闇の法律の世界(ダーク・ロー・ワールド) ★
ドア越しに少女はティナに話しかけてきた。
「やっと会えたね、お姉ちゃん」
「………え?お姉…ちゃん?」
ティナは少女から告げられた一言に妙な違和感を感じた。
「どういうこと?……お姉ちゃん?……私が、…お姉ちゃん…まさかあの娘…」
ティナはカギを開け、ゆっくりとドアを開けた。
(この娘は私の……)
少女は顔を上げ、ティナと目を合わせた。
約五秒間、ティナと少女は見つめ合っていた。
すると少女は囁くようにティナに向けて言った。
「条件は整ったわ、"闇の法律の世界"(ダーク・ロー・ワールド)」
「!!?」
少女が囁いた瞬間、ティナは闇の中に引きずり込まれた。
「……ここは、どこ?」
ティナは闇に染まった空間を見渡し、自分の体を触って確認した。
「どこも怪我はしていない、…真っ暗なのに自分の体ははっきり見えている…この空間は、あの娘の能力?」
「そう、これは私の能力で創造した空間よ」
「ひっ!?」
ティナの背後から急に姿を現した少女。ティナはいきなりの事に驚きを隠せずにいた。
「そんなに怯えなくてもいいじゃん、私泣いちゃうよお姉ちゃん…」
「お、お姉ちゃんって…一体どういうことなんですか!?あなたは私の」
「家族じゃあない」
ティナの言葉を遮るかのように少女は口を挟む。
「正確には家族だった、…かな?」
「……だった?」
「そう!家族だった!けど今は違う、ティナ・アストリア、あなたを殺しに来たんだ」
少女はいきなりティナを殺すと宣言した。
「ちょ、ちょっと待ってください!…どうして私を殺そうとするんですか!?意味が分かりませんよ!」
ティナがそう言うと、少女は不敵な笑みを浮かべた。
「分からなくていいよ、あなたはここで死ぬんだから」
少女が何かをしようとする素振りを見せたところで、ティナはすかさず能力を発動させた。
「(精神を研ぎ澄ます…)……!よし!」
ティナは"金色の炎"を発動させ、少女に攻撃しようとするが、
「…………ッッ!!!?」
それは阻まれた。
「あああっ!あああぁぁぁぁ!!!」
ティナの手の平に灯した炎をいつの間にか剣の形をした黒い影が炎と手を突き刺していた。
「あはっ、引っ掛かった~、痛い?痛い?」
「……っはぁ、…はぁ……!?」
黒い影の剣が刺さった手を見ると、傷はなく、血が流れていないで痛みだけが残っていた。
「私の能力、"闇の法律の世界"はね、物理的なダメージは与えられないの。だけど、幻覚を見せる事で恐怖と苦痛を与えられる。」
「…さっきの痛みは、…本物じゃないと……いうことですか?」
「そうよ、あなたが私に危害を加えようとすると空間はあなたに幻覚を見せて精神的なダメージを与える。つまり、この空間であなたは私に攻撃できない。」
「…!!(自分にとって有利な状況にすることができる、空間創造能力)」
少女に攻撃しようとすれば、創造した空間によってそれは阻止されてしまう。物理的な痛みではなく、精神的な痛みを与える恐ろしい空間にティナは入り込んでしまったのだ。
「じわじわと、苦痛を与えてあげるわ。…精神が壊れるまで」
(どうすれば、…どうすればこの空間から脱出できるのか……考えなきゃ)
「…………え?」
ティナがこの空間の脱出方法を考えていると、自分の足に何か違和感を感じ、足元に目をやると手を突き刺していたのと同じ黒い影の剣が二本、ティナの両足を貫通していた。
「!!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ティナは激痛を感じて、体勢を崩し倒れてしまう。
「この空間は私の思うがまま、もっと苦痛を味わってね、ティナ。じゃなきゃ壊しがいがない」
少女は笑みを浮かべ、その心は狂気に満ち溢れていた。
そしてティナは苦痛に耐えながらも理性を保つ。
「なんで、…わ、私に、こんな…ことを!?」
「おかしな事を言うんだね、魔物同士が戦うのは逃れられない運命。最後まで生き残った者にだけ願いを叶える権利を得られる……でしょ!」
「……どうして、どうしてみんな、願いを叶える為に傷付き、消えなきゃあいけないんですか!?みんなで一緒に、生きていけばいいじゃないですか!…悪い事をする魔物は、許せませんけど、…でも、話せばきっと分かり合えるはずです!」
「………ホント、変わってない…」
少女は右手を振り下ろした。そして倒れているティナの肩に、腕に、太ももに、あらゆる箇所を黒い影の剣が突き刺さった。
「あ、…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」
「そんなきれいごとを言ってるあなたが向こうの世界で、なにをしたのか……忘れてないよね?」
「はぁ、…はぁ、わ…たしが、一体、…なにを、……」
「……まさか、……覚えてないの?」
すると少女の表情は怒りへと変わっていった。
「………そう、覚えてないならいいよ、あーあ気分が変わっっちゃった~。いたぶるのはもうやめよ、今殺してあげる」
少女は両手を広げて、空中に無数の黒い影の剣を創り出した。
(このままだと、……やばい!)
体を起こそうとするが、動く度に突き刺さるような痛みが体中に走った。
「!!……っ(この痛み、…本当に幻覚なの!?)」
あまりの痛さにティナはもう気絶寸前だった。
「さよならティナ、……――――。」
ティナは少女のかすかな言葉をしっかり聞いていた。しかし、時は既に遅く、無数の黒い影の剣がティナに向けて降り注いだ。
「………ゆう、…さん…!」
ティナの振り絞って言った一言、この一言が自分の最後の言葉だと思った瞬間、奇跡は起きた。
「"金色の炎"(ゴールド・フレイム)!!!」
金色に輝く炎が闇の空間を薙ぎ払うかのように一掃した。
「!?…私の"闇の法律の世界"が破られた!!」
「俺の家の前でよぉ、何物騒な事をしてんだ!」
ティナの窮地を救ったのは雄人だった。
雄人はティナを抱き抱え、少女を睨み付けた。
「お前、魔物か…言っとくが、子供だからって容赦はしないからな。ティナをこんな目に合わせやがって、ただで済むと思うなよ!!」
「その炎、…なるほど、あなたがティナの契約者って事ね」
「ゆ、……ゆうさん…何で、ここに……」
意識が薄れゆく中、ティナは雄人に問いかけた。
「なんか胸騒ぎがしてよ、学校早退してきて正解だったぜ。今は休んでろ、後は俺がけりをつける!」
雄人の言葉にティナは安堵し、身を任せるように気を失った。
「いいよ?…ティナを置いてきても、順番が変わっただけだからね……殺す順番が。」
少女はティナを家に置いてきてもいいと言う。その言葉を聞いて雄人は冷静に、敵を見据え、少女に言い放った。
「お前、嘘つきだな」




