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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第一章 すってんころりん
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 辺りは、暗くなっていた。

 現在、午後六時。そろそろお暇しようかと、樫木は携帯電話の、ディスプレイを見ながら考えた。今日は、かなりの進展だった、そして、死ぬ程嬉しかった日だ。樫木は生きてて良かった、と、真剣に思った。彼が、こういった感情を持つのは、極めてまれである。ただ、茶話矢と会ってからの樫木は、感動しまくっているので、実はこれがデフォルトだったのかもしれない。それとも、茶話矢と会って、自らの価値観が変化したのだろうか? おそらく、どちらともだろう。

「あれ、なんだろう?」茶話矢は、唐突に坂を指さした。

「え? なんですか?」

「ほら、あの黒くて、丸いやつ」

「いや、見えないですけど」樫木は、目を凝らした。だが、なにも見えない。

「私、目がいいからかな。なんか見える」

「なんですかね」樫木は、目を細めている。まだ暗い坂のままだ。

「転がってる」

「え?」

「こっちに向かって転がってる」

「サッカーボールじゃないですか?」

「そうかなあ」

「よく、転がってくるんですよね?」

「うん」

「だったら、そうですよ」

「でも、それにしては、遅いよ」

「うーん」

「なんか、濡れてる様な気がする」茶話矢は、身を乗り出した。「後がついてる」

「僕、見に行ってきますよ」

「丸い」

「そりゃあ、ボールなんですから」

「なんか、ついてる」

「はあ」

「口」

「へ?」

「目、鼻、耳、髪」

 茶話矢は、続ける。

「人の、首だ」

 首が、

 人の生首が、

 ごろごろごろと、

 縦に、不規則なリズムで、

 ラグビーボールの様に、

 髪の毛が上へ下へと、

 血が絨毯の様に、

 坂を、

 生首が、

 坂を、下りていた。

「あれ、生首だよね?」

「多分」

 首のスピードが速くなる。

 十メートル。

「こっち来るよ」

 五メートル。

 白い目。

 開いた口。

 目が合った。

 女性の顔。

 血の音。

 転がる音。

 スローモーション。

 匂いがした。

 死体の匂い。

 死の匂い。

一メートル。

「うわっ」

 茶話矢は右に飛び上がった。

 生首は、茶話矢の少し左、花を入れている花瓶に、鈍い大きい音を立てながら、衝突した。

「なにこれ?」茶話矢は、樫木の背に隠れ、左腕を掴みながら言った。「本ものかな」

「本ものでしょうね」

「気持ち悪い」茶話矢は、後ろを向いた。

「全くです」

「樫木くん、よく平気だね」

「平気じゃないですね」

「通り魔かな?」

「多分」

「なんで、うちのお店に」

「警察に電話しましょう」

「でも、電話、家の中だよ。入れない」

「僕持ってます」

「よかった」

「便利ですね、携帯電話って」

「平気なんじゃん」茶話矢は呟いた。「あー気持ち悪い」

「薬、取ってきましょうか?」

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