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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第六章 ぬめり、きらり、どきり
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「では、まず状況から確認していきましょう」星座は、周りを見渡しながら言った。「事件の関係者全員は、今はリビングにいるんですね」

「はい」三崎は頷いた。「リビングには、捜査員が十人程います。絶対、部屋から出られません」

「いいでしょう。また、夕張さんは、現在、私が指示した場所を、捜索中なのですね?」「夕張も含め、こちらは十五人程で捜索しています。まだ、これ以上増やしますか?」

「いえ、大丈夫です」星座は続ける。「本来は、この様な場所で説明するのは、相応しくないとは、思ったのですが、三崎さんも、夕張さんもいると思いましたし、出来るだけ早い方がよろしいかと思いましたので」

「いえ、とんでもない」三崎は大きく首を振る。

「あのー」樫木は恐る恐る片手を挙げた。「僕達いてもいいんでしょうか?」

 茶話矢も頷きながら、いつもより、落ち着いた口調で喋る。「席を外しますか?」

 星座は、目の前のソファーに座っているふたりを見ながら「お二人は、事件の大きな関係者です。聞く権利はあると、思いますが、どうです、三崎さん?」

「うーん、大目に見ておきましょう」三崎は、苦笑した。「それよりも、星座さん。早く事件の真相を」

 星座は、仮説捜査本部にいた。今は、入り口近くのソファーに座っている。右隣に、三崎。向側のソファーには、左に茶話矢、右に樫木が座っていた。部屋の中には、玄関に二人の警官、その他には、ソファーの横に二人、ベッドの横に一人程立っていた。

「まず、私がこれから喋る事は、最も確率が高いであろう仮説です」星座は早口で、抑揚のない口調で喋る。「ただ、今夕張さんが捜索している場所から、証拠が見つかる筈です。そうすれば、自ずと、犯人が完全に特定されます」

「犯人は、柳麒麟なのですね」三崎は咳払いの後、緊張した声で言った。「一体、理由は?」

「まあ、待って下さい」星座は両手で三崎を制す。「順序立てて話します。それよりも、よく、麒麟さんから、許可が取れましたね?」

「ええ。礼状がなくても、警察があの場所を、全部捜索していいという許可が、まさか取れるとは、思いませんでした。まあ、令状を申請すれば、三日もかからすに、踏み込めたとは思いますが」

「もう、今からでは、証拠を完全に隠滅する事は、不可能です。いえ、元から、証拠は絶対に隠滅できないシステムです。この犯罪は」星座は続ける。「時候がすぎるまでなら、一生証拠はそのままでしょうね。まあ、諦めたというよりは、元から、なにも思っていなかったのでしょうね」

「なにも思ってなかった、ってどういう事ですか?」樫木は星座に聞いた。

「この犯罪は、一般の精神ではできません。ただ、それは狂っているという事ではありません。感情が、一切入っていないという部分が、一般、のカテゴリーから、外れるという事です。まあ、それはいいでしょう。価値観というものは、人それぞれですから」

「星座さん」三崎は片手を挙げた。「この事件の一番の謎は、被害者がバラバラにされている部分、また、被害者に共通点はないのに、凶器が同一だった、この二点に大きく絞られると思うんです。ご説明願えないでしょうか?」

「川で発見されたバラバラ死体、坂の上を転がった生首死体、この二つの殺人の犯人は、柳司です」星座は、机の上にあったコーヒーを飲む。コーヒーがあるのは、彼女だけだ。「動機は、おそらく、単純にやってみたかったからでしょう。部屋の中にも、そういったものはあったと聞きましたし。人の体をバラバラにしたかった、首を坂で転がしたかったとか、そういった理由でしょう。どちらも、若い女性ですし。男性は、猟奇殺人をする際、若い女性を選ぶ傾向があります」

「では、その次の、庭園の殺人は」

「これは、二つのケースが考えられます」星座は、左手でピースの形。「まず、可能性の低い方から、いきましょう。柳麒麟が、柳鉄太朗を、遺体と一緒の部屋へ置き去りにした。ただ、私は、どうしても、鉄太朗が、なにも知らなかったとは思えません。おそらく、鉄太朗が、元浮気相手である、畑加々美を殺し、運んで、睡眠薬かなにかを飲んだのでしょう」

「え? 浮気相手なのに、なんで?」茶話矢が独り言の様に呟いた。

「それは分かりません。揺すられていたのか、喧嘩をしたのか」星座は、コーヒーを一口。「鉄太朗は、別の場所で殺し、後に、館の中の庭園へ、死体を運んだのです」

「うーん、なんでそんな事したんですか?」樫木は、片手を挙げた。「明らかに、面倒だと思うんですけど」

「麒麟のアリバイを作る為」星座は即答。「おそらく、計画では、その後、麒麟が同じ様な仕組みで司を殺し、今度は鉄太朗のアリバイを作ろうとしたのでしょうね」

 三崎がすぐ質問をした。「つまり、鉄太朗は、利用されていたって事ですか」

「その通り」星座は三崎に向かってウインクした。三崎は、無表情で固まっただけだった。「麒麟と、鉄太朗は、なにかの拍子で、司が一連のバラバラ殺人犯だという事に気づいた。そこで二人は、邪魔な愛人畑を殺し、その全ての罪を、司に着せたまま、自殺に偽装するという、計画を考えついた。麒麟だけは、鉄太朗を殺そうと画策していましたが」

「えーっ、でも、実の子供なんでしょう。その、司って人。幾らなんでも」茶話矢は樫木を見ながら言った。

「えっ? なんで僕を見たんです?」樫木は、慌てた。茶話矢の顔が近かったからだろう。

「樫木くん、頼りになるじゃない?」

「えーと、どこがですか?」

「人って、そんな事できるのかなあ」茶話矢は、ふっと天井を見上げた。「血の繋がってる家族なのに」

「この事件は、酷く短絡的ですが、その分、計画的な側面もあります」星座は、さりげなく会話を戻す。「そもそも、人間自体、矛盾している生きものです。例外なんて、幾らでもあります」

「まあ、動機は色々あるでしょうね」三崎は手帳を見ながら、溜息とともに口を開く。「麒麟が、鉄太朗の浮気相手が許せなかったとか、浮気をした鉄太朗が許せなかったとか、まあ、そこは後々調べましょう」

「ええ、そうして下さい。殺人犯の気持ちが分かるんだったら、この世に、捜査なんて入りません。戦争は起こりません」

「それよりも、私が星座さんに一番お聞きしたいのは」三崎は手帳を閉じて言った。「凶器の場所と、隠し部屋がどこにあるか、という事です」

「隠し部屋は、花壇の下です」

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