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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第六章 ぬめり、きらり、どきり
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「さあ、この先です」星座は後ろを振り返って言った。

「うわっ、怖いっ! なにここー。でも、面白ーい」

「僕は、行きませんからね、絶対に」

「さあ、どうぞ、三崎さんも」

「い、いえ、私は遠慮しておきます」三崎は両手を前に突き出した。

 星座は、横にいる茶話矢に言った。「よかったです。まだ、夕方で」

「僕、やっぱり端に立てませんよ」樫木は首を横に思いっきり振る。

「もう、こんなの、一生に一回見れるか見れないかもだよっ」茶話矢は両手を腰に当てる。「ほら、騙されたと思って」

「絶ッ対、嫌です!」樫木は屋上の中央部分で直立したまま叫んだ。「高いところ、本当駄目なんですっ!」

「こっちに来たら、キスしてあげちゃおうかなー」茶話矢は下唇に人差し指を当てた。

「えっ?」

「うっそーん」茶話矢はお腹を抱えて笑った。

「茶話矢さん、言っていい嘘と、悪い嘘が、この世にはあってですね」樫木は、頬を赤らめながら茶話矢に詰め寄った。

「ほら、もう来てるじゃん」

「あ」

「んー気持いいですね」星座は両腕を伸ばす。

「鉄太朗さんが、好きだったんだろうねー。いや、麒麟さんかな?」と茶話矢。

「うわあ、凄い、あれですね。問題のやつ。前来た時は、見る余裕もなかったです」樫木は茶話矢に掴まりながら言った。

 星座は、後ろにいる二人に振り向いた。「ギロチンは、あの部屋にある筈です。あそこなら、壁を外すだけで、簡単に入れる筈ですから」

「つまり」樫木は言う。「僕が見た花の壁の絵は、ただの壁じゃなくて、中が部屋になっていたって事ですよね。確かに、どうりで花の絵を飾っているにしては、大きいな、って不思議だったんです」

「ねえ、樫木くん」

「はい?」

 茶話矢は、樫木の頬に、そっとキスをした。

 夕日が、二人を紅色に染めた。

「ご褒美さね」

 茶話矢は樫木の頭をなでながら言った。

「え、えーと、その、えーと」

 樫木は俯きながら喋らなくなった。

 

 星座は、庭園を見下ろした。

 そこには無数のアジサイ。

 青と紫と白。

 地上というキャンパスの上で、

 彼女は笑っていた。

 それは、

 モナリザの、微笑みだった。

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