った。その声で、とたんに辺りは静かになる。


 青年の背後、崖の裂け目の奥から、トコトコと真っ白いボルゾイが現れた。この前、教会の祭壇で目があった犬だ。


「せ、精霊様ですか?」

「いかにも。お主、この前会ったの」


 村人たちは一人残らず押し黙ってしまい、ニコロもカーチャもじっと見つめているだけだ。


「その節は、すいませんでした……」

 とりあえず、深く頭を下げて謝罪する。


「よいよい。面白いものを見せてもらった。騒がしいと思ったら、このような遊びを見つけていたのだな。良き。冬は、皆大人しくてかなわんからの。これからもたまに見せにくるがよい」


 精霊様はちょこんとお座りをし、前足を上げて黒い肉球をこちらに向けた。


「触れて良いぞ」

「あ、ありがとうござい……ます?」


 厳かに言われ、困惑しながら肉球をつつく。


「それで、お主、何しに来たんじゃ?モニカなんて氷娘いたかの?と思ったが、やはり違うではないか。氷娘っぽい『迷い子』よな。蜂蜜でも欲しいのか?」


「そ、そ、それ、それです。あ、蜂蜜じゃないです。私、迷子なんです。元の世界に返してください」


「残念だが、無理じゃな。蜂蜜はあるが」


「えええええええええええええええええ!?」


 無理。無理って、どう言う事?神じゃないの?なんで私はここにいるの?


「ワシはこのあたりの冬を司る精霊じゃから、そんな大層な力はもっとらん。ごく稀に、世界の裂け目にぶつかってしまうものがおる。お主がそれじゃ。たまたま、この地に合う体質だったので上手いこと適応してるんじゃな。うむ。ワシの考察、完璧」


 つまり、事故って事?

「え……じゃあ、私、帰れないってことですか?私がここにいるのと、精霊様はなんの関係もなくて、私はずっとこのままって事ですか?」


 頭の中がぐるぐるする。帰れない。帰ることができない。『中江萌仁香』はどうなっちゃうの?お父さんと、お母さんは?そうか、これはやっぱり夢だ。異世界じゃなくて、私の夢の中なんだ。真冬に外でスケートしていて、寒くないなんて変だもんね。


「うむ。精神だけならばなんとかなるかもしれぬが、お主の肉体もここにある。可哀想じゃが、ワシにはどうすることもできん。できる限りのことはしてやるから、この地で暮らすとよい」


 体中の力が一気に抜けて、立てなくなる。


「まあ、もっと大量の魔力と、術者がいれば無理やりなんとかは出来るかもしれぬが、危険を伴うし、アリョーシャもお前を気」


 話の途中で私は倒れた。カーチャが後ろから抱きかかえてくれる。


「モニカ!大丈夫かい!しっかりおし!」

 カーチャのはげましが遠くに聞こえるけれど、私の意識はだんだん遠くなっていった。


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