剣の魔物
深い森の中にあるアジトから少し離れた場所、そこには三体の魔物がアジトの方角へと迫っていた。
「おいスネイク、こっちの道で合ってるのか?どこもかしくも茂みだらけで何もないぞ。」
「まあそう焦るなよカウゼス。迂闊に突っ込めば返り討ち。様子を探って行くぜ。幸いなことにあちらさんは今組織ぐるみで戦闘中みたいだし、弱ったところを俺達で一網打尽にしてやろうじゃねえか!」
耳にピアスをつけた男スネイクは、自分の掌に拳を当て気合いを入れる。
もう一方のスネイクと話をしている男は腰に刀を差している。名はカウゼス。
話している最中に後ろからクゥ~、と可愛らしい音がする。二人が後ろを振り向くと両手でお腹を押さえている少女がいた。
「それよりもお腹が空いたんですけど、食べ物は持っていないでしょうか?」
すまし顔で言ってくる少女にスネイクは溜め息をしながら頭を掻く。
「はぁ、お前ってホントマイペースなのな。もう少し待ってろ。腹が膨れるくらい一杯食わせてやるからよ」
「スネイクん、女の子に対してその表現はあまりにもデリカシーがないと思われるんですが?」
「うっせ!それと『スネイクん』はやめろ!なんか間抜けっぽい呼び方じゃねーか!呼び捨てで充分だっつーの、分かったかロミニカ!」
眼鏡をかけた少女の名はロミニカ。
スネイクはロミニカが自分を呼ぶときの名がカッコ悪いと感じ訂正を促すが、
「…可愛いからいいじゃないですか。スネイクん」
ロミニカは全く呼び名を変えようとはせずそっぽを向いた。
「じゃあこいつもそうしろよ!『カウゼスん』って呼べよ!」
「カウゼスくんはカウゼスくんです。」
「ぬあァんじゃそりゃ!?俺だけ間抜け呼びかよ!」
「………おい二人とも、じゃれつくのはそこまでにしろ。」
スネイクとロミニカの二人が言い争っている内に、カウゼスはあるものを見つけた。
「誰がじゃれついて…………カウゼス、そりゃ血か?」
「ああそうだ。だが変だ、この血……凍りついてやがる」
カウゼスは地面に張り付いている凍った血の塊を引き剥がした。
「かすかだが魔力が残ってる。恐らくここで戦いが行われていたんだろう。」
辺りを見渡すと、焦げ付いた草木、真っ二つになった木々等が多数存在し、ついさっきまで戦いが起こっていたことは火を見るよりも明らかだった。
「だな。回りもだいぶ荒れてるし………にしてもひでー様だなこりゃ。」
「凍った血と焦げ付いた草木から見ると、炎の能力者と氷の能力者がが戦ってたみたいだな。まあそれが魔物なのか、それとも契約者なのかは分からんが。」
カウゼスが持つ凍っている血の塊をスネイクが横から取り上げる。
「契約者はねえだろ。人間に手を借りる魔物がいるかよ。いるとしたらそいつはただの腰抜けか……」
状況を確認していると、激しく木々が破壊される音が森中に響き渡る。かなり大きな氷結が夜空に向かい聳え立っている。
「ぬおっ!なんじゃありゃ!?」
「どうやらまだ戦いは終わってないみたいだな。……行くか?」
「当たり前だろ。弱った隙を見てそいつらぶっ殺してやろうぜ。ほら行くぞロミニカ!」
「かき氷、……悪くない。行こう」
ロミニカもスネイクとカウゼスの後を付いていく。
■■■■■■■
パキパキと氷特有の砕ける音が鳴り、氷結の姿は原形を留めきれず崩れ落ちる。そして、その崩れていく氷の塊の中にコルセラの姿があった。
(どこに消えた……)
森の中は既に完全なる暗闇と化し、頼りになるとすれば夜空に浮かぶ月の明かりのみ。雄人は"金色の炎"を解除した後、気配を断ち切り暗闇の中へと消えた。
「!!……くそっ、まだ顔が痛む……魔力を探ろうにも集中できない!」
コルセラの顔は、焼けた事によって皮膚が露になっていた。それでも痛みに耐えながら戦いが出来るのは、魔物の持つ底知れない生命力があるからだ。
途端に、コルセラが入った氷の塊が激しく揺れる。
「何だこの揺れ………は……」
「つーかまーえた」
コルセラの背後、氷の外側から声が聞こえた。
直ぐ様振り返ると氷にへばりついた雄人がいた。
「バカな!どうやってここまで!?」
コルセラの言葉を無視して、雄人は右手に炎を灯し氷を砕きコルセラの背中を殴る。殴られた衝撃でコルセラは森の中に叩き落とされた。
「このまま最後の一撃を叩き込んでやる!!」
崩れ落ちていく中、落下中の氷の塊に足を付け自分のところへ拳を引く。闇夜を照らすかの如く、右手に灯した"金色の炎"は更なる輝きを見せた。
(奴の動き、行動パターンが読めない。後一撃………今みたいなのをくらえば僕は確実に死ぬ………)
コルセラは口から血が出るのを手で押さえるが、指の隙間から流れ出てくる血は一向に止まらず、意識も既に朦朧としていた。
「……………ごめんウィザー、僕では……君の、仇を……取れそうに、ない………だから、後は、こいつに…………託すよ……」
コルセラは再びブリザード・ジャッジメントを出すと、地面に突き刺した。
「僕の残りの魔力を喰らいたければ喰らうがいい。その代わりに奴を、……朱夜 雄人を必ず殺せ……」
そう言った瞬間、ブリザード・ジャッジメントは青白く輝き始めた。その輝きはコルセラを包み込み、姿が見えなくなった。
雄人はコルセラの異変に気付くが、最後の一撃を与える為の魔力を溜める事をやめなかった。
(何が来ようが関係ない!全部まとめてぶっ飛ばしてやる!!)
魔力を最大限まで溜めた雄人は、落下中の氷の塊を足場として踏み込みに力を入れ、コルセラがいる森の中へと突撃する。いや、この場合はコルセラに向かって落ちていく……と言う方が正しい。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
雄叫びを上げてコルセラの元へ向かっていく。もはや今の雄人には恐怖などの感情はなく、ただコルセラを倒す事だけを考えていた。
青白く輝く光の中からブリザード・ジャッジメントを握っているコルセラの片手のみが出てくる。大剣を横一線に凪ぎ払い、冷気の斬撃を雄人に放つ。しかし、その斬撃はあまりにも小さく、最大限まで溜めた"金色の炎"の一撃を止める事など魔力量から察して不可能に近い。
「舐めてんのかあの野郎!!そんなもんでこの一撃は止められ………っ!!」
雄人は自分が思っていた事に対し何かに気付いた。
だが時は既に遅く、雄人の右手に纏った"金色の炎"は冷気の斬撃に直撃していた。直撃したと同時に爆発が起こり、白い煙が空中で発生した。
威力では圧倒的に雄人の方が上で斬撃を相殺した後、煙の中から出てくるもコルセラから少し離れたところで着地してしまい、折角の魔力を溜めた攻撃も不発に終えてしまった。
(あいつはあの斬撃で俺の攻撃に打ち勝とうなんて最初っから思ってなかった…コルセラは俺の攻撃の軌道を変えやがったんだ!)
青白い輝きを放っていた光も消え、コルセラの姿が露になった。
雄人とコルセラが戦っている最中、スネイク達は茂みの中に身を隠して二人を観察していた。
「ド派手なバトル繰り広げてやんなあいつら。こっちも地形が変わってんじゃねーか。」
「劣勢なのは氷の方か。相手は炎だから相性的に言えば当然だがな。」
二人が話している時、ロミニカはスネイクの肩を軽く叩いた。
「スネイクん、カウゼス君、あの子なんか変だよ」
そう言いながらロミニカは指差す。その指を差した方にいたのは雄人だった。
「何が変なんだよ。」
「う~ん、なんて言えばいいんだろう。……魔物じゃないような……人のような?」
「あの炎の奴が契約者って言いたいのか?ねえだろそりゃ。あんな動き、魔物じゃねえと出来ないっつの。契約者ってのは魔力を与えられるだけで身体能力まで強化しないぞ。そうだろ?カウゼス」
「さあな、契約させる魔物が強化型の能力を持っているならば話は別だが、炎の能力を使ってる時点でその線は消えるだろう。三度に渡るこの魔物の戦いの中で未だかつて、俺は能力を二つ持つ者と出会ったことがない。まあ、俺が知らないだけかもしれないがな。」
「ほらみろ。あいつは人間なんかじゃなく魔物だっつーの。分かったら大人しくしてろ。二体とも弱りきったところでとどめをさしてやるんだからよー。」
腕をそっと下ろさせ、後ろにロミニカを行かせるスネイク。
ロミニカは雄人の方に視線を戻し疑問を抱いた。スネイクとカウゼスは雄人の事を魔物だと言っているがロミニカ自身、まだ納得がいかずにいた。
雄人の攻撃を外させたコルセラは自身の顔に手を当てると、冷気を発生させて冷やし始めた。
先のコルセラの態度と雰囲気が変わった事を雄人は気付く。
「……誰だてめえ」
「?……何言ってんのお前、俺はコルセラだよ」
「いや違う!明らかに雰囲気が変わった!そんでもってあいつは自分のことを『俺』なんて言ってなかったぜ」
自分の顔を冷やし終えると、雄人の方を見た。
「ああ、『僕』だっけか。……それ俺のキャラじゃねーわ。」
スーツのネクタイを取った後、ボタンを第二まで外すと剣を片手で大きく振り上げ自分の肩に置く。
「俺の名はブリザード・ジャッジメント。まぁジャッジとでも呼んでくれ。」
「どういうことだ。…それはてめえが持ってる剣の名前だろ!」
「おいおい、コルセラも言ってただろ?この剣は『魔剣』だって。つまりは、『剣の魔物』ってことだ!!」
大剣を地面に叩きつけ、氷結が次々に現れ雄人に襲いかかる。しかし雄人はそれを横っ飛びで回避する。
「んだよそれ!!じゃあコルセラの野郎は!てめえがその剣の本体って言うんならあいつはどうなったんだよ!」
「奴はもういない。奴の意思も、魔力も、肉体も、全部俺が貰い受けた。それと引き換えに朱夜 雄人、お前を殺すことが条件の"死の契約"だ。」
コルセラは自身の命を捨て、ウィザーの仇を取るためブリザード・ジャッジメントに全てを託した。今の自分では雄人に勝てないという判断で、コルセラにとって苦渋の決断であった。
「だからこの先お前の相手は俺が務めさせてもらう。覚悟しな」
ブリザード・ジャッジメントもとい、ジャッジは剣先を雄人に向ける。しかし、雄人は動こうとせず俯いた状態にある。
「………そうか、じゃあやめだ。」
「……はぇ?」
思いもよらぬ雄人の一言にジャッジは思わず変な声を上げた。
「ちょっと待て、………お前今何て言った?俺の聞き間違えじゃあなければ『やめだ』と聞こえたんだが…」
「ああそうだよ。この戦いはやめだ。コルセラの野郎が消えたんならもうお前と戦う必要ないだろ。とどめをさせなかったのはすげー悔しいけど……今はそんなに時間かけてらんねーし」
「じゃあな」と一言声をかけジャッジの横を通り過ぎる。だがそんなことは許される訳がなく、雄人の首の近くまで剣が突き立てられた。
「はいそうですかで納得がいくと思ってんのか?ここでお前を殺し、コルセラとの契約を今ここで果たしてやる。」
「………そうかよ」
そう呟いた時、雄人の体から"金色の炎"が発火した。ジャッジは剣を収め間合いを取る。そして雄人は"金色の炎"を解除した後、暗闇の中へ紛れた。
跡を追おうとするジャッジだが体に激痛が走り膝まずいた。
「ッ、……ダメージ負いすぎたか。まともに立てやしない」
ジャッジはゆっくり立ち上がり、近くにある木の根本の側に行くと、剣を地面に刺し、身を任せるように寄りかかった。
「は~いバトルお疲れっした~」
陽気な声と共に茂みの中から姿を現したのはスネイク、そして後ろに二人、ロミニカとカウゼスだった。
コルセラはスネイク達の方を見ると不機嫌そうな顔で言う。
「………なんか用か」
「あんたら魔物同士で潰しあってるところに俺ら丁度居合わせてしまいまして、観戦してたって訳ですよ~。そんでもう一体の方は逃げてしまったので、あんたに決めさせてもらいました。」
へらへらとした口調で睨み付けるジャッジに話しかけるスネイク。後ろにいたカウゼスは鞘から刀を抜くと攻撃の構えになった。
「瀕死寸前なので、このままぶっ殺させていただきます。」
スネイクのこの言葉に、ジャッジはやっぱりか……という意味合いが含まれていそうな溜め息をついた。しかしそれは、どこか余裕があるようにも見えた。
「弱ったところでとどめをさすってことか。……ムカつくくらい分かりやすいなお前ら……」
背中を預けたジャッジメント・ブリザードを手に取り立ち上がろうとするジャッジ。
「おいおいまだやるつもりか?その怪我じゃあ俺ら三人の相手は務まらねえっての。」
「その剣、魔界に伝わる『幻の魔剣』の内の一つか。その剣を目の前にして俺達が臆することも……油断するとも思うなよ。次に動いた瞬間、貴様の首を飛ばす。」
カウゼスは何時でも斬りかかれる姿勢を保ち、スネイクは軽い感じに見えるが、決して警戒を解こうとはせずにいた。
雄人との戦いで蓄積したダメージがあり、現時点でジャッジがスネイク達と戦って勝とうというのはあまりにも無謀に近い。それは分かりきった事だ。
「………三人?俺には二人しか見えないな……」
スネイクとカウゼスは疑問を浮かべるが、それはすぐに消える。
二人の後ろで何かの倒れる音がした。その音の正体はロミニカで、目をぐるぐると回し倒れていた。
「んなっ!?何してんだロミニカ!」
「スネイクん気分が優れません気持ち悪いです」
ロミニカを起こすスネイク。カウゼスはロミニカの足に何かがへばりついている事に気付くと剣で斬り落とした。手に取るとそれは氷で出来た管だった。
「くそっ、やられたぞスネイク!奴はこれでロミニカから魔力を吸収していやがった!」
「その女は警戒心が薄かったんで容易く奪えた。いくらお前らが優秀だったとしても、足手まといの奴がいれば付け入る隙はあるってことだ。」
「んだとてめぇ!!」
「待て!落ち着けスネイク!」
ジャッジの煽りにまんまとはまり怒りを露にするスネイク。そんなスネイクの腕を掴み止めたのはカウゼスだった。
「奴の魔力が回復したってことは能力を発揮することができるってことだ。」
「それがどうした!仲間馬鹿にされて黙ってらんねーよ!!俺の能力で消し飛ばしてやる!!」
スネイクはカウゼスの手を振りほどくと魔力を溜め始める。
「スネイク!」
呼びかけを無視してスネイクは口を大きく膨らませた。
(くらえ死に損ない!!)
"キャノン・ボイス"!!!!
激しい怒号を上げスネイクの目の前のある木々を一斉に吹き飛ばす。それは地面を抉る程の力を持ち、ジャッジに向け放たれた一撃。
「ふーん、そういう能力ね……」
ブリザード・ジャッジメントを両手で持つと剣先に冷気が集まり白い輝きを見せる魔力の球体が出来た。
「"レイザー・シュート"」
魔力の球体は剣先からレーザーのように発射され、スネイクの"キャノン・ボイス"の中心を一気に突っ切っていく。その中心のみがジャッジの攻撃で切り開かれた道であり、スネイクの攻撃を回避する事に難なく成功したのに加え、ジャッジの"レイザー・シュート"はスネイクの左肩に命中した。
「ぐあぁっ!!」
衝撃により後方へと勢いよく飛ばされたスネイクは木に背中を強打して地面に倒れる。
「おぉ……上手く命中したな。」
(今はまだ命を取るつもりはないが)
スネイクの方へ視線を向けていると、視角の外からカウゼスが迫って来ていた。ジャッジがそれに気付いたのは剣先が視角に入り込んだ時で、ほんの一瞬とも呼べる時間だった。
「油断したな」
「…油断?」
カウゼスの刀がわずか数センチといったところでジャッジは"レイザー・シュート"を地面に向けて放ち、反動によって斜め後ろに飛びカウゼスの攻撃を回避した。
「してねえよそんなもんは!」
着地した後すぐにジャッジは構えて冷気の斬撃を飛ばす。
しかしその斬撃の向かった方向はカウゼスではなくその後ろにいたスネイクとロミニカの方だった。
「この……野郎!!」
力強く地面を蹴り上げ、ジャッジの放った斬撃より速く戻り打ち砕くカウゼス。ジャッジの方に再び視線を向けるが、既に姿はなく闇へと完全に紛れ込み気配も消していた。
カウゼスは鞘に刀を収め、スネイクの元に駆け寄った。
「おい大丈夫か?」
「……ゲホッ、…ハァ……カウゼス、野郎はどこに行った!?」
「見失った。奴は完全に闇に乗じて気配を消した。深追いをするのは危険そうだ。」
するとスネイクはカウゼスの胸ぐらを掴み怒りの血相で言う。
「何ビビってんだお前は!奴は今にも死にそうなんだ!叩くのは今しかないし、何よりロミニカを馬鹿にされたまま逃がすなんて絶対ヤダからな!!」
「冷静になれよ………なあスネイク、奴の攻撃をくらってどうだった?」
「は?……んなもんすげー痛いに決まってんだろ!?肩やらんたし、挙げ句の果てに吹っ飛ばされて背中打ったんだぞ!!」
そう言ってスネイクは自身の服の袖を捲り、肩の傷痕を見せる。その傷痕は痛々しく腫れ上がり、血も微量ながら流れ始めていた。
「俺も奴の斬撃を受けたがとても重く感じた。死に損ないで、いくらロミニカの魔力をわずかに吸収したからってあれ程の魔力を出せると思うか?あの魔剣、他にも何かあるな。」
「だから引くってか?んなもん関係ないね、次はさっきよりも魔力溜めてあの死に損ないにでかい一撃ぶちこんでやるぜ!」
「ああ、それなんだが……」
気合い充分なスネイクに溜め息をつき、何かを言いかけたカウゼス。スネイクは今度は何だよ…と言いたげな表情でカウゼスを見た。
「お前のさっき撃った技、あれのせいで他の魔物が俺達の存在に気付いたぞ。」
「………嘘だろ」
「逆に何でそう思うんだよ。こんな静かな森の中であんなばかでかい声出せば普通に気付くぞ。というか普通にうるさかった。」
「っ仕方ねえだろ!俺のはそういう能力なんだからよ!」
顔を赤く染めカウゼスに反発するスネイクは、ロミニカを起こそうとするが既にロミニカは目を覚ましていた。
「スネイクんうるさすぎ……気絶してる暇もなかった。」
「お前もそれ言っちまうのかよ!……ってかお前もう大丈夫なのか?魔力吸われたみたいだが……」
「もっとお腹空いた。」
ロミニカがお腹を押さえると腹の虫が鳴り始める。するとロミニカはふと何かに気付いたかのように顔を上げ辺りを見渡した。
「いきなりどうした?」
「魔力の匂い………」
ロミニカは立ち上がり匂いを嗅ぎながら森の中を歩いて行く。スネイクとカウゼスも後ろに付いていき、向かった先には砕けちり粉々になっていた氷が散らばっていた。
「こいつはさっきの死に損ない野郎が放っていた氷か?」
「みたいだな。さっきまで奴が戦っていた魔物との戦闘中で発動した氷山の残りだろ。」
たくさんの砕け散った氷の前まで行きしゃがみこむロミニカ。落ちていた氷の欠片を手に取るとそれを口の中に入れた。
「おい、いくら腹が減ってるからってそんなもん食ったら腹壊すぞ。」
スネイクは言うが、ロミニカは再び氷の欠片を手に取り食べる。
「へーひへーひ(へいきへいき)、ふぁりょふふぁえあれふぁほれへ(魔力さえあればこれで)…………んく、回復できる。」
「最後しか言葉分からなかったぞ、まあいいや。じゃあ俺もその氷貰おうかな~」
スネイクは氷を更に細かく割り掌に収まるサイズにすると、近くにあった岩に座る。カウゼスもスネイクの隣に行き腰かける。
「お前もそれ食うのか?」
「ちっげーよ、あの死に損ないにくらったとこをこれで冷やすんだよ。……、あの野郎次会ったらぜってーぶっ殺してやる……」
「そうだな。だが今は」
「引けって言うんだろ。分かってるよ……俺の迂闊な行動で迷惑かけちまった訳だしこれ以上追わねえよ。」
「……物分かりが良くて助かった。早いとここの場から離れるぞ。」
「おう」
結局、ジャッジにとどめをさせなかったスネイク達は多少のダメージを負い、自分達の存在もばれてしまったという判断の上でこの場から立ち去る事を決意した。
■■■■■■■
一方スネイク達から逃げる事が成功したジャッジは雄人の後を追っていた。
(微かにあいつの魔力を感じるが正確な場所が掴めない。月明かりがあるとはいえこのまま捜してても埒があかない。一旦アジトに戻るか……しかしアジトの方では魔力が入り乱れてるな。誰が誰の魔力だか分かったもんじゃない。)
剣を肩に乗せアジトの方角へ歩いて行くと、ふとスネイク達の会話を思い出し、静かに笑みをこぼした。
「魔物同士で潰し合いか………あいつらからもそう見えたんならそうなんだろうな。コルセラ、どうやらお前の読みは当たってたみたいだ。」
コルセラは雄人との戦いの中で妙な違和感を覚えていた。
脅威的な身体能力、魔物に対する恐怖心の無さがコルセラを追い詰めていったのは明らかであり、結果このままでは勝てないと判断したコルセラは自らの命を絶つ事によってジャッジに身体と魔力を与え、自身は魔物の戦いから離脱した。
死に際にコルセラ、ウィザーは雄人が既に人間ではない事を見抜いていた。
ジャッジが不適な笑みを浮かべると、辺りは一瞬で氷漬けになった。
「もはや人間じゃあなければ手加減のする必要もなしか。妖狐には感謝しないとな……魔物になった朱夜雄人とは、本気で殺り合えそうだ。」




