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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第三章 ざわざわがやがや
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 樫木の目の前に、無限の運河が、広がっていた。

「ほら、凄いでしょっ?」深美は指さす。

「いや、本当に凄いですよ」樫木は、見上げながら言った。

「連れてきた甲斐があったわーっ」深美は、両腕を上下にブンブン揺らした。

 樫木は、深美とともに、庭園にいた。現在午後四時。

 だが、そこは、目の前には、樫木の想像した、庭園はなかった。これが本当の庭園か、いや、これは最早庭園のレベルを超えている、。彼はそう思った。

 確かに、足下や、周りは、ごく普通の庭園だった。綺麗だが、それなら、テレビの中や、雑誌でも、樫木は見た事があった。単に、花が並び、植木が置かれ、湖があっただけの事だ。

 ただ、一つ、異質なものがあった。

 それは、赤と、白と、黄色の、見立て絵。単純に言ってしまえばそうなるのだけど、ただ、しかしそれは、表面上の特徴を単純化しただけで、決して、適切で現実的な表現ではなかった。壁の大きさは、横十メートル×縦五メートル、といったところだろうか。とにかく大きかった。

 チューリップ。そう、おそらく、チューリップだろう。何故、おそらくかというと、一見すると、その、目の前の景色が、チューリップの集合体という事実を、見る人間から、盗み取って、変換してしまうからだった。

「これ、天の川ですか?」樫木は尋ねる。

「うん」深美は、にっこり微笑んだ。

 まず、壁の右方向に、赤い星印があった。

 大きさは、一メートル程。少し右に斜めになっている。

 ルビーよりも、綺麗な赤。太陽よりも、目につく存在感。吸い込まれる様な濃い赤色だった。

 そして、その下を通る様に、黄色い流星群と、白い流星群が、右斜め下から、左斜め上へと向かっていた。

 丁度、赤い星が、黄と白の 箒の上に乗っている感じだろうか、四角の端と端を繋ぐ感じだろうか。

 光った水面の様に、上にいく程、箒は細くなっている。

 壁の色は漆黒。飛び出してくる。

 壁の中には、箒と赤い星以外に、白く小さい、星々。

 一つ一つが、輝いていた。

 これ、全部が、チューリップなのか。

 樫木は、目の前の、一つの壁に、心を奪われた。

 ずーっと眺めると、黒い土の壁の中に、点々と生えている白いチューリップが、本当に星の様に見える。実際の星の様に、点滅している様に見える。黄のチューリップと、白のチューリップが、月明かりを反射している様に見える。

 近くで眺めないと、これらが、チューリップだという事に、おそらく誰も気づかないだろう。それくらい、芸術的な光景だった。

 深美は、樫木の腕を引っ張った。

「ほら、こっちも凄いんだから」

 列車。

 それは列車だった。

 いや、

 銀河鉄道だ。

 それと月。

 星の大群。

 青い地球。

 コスモス。

 サザンカ。

 レンゲソウ。

 シクラメン。

 アマリリス。

 赤。

 青。

 紫。

 桃。

 白。

 黄。

 緑。

 黒。

 橙。

 虹が、宇宙に咲いていた。

 空が、花になっていた。

 爆発が、綺麗。

 星々が、万華鏡。

 列車が、どんどん小さくなっている。

 地球が見える。

 下は座席。

 横は窓。

 ここはどこ?

 列車の中だ。

 黒いカーテン。

 白いブラインド。

 光の矢。

 丸い槍。

 月は、遠いかも。

 土星の輪っかが、回る。

 海があった。

 太平洋。

 大海原。

 光。

 闇は、ない。

 白い。

 青い。

 柔らかい。

 全部、星の海だ。

 母なる大地。

 匂いがする。

 懐かしい匂い。

 新しい匂い。

 列車が、消えていく。

 消えた。

 迎えがやってきた。

 星。

 箒。

 それは、箒だった。

 黄と、白の、箒だった。

 赤い、星だった。

 横には、一人の少女がいた。

 君は誰?

「どうだった?」

 深美は言った。

 樫木は黙って頷いた。

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