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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第二章 ばらばらばらばらばら
7/40

 次の日。昼。樫木は、茶話矢が運転するミニバンの助手席にいた。

 今日は六月二日、土曜日。現在、時刻は午後二時。学校は十二半頃に終わった。家に着いたのは、一時頃で、その時茶話矢から連絡があった。以前、電話番号を交換していた事があったからである。だが、その時初めて茶話矢からの電話が鳴り、樫木は一瞬、心臓麻痺で死ぬかと思った。

 電話の内容は、大量の花の注文が来て、人手が足りないから来てくれないか、というものだった。以前から、樫木は普段からお世話になっている代わりに、お手伝いが出来ないものかと、茶話矢に申し出ていた。内容を聞いた時、茶話矢は飛び上がりそうになった。茶話矢と、少しでも一緒にいられるからである。また、昨日あんな事があって、次はいつ行けるだろうか、と考えていたので、もう、これは、樫木にとっては、宝くじに当たったぐらいの朗報だった。

 ミニバンは、白色で、少し古そうなものだった。座席は三列。その後ろは畳二つ程開いている形状のものだ。外から見ると、少しドアがへこんでいる部分があった。

 茶話矢は樫木の右横で、ハンドルを握っている。服装は、昨日とほとんど同じだった。ベージュのズボンに、白い柄もののTシャツ、ピンク色のエプロンだった。樫木は、今は学ランではない。ジーパンに、黒いTシャツ、そして、茶話矢と同じ、茶話矢花屋店がローマ字で描かれている特製エプロンを着ていた。今日の樫木の肩書きは、臨時のスタッフになるそうで、先方にも、そう紹介されるとの事だ。少し緊張。

 窓の外は、閑静な住宅街。樫木はこの辺りは来た事がない。茶話矢花屋店からは、数キロ程走ったと思われる。歩道の横は、細い木が電信柱の様に、等間隔で植えられていた。歩道は、赤と白のタイル模様。また、今までなん個か、公園を目にしていた。ここいらの土地は、ひょっとして、地価が高いのだろうか、樫木は、そう想像した。

「ホントありがとう、樫木くん」茶話矢は、樫木を見て微笑む。「いやー、マジ大助かりだよ。今日、朝から親父が仕入れでさ、母さんは車運転できないからさ、もう困ったもんだったよ。もう凄い注文でさ。あ、ちなみにこれは、知り合いさんから、お借りした車ね」

「いえいえ、本当にいつでも言って下さい」樫木は、首を鶏の様になん度も縦に振った。「すぐ飛んで来ます」

「今日、夕ご飯奢るね。食べ放題の焼き肉屋があるんだ。そこ行こう」

 樫木の頭の中で、前頭葉と中枢神経が、火を焚きながら、ラインダンスを踊った。勿論焼き肉を食べられるからではない。

「しかし、凄い量ですね」

 樫木は、後ろを振り向く。通常、こういったワゴンタイプの車は、座席を折りたたんで移動出来るものだと樫木は思っていたが、どうやら古いタイプのものはできないようだ。今は、後ろの二列、そして、その後ろも花で一杯だった。透明のビニール袋に入れられている。そしてそれが積み重なっている。将棋をする時に、まず箱から将棋盤にまるでプリンを皿に盛る様に出すが、そんな感じだった。今にもこちらに倒れてきそうである。後ろの景色が見えない。

「色々な種類があるよ」茶話矢はカーナビのボタンを操作しながら言う。「有名なやつだと、ラベンダー、ガーベラ、 マリーゴールド、 パンジー、あとチューリップぐらいかな?」

「凄いですね」樫木は口を引きつらせる。「それ、統一性あるんですか?」

「ないない」茶話矢は首を振る。「そのお得意先さんが、もの凄い大富豪でねえ。庭が滅茶苦茶大きくて、なんていうのかな、どこかの観光地っていうか、うん、庭園ってやつだ。なんかね、そこだけ北海道みたいな感じなの。うおー、でっけえぜぇ、みたいな。でね、そこの夫婦が花好きらしくて、とにかく好きな色んな花を植えてるんだ。だから、種類はバラバラ。でも、逆にそれが私なんか綺麗に見えるかな。なんか、本当の花畑っぽくて」

「本当の花畑、ですか?」

「いやさ、勿論人が植えている時点で、全て偽ものなんだけど、ただ、どこの庭を見ても、統一性ってあるじゃない? でも、あそこはそれがないんだよね。だから、逆にリアルというか、いや、それも正確に言うと、リアルじゃないんだけど、普段整っている花畑を見慣れているからだろうね。だから、なんか新鮮」

「いいですねえ、そんな土地があって」樫木は溜息をつく。

「でもさ、ちょっと聞いておくれよお」茶話矢は目を細める。「そこ、建ものもすっごい大きいんだけど、変な噂があるのよ。まるでミステリー小説みたいな」

「双子の姉妹とか、仮面を被った主人とか、動く館とかですか」樫木は可笑しそうに言う。

「うんにゃうんにゃ、あながち間違ってないんす、それが」

「えっ、本当ですか?」

「うん」茶話矢は前を向きながら言う。「なんかねえ、その屋敷は、戦争の時に秘密の処刑場だったっていう噂があるんす。犯罪者や裏切り者を始末していたっていう。その館は、当時とっても偉い官僚さんが住んでたらしいんだけど、その人が大層怖い人だったらしく、でね、部下がなん度も行方不明になったんだって」

「江戸川乱歩風味ですね」

「私は、金田一耕助って感じかな」

 樫木は、少し想像する。今まで、色々なミステリーを読んできたが、その中で色々な館や豪邸が出てきた。ただ、現実に勿論見た事がある分けではない。それらは、実在するものなのだろうか? うーん、少し疑問に思う。

「あの後さあ、樫木くん、ちゃんと寝れたあ?」茶話矢は首を回しながら樫木に聞く。「ずっといたんだよ、警察、朝まで。そんな別段うるさかったって、分けじゃないんだけどさあ、いやあやっぱ、家の前にあんなたくさんいたら寝つき悪いって。なにをそんなに調べてるんだか」

「バラバラ事件と、なにか関係あるんですかね?」

「さあ、どうだろうね」茶話矢は左手を軽く挙げる。「でも、迷惑な事は変わりないよ」

「ですね」

「ですなあ」茶話矢は、リンゴ飴の様に、甘く微笑んだ。

 樫木は、赤くなりそうな顔を両手で押さえた。危ない危ない。

「ん? 樫木くん、どったの?」

「いや、ちょっと僕虫歯になっちゃって」

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