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夕張は、絶句した。
この死体は、幾つあるのだろうか?
一、
二、
三、
五、
十、
いや、
三十程だろうか?
死体は、まるでサーフボードの様に壁に立てかけられていた。
正確には死体ではない。
白骨。
綺麗に並んでいる。
夕張は、吐き気がしたが、
大事な現場で吐く分けにはいかない。
しかし、なんだこれは?
顔。
全部違う顔。
少し視点を上へと移す。
壁は、黒かった。
赤みがかった、茶色といった方が近いか?
明らかに、
血だ。
頭が、揺れる。
揺れながら、思考する。
足下には、血の水たまり。
歩く度に、音がした。
どのくらいの、人間の血が、この中に?
白骨は、一体全部でなん人だ?
意識が、朦朧としてきた。
「夕張さん」
一緒に登ってきた捜査員から、肩を叩かれる。
「これを見て下さい」
夕張は後ろを振り返った。
それは、三メートル程の、ギロチンだった。
ギザギザ。
刃がギザギザしている。
血。
血がついていた。
こちらは、比較的新しいものだ。
刃は、鈍く光っている。
「ここ、死刑場だったんでしょうね」
「ん?」夕張は、なんとか聞き返した。
気絶しない様に注意しながら。
「戦争当時だったから、必要だったんでしょう」横にいる捜査員は、顔をしかめながら話す。「ほら、それに、この館、変な噂あったでしょう? 人が行方不明になったとか、元は処刑場だったとか」
「ああ、そういえば、そうだったね」
「しかし、これは凄いですね。まともに息をするのも、難しい」
「血の池なんて、初めてみた」夕張は、片目を瞑った。「それに、幾ら、死体を見慣れたと言っても、白骨を、こんなにたくさん見た事は、なかったよ。ギロチン、も」
彼は、そのまま、片目を瞑ったままで、ぼんやりとギロチンを見た。
そこには、鈍い、曲がった、銀色の長方形があった。




