契約の炎
「魔物が近づいて来ています!」
「何だと!?」
ティナは自分達に近づいている魔物の魔力を感知していた。それに気付き、雄人とティナは急いで外に出て敵との距離を離す為に走り出した。
「そいつは間違いなく俺達に向かって来ているのか!?」
「はい!おそらく私と同じように魔力を感知する事が出来る魔物だと思います!」
「契約ってのは一体どれくらいかかる!?魔物との今の距離は!?」
「契約は最低でも10分はかかります!一気に魔力を送り込めば雄さんの体が耐えきれずに死に至る可能性があるんです!敵との距離は約300mです!」
「マジかよ!もっと距離をとらねーと契約なんか出来ねーぞ!ってか敵は人間状態のお前を感知したっていうのか!?」
「すみません!人間になるのはあくまで化ける事、つまり人間に見せてるだけなので、魔力を全て消すことは出来ないんです!敵は私のかすかな魔力を感じとったんだと思います!」
「そういう事だぁ!"十字風"!!」
「!!?」
すると走っている雄人とティナの上から何者かの声がした。
ティナは雄人の手をとって横に避け、敵の攻撃により地面に十字の切れ目が入った。
「上手く避けたなぁくそガキ!!」
攻撃を放った魔物の姿は黒のツンツンとした髪に緑色のバンダナを巻き、黒いTシャツを着て下は迷彩柄の半ズボンを履いている。見た目はティナと同じく人間の姿だ。
「おいおい、コンクリートの地面に綺麗な切れ目が入ってんぞ!しかもあの野郎人間の姿じゃあねーか!契約者なのか!?つーかさっきまで300mくらい離れてたんじゃねーのかよ!」
雄人は驚愕し、焦りながらも敵を分析していた。
「落ち着いてください雄さん!…あれは人間の姿をした魔物です!そしてあの攻撃は風属性!一気に私達に追いついたのは風の能力を使ったんだと思います!」
「その通りぃ!俺の名はフウゼン!!くそガキが言った通り、風の能力を使う魔物だぜぇ!!」
「ちょ、すんません!情報量多すぎて訳分かんねーんだけど!?」
「分からないならそれでいいぜぇ!俺等魔物に関わった以上、てめぇは死ぬんだからよぉ!!」
フウゼンは手を勢いよく横に振るとかまいたちのようなものが発生して雄人に向かって飛んでいく。
「危な!!」
雄人はかまいたちをギリギリのところで下にかわした。
「人間ごときが!よくかわせたなぁー!」
「雄さん!!大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ねー!それよりもこの先に神社がある!そこに広い森みたいな場所があるからそこに一旦隠れるぞ!少しは時間稼ぎができるはずだ!」
「はい、分かりました!」
「この俺から逃げられると思ってんのかよ!!潔く殺されろやぁぁ!!」
二人はそのまま走り神社に向かうが、フウゼンも二人の後を追う。フウゼンは自分の両足に紫色の風の球体を纏わせると地面を思いきり蹴りあげて大ジャンプをした。
「このままじゃ追いつかれちまう!ティナ!お前もあいつみたいに何か攻撃出来ないのか!?」
「!?///(今私の名前を…ってそれどころじゃない!)私の能力は契約しないと使えない能力なんです!」
「何!?じゃあ自分の能力がどんなものか分からないのか!?」
「す、すみませ~~ん!!」
ティナは走りながら雄人に謝る。
二人は神社にたどり着き森の中に身を隠した。
「はぁ、…来れたはいいが、あの野郎に見つかるのも時間の問題だ!さっさと契約済ませよーぜ」
「はい…!!」
契約を始めようとした瞬間、ティナは足下の二つの影以外にもう一つの影がある事にいち早く気づいた。
「"天の風切り"!!」
「雄さん!!!」
ティナは雄人を突き飛ばし、空から降り注ぐ紫色の魔力を帯びた風の斬撃を浴びてしまった。
「ああぁぁぁぁーー!!」
「!?ティナァァァァ!!!」
やがて風の斬撃の雨は止み、雄人は青ざめた表情でティナのもとへ戻る。
「おい、ティナ!……起きろよティナ!!」
「…ゆう、…さん…」
彼女の体は傷だらけになり、数ヵ所の切り傷から血が出てくるところもあった。
「渋てぇじゃあねーかくそガキ!だが、次の一撃でてめぇはリタイア、つまり"死"だ!!ヒャァーーッハーーー!!」
フウゼンの笑い声が森の中で響き渡る。雄人は怒りの表情でフウゼンを睨み付けた。
「お前はこんな小さい子どもを傷つけて何とも思わねーのかよ!?そんなに願いを叶えるっつー事が大事なのかよ!!」
雄人が叫ぶとフウゼンが放つ風圧により、雄人は後方に吹き飛ばされ大樹に体を強く打ち付けた。
「かはっ!」
「あー、俺に怒鳴ってんじゃねぇよ人間風情が。…てめぇから死にたいか?ま、そのガキの契約者なんだし、てめぇを生かすつもりは全然ねぇけどな」
フウゼンは冷たい視線を雄人に向ける。その目には殺気が込められ、狂喜を味わいたいような、そんな目をしていた。
よろめきながらも立ち上がり、雄人はティナの前に立って怯える事なくフウゼンに言い放つ。
「…はぁ?俺はまだ、…こいつとは契約なんかしてねーぞ」
「何だよてめぇ、まだ契約してねーのか。じゃあ何でその得体の知れないガキを庇おうとしてんだ?全くの赤の他人だろう?」
フウゼンは続けて雄人に言う。
「教えてやるよ。契約をするとなぁ、その契約をした人間に魔物の持っている魔力が体に宿る。魔力を感知して探す魔物が沢山いるからなぁ。そうなれば、てめぇはこの世界にいる魔物共から狙われる事になるんだぜ?そして、てめぇはこの魔物同士の戦いにずっと身を投じなければならない。…分かるか?魔物に手を貸すということはてめぇはもう普通じゃ居られねぇんだよ!そのガキと一緒に怯えながら生きていくって事なんだぜぇ!!」
魔物と契約して特別な力を得る。その代わり身に宿した魔物の魔力により、契約者も他の魔物から狙われてしまう。ティナは魔力を送り込んで能力を得るとは言っていたが、その送り込まれた魔力によって、他の魔物から感知されて狙われるということは雄人に伝えられていなかった。
「………」
「雄さん、……ごめん…なさい……言わ、なくて、…伝え…なくて…」
ティナは後悔した。契約の内容全てを伝えていれば、雄人は契約者になるとは言わなかったはずだ。自分の身勝手な思いのせいで魔物の戦いに雄人を巻き込んでしまった事に。そしてティナは雄人に告げる。
「逃げて、ください。…ここは、私が、足止めするので…」
ティナは傷だらけになった体を無理やり起こすように、ふらふらになりながら歩き、雄人に背を向けて、目の前の敵を見据えて立った。
「逃がさねぇって言ってんだろぉが!」
するとフウゼンは両手を前に出し、風の魔力を集中させて手のひらサイズの風の塊を凝縮させた球体を創り出した。
「これでてめぇらは死ぬ!俺は何て優しいんだろうなぁ、二人まとめて殺してやるんだからよぉ!!一緒に逝きやがれ!!」
「来る!…雄さん、早く、…逃げて!」
雄人は黙ったまま、何も喋らずに立ち尽くしていた。
考えていたのだ。
「(ティナを置いて逃げる…、人間が魔物なんかに敵う訳がない、…か)…そんな事しねーぞ」
「…雄さん?」
ティナを救う方法を――。
「俺は見捨てない!やってやろーぜティナ!あのバンダナ野郎をぶちのめすぞ!!」
「!………雄さん!!」
ティナは思いもよらない言葉を聞いて、嬉しさのあまりに涙を流した。
「急げティナ!お前の魔力を一気に俺に送れ!!」
「ですが雄さん!そんなことをしたら雄さんの体は…」
「一か八かだ!お前の魔力ってやつを全部受け止めてやるよ!」
「…分かりました!雄さん、私の手を握ってください!あらりょーじ?…ですが私の魔力を受け取ってください!!」
「お、おう!」
荒療治の事かと雄人は思ったが今はそれどころではないので後回しにして、ティナの手を握った。
「させねえぞカス共がァァァ!!"爆風撃破"!!」
フウゼンは両手に溜めた風の球体を雄人達に放つ。風の球体は徐々に大きくなっていき、周囲の木々は風圧で激しく騒ぎ始めた。
「行きます雄さん!」
「よっしゃ来い!!」
雄人とティナの繋がった手が赤い炎を纏い、やがてその炎は雄人の方に流れ込むかのように移動した。そして雄人に伝わった瞬間に激痛が身体中に走った。
「ーーーッッッッッ!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――。
雄人は引き裂かれそうな痛みに苦しみながらも理性を保とうと必死に足掻いていた。
「(いてぇ!超絶いてぇ体が張り裂けそうだ!!だが耐えろ!今はあのイカれた野郎を倒す事だけを考えろ!!)おらぁぁぁぁぁぁ!!!」
風の球体が雄人達の目の前まで来た時、炎は雄人とティナの体を覆うかのように赤く燃え上がり、フウゼンの一撃を防いだ。
「!?…なんだよあの炎はぁ!!」
「……雄さん!!」
フウゼンは驚愕しティナは歓喜の表情だった。
雄人が纏った炎は、赤色から金色の炎に変わりティナには雄人のその姿が神々(こうごう)しくも思えた。
「……ふぅ。超絶痛かったがよー、これならいける気がする!」
雄人はティナの手を離し、フウゼンを睨む。
拳を強く握ると金色の炎は雄人の右手に集中した。
「行くぜ、バンダナ野郎!!」
「この赤髪ぃ!!!」
雄人とフウゼンの戦いが今、始まる。
どうもKAITOです!もっと早めに挨拶するべきだったのにすみません。小説はまだまだ初心者なのでどうか温かい目で見守ってください。
「pixiv」の「リュウト」という名でイラストとかも描いたりしてるのでそちらの方も是非見てください!因みに今はティナの絵を集中的に描いています!(いずれ雄人も載せる予定)
今後ともよろしくお願いします!




