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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第四章 ふわり、はらり
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 目羊は、運転席で、ハンドルを握っていた。

 後部座席には、星座が乗っている。帰りが遅くなってしまったが、これはあまり珍しい事ではない。

 白いベンツは、静かな街を、颯爽と走る。

「目羊は、本当毎回、いっぱい食べますわね」バックミラー越しに、星座がにっこり微笑む。

「いやーお恥ずかしい」目羊は、頭を掻く。「ついつい、おかわりしてしまうのです」

「あら、あれ」星座は前方に注目する。

「どうされましたか、お嬢様?」目羊は星座に聞く。

「止めて、目羊っ! 茶話矢花屋店の車だわ!」

「は、はいっ」

 目羊は、なにがなんだか分からなかったが、とりあえず、車を急停止させた。

「私、ちょっと見てきます」

「お、お嬢様。何故、見にいく必要が?」

「いい事、目羊っ、私は、事件と、人の恋路が大好きなのですっ」

 目羊は、一瞬にして、頭を回転させた。

 明らかに、こんな夜中に、車が駐まっているのはおかしい。

 しかも、ここから、うっすらと、車の中の人影が見える。

 確か、今、乗っているのは、樫木という少年と、茶話矢という女性。

「お嬢様、それはいけません」

「目羊は、ここでお待ちなさいっ」星座はドアを開ける。

「ど、どうか、お止めに」

「ちょっと、見てくるだけです」

「それを、世間では、覗きと言いますっ」

「いいえ、好奇心の、暴走です!」

「同じ事です! いえ、むしろ、悪くなってます!」

 星座は、ドアを閉めて駈け出した。

 目羊も、車を出て追いかける。

 星座は、チーターの様に早い。

 こんな、早く走るお嬢様を見たのは、初めてだ。

 目羊も、本気を出す。

 どうか、

 どうか追いついてくれ。

 右に。

 左に。

 足を出す。

 しかし、

 埋まらない距離。

 口から、息が、止まらない。

 高まる、心臓。そして、鼓動。

 駄目です、お嬢様。

 頼む。

 このままでは。

 自分も、

 昔は経験があった。

 そう。

 若さ故の過ちだ。

 でも、

 いい思い出だ。

 くそっ。

 早い。

 高速だ。

 いや、

 光速。

 お嬢様!

 影が、ここからだと、

 はっきり見える。

 星座は、車の近くまで行くと、

 そっと、中を覗き込む。

 駄目です。

 それ以上はっ!

 嗚呼。

 無情。

「きゃあっ!」

 星座の叫び声。

「おじょうさまぁあああ!」

「ふ、二人」

 お嬢様は、

 顔面蒼白。

 いや、

 真っ赤っか。

 絵の具の様に。

 太陽に様に。

 顔が赤い。

 やっぱり。

 一歩遅かった。

 すまん。

 若者達よ。

 私が、遅れたばっかりに。

「二人仲良く、寝ています。ああ、なんて事」

 目羊は、やっと追いついた。

 星座は、車の中を指さした。

「樫木くんが、助手席に。茶話矢さんが、後部座席に」

 樫木は、腕を組みながら、俯いて眠っていた。

 茶話矢は、口を大きく開けながら、横になって大の字になっていた。

「ああ、なんて事」星座は顔を両手で押さえる。

「こんな状況で、なんでなにも起こらないのかしら」

「お嬢様」

「もう、樫木くんたら、意気地なし」

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