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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第四章 ふわり、はらり
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「すいません、お食事中に」三崎は、電話をしながらついついお辞儀をしてしまった。世界広しといえど、電話中にお辞儀をしてしまう人種は、日本人だけだろうなあ、と思いつつも、自然と体が動いてしまう。だが、三崎自身は、この慣習が大好きだ。

「牛タンって、味薄くありませんか?」電話の相手、星座は淡々とした口調で言った。

「は?」三崎は、つい横にいる夕張の顔に目をやる。彼の顔はにこにこしている。ちなみに、夕張は先程、電話は是非自分に、と、押しかけ営業マンも驚愕の勢いで迫ってきたが、三崎はそんな勝敗が分かっているギャンブルの様な事はしなかった。しかし、何故彼が今微笑んでいるかというと、おそらく、星座の声が携帯電話から漏れていて、それが少なからず本人に聞こえているからだろうと思われる。。芸能人じゃないんだから。

「なんか、ガムみたいですわ。うーん。美味しくないみたい」不満そうな声が聞こえる。

「は、はあ」

「事件に進展があったのですね?」

「は、はい。えーとぉ」三崎は戸惑いながらも即座に答える。今は、左肩に携帯を挟み込み、両手で手帳を挟み込むかたちになっている。片手ずつで持てばいいのだが、このやり方に、もう慣れてしまった。

 三崎は、数分かけて、先程の指紋の件を、順序立てて、星座に説明した。

「どう思われますか? 星座さん」

「川で発見されたバラバラ殺人」星座は言葉を句切る。「首が坂を転がったバラバラ殺人、この二つの、事件の詳細を、もう一度教えて頂けませんか? 少し、関連を、探って見ましょう。以前の二つの事件の際、柳家の方々には、アリバイはあったのですか?」

「まず、一つ目の川のバラバラ殺人ですが」三崎は手帳のページを戻す。「これは、関係者全員にアリバイがありました。遺体は、朝発見されたのですが、昨夜、柳家では夜の十時までパーティがありまして、柳家の全員は勿論、メイド、執事は、その日は全員泊まりがけだったそうです。ただ、ですね、全員といっても、一人だけ、アリバイのない人間がいましたが」

「一人だけ?」

「柳司です。ほら、この館、監視カメラがついているじゃないですか? その映像の中で、殺害時間に門の外へ出ているのが、彼だけなんです。他の人間は、誰も外へ出ていませんでした。前持って、開けておけば、誰にも知られず外へ出れますから。それと、この事を、柳家や、世話係に聞いたところ、皆知らなかったと言っています。柳司は、普段からそういったパーティには出席しなかった様で、部屋に閉じこもっていたそうで、その日も、てっきりそうだと、周りは思っていたそうです」

「監視カメラ」星座は透明な声で言う。「どの程度信憑性が、あるのですか、それは?」

「壊されない限り、絶対に映像は改ざんされません」三崎は言う。「ただ、カメラを、見えない範囲から壊されれば、幾ら高い塀でも、誰でも入れる事になります。しかし、今まで監視カメラが壊された事は、一階もありませんでした。監視カメラには、死角がありません。ちなみに、鉄太朗氏は、かなり防犯対策に力を入れていた様で、三百六十度カメラがついています」

「つまり、柳司以外は、第一の事件時、鉄壁のアリバイが、あるって事ですね。分かりました。少し話は逸れるのですが、監視カメラを壊すと、警報は鳴るのでしょうか?」

「ああ、はい。すぐ警備会社に通報されます。ただ」

「ただ?」

「どうやら、監視カメラの機械のスイッチを切れば、警報を鳴らさずに、中に進入出来るみたいですね。ただ、警備会社に聞いたところ、この線の場所が分かるのは、よっぽどの玄人か、予め細部を知っている人間だけ、との事でした」

「監視カメラの映像ですが」星座は淡々とした口調。「どのくらい前のものまでご覧になりましたか?」

「巻き戻し方式で、見ているので、えーっとですね。はい。門の監視カメラは、まだ、その第一の事件のところまでしか見れていません。塀のカメラの方は、比較的早送りできるので、もう半年分まで進みました。えーと、今のところは誰も通っていません」

「監視カメラはいつからあるのです?」

「十年前、つまり、住み始めた時からですね」

「一応、なんですが」電話から、星座の声とともに、店の雑音が少し入ってくる。「全て目を通して下さい。十年分。大変でしょうけど、お願いします」

「はい、分かりました」電話越しに頷く三崎。

 星座は間を開けないで三崎に尋ねた。「その川のバラバラ事件時に、柳司は、大きいバック等は持っていましたか?」

「ああ、はいはい、持っていました。丁度、ボストンバックみたいなものを。行きも帰りもですね。監視カメラに映っていました」

「そのバックは、館の中で、見つかっていますか?」

「い、いえ、特になかったと、聞いていますけど」

「被害者の身元」星座は言葉を切る。「もう一度、お聞きしても、よろしいですか? 関係ないと思える部分まで詳しく」

「名前は草川南枝。歳は十八。高校三年生。私立北洋高校です。所謂、お嬢様学校ですね。草川自身は、将来大学に進学するつもりだったみたいです。履修科目は文系。将来の夢や進路等の具体的なものは特になく、ただ、友達に事務業務には就きたい、とは言っていたそうです。五人兄弟。兄が一人。弟が一人。この兄の方は、既に就職しています。下水道関係の仕事です。弟は、高校一年生。少し彼女らの家から離れた、私立由ヶ原高等学校。所謂、滑り止め、ってやつでしょうな。弟の方は、成績は、あまり良くなかった様です」三崎は、一旦息継ぎをして、続ける。「草川には、恋人がいました。同じ学校の生徒です。付き合って一年。浮気や問題も、さしてなかった様です。友人関係は、至って良好。聞く限りでは、全くと言って、トラブルに巻き込まれていません。身長は百六十センチ。髪は肩まで伸びる程度。性格は、明るいが少し飽きっぽい。ただ、少々内向的な性格で、友達は少なかった様です」

「続けて」

「遺体として発見される三日前から、捜索願いが出されていました」三崎は滑舌良く喋る。「遺体発見時の状況ですが、第一発見者は、近所に住む六十歳の男性です。朝の散歩中でした。時間は、午前六時。最初は、川にゴミが浮かんでいると思い、近づくと、人間の腕が出ているのが見えた。後に通報。死亡推定時刻は、二時間前から、六時間前。水に浸かっていた為、あまり詳しく特定出来ていません。えーと、二つ目の事件の被害者との接点は、全くといっていい程ありません。勿論、現在も、調べはいますが、今のところは、収穫なしです。柳家、柳司との関連も、現在、捜査員を導入して調べていますが、現在、全く繋がっていません。捜査本部の見解としては、やはり、通り魔殺人の可能性が非常に高いと考えています。この、第一の事件については」

「草川南枝は、パソコンを持っていましたか?」星座は早口で行った。「携帯のサイトで、なにか怪しいものはありませんでしたか? 手帳は? また、クラブ活動は? アルバイトは? 趣味は? それと、そうですね、例えば、夜中街を徘徊する癖がなかったか、不良仲間との交流はなかったか、失踪した前後、人気のいない場所に行かなかったか、そういった事も視野に入れて下さい。パソコンのオフ会に入っていたかもしれない。クラブ活動で、知り合ったかもしれない。アルバイトをきっかけとして出会ったかもしれない。とにかく、まだ、被害者と柳家の間に、なにか繋がりがあるかもしれません。また、可能性は低いですが、例えば、なにか、麻薬、そういったものに手を出していたかもしれません。それに、殺人事件を目撃して、口封じとして殺された可能性もあります。なにかの犯罪に巻き込まれた可能性もあります。また、館が好きだったとか、花が好きだった、柳鉄太朗の小説を持っていた、メイドや執事が好きだった、そういった可能性も視野に入れて下さい」

「はい」三崎は、スローモーションで頷いた。

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