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事情聴取を行った後は通常、捜査は進展する事が多い。これは、ほぼ間違いない。何故なら、情報を得る事によって、捜査の範囲が、縮小するからである。これは、当たり前といえば、当たり前だ。ヒントが二個のクイズと、ヒントが五個のクイズ、どちらが解きやすいかとなったら、それは絶対的に後者だろう。だが、ごくまれに、ヒントが多いクイズの方が、難しいものがある。それは、一般的に、難易度が高いクイズな筈だ。ヒントが増え、その分、見れる景色が変わるという事は、それだけ多重構造だという事だからだ。そして、これが、事件となると、ただの事件から、難事件と変わる。そして、ヒントが粗方揃っても、解決出来ない事件が、不可能犯罪。時間切れになった事件が、迷宮入りになる分けだ。ただ、まだ、この事件は、不可能犯罪ではない。だが、もしかしたら、不可能犯罪よりも、難易度が、高いかもしれない。彼はそう考えた。何故なら、不可能犯罪は、ヒントがほとんど出揃っているからだ。ただ、この事件は、そのヒントが百個ある様な、そしてどのヒントが本ものか、また、現在どの程度ヒントが出ている状態なのか、分からない様なものだった。いや、事件だから、当たり前といってしまえば、当たり前かもかもしれない。だが、それにしても、よくぞここまで、といった感じだった。
三崎は、今は刑事しかいない仮設取り調べ室で、煙草を一本吸った。
「警部、どうしたものでしょうね」夕張は、三崎の向かい側のソファーに座っている。
「分からん。なにが分からんかも、分からなくなってきた」
ここは、元客間、現在取り調べ室となっている。ドアを開けると、ソファーが数式のイコールの記号の様に、二個向かい合っている。その真ん中に、木でできた、暖かみのあるテーブル。左にはベッド。奥には窓。部屋は、そう狭くはない。カプセルホテルよりは大きい。少なくとも、三崎が初めて一人暮らしをした部屋よりは、大きかった。 三崎は、今、奥のソファーに座りながら煙草を吸っている。ちなみに、トイレとバスルームは、一番端の部屋にあるらしい。リビングの隣の部屋にも、もう一つ、トイレとバスルームがあった事を、三崎はふと思い出した。
煙を吐きながら、三崎は周りを見渡した。ドアの近くに、警官が一人。そして、三崎の右横に二人。また、窓近くにもう一人警官がいた。ちなみに、取り調べの時は、三崎と夕張で話を聞き、他の警官は、部屋の外で待機、というシステムを取った。
とにかく、まずは、情報を整理しよう。
机の上にある、銀色の、龍の形をした灰皿で、三崎は短くなった煙草の火を消した。背中が、丸く平面になっているデザインだった。
「夕張、すまないが」三崎は、溜息をつきながら言った。「家政婦さんに言って、暑いコーヒーを持ってきてくれないか」
「はい、ただ今」夕張は、部屋をかけ足で出ていった。
彼は、事件の関係者の供述を、アルバムをめくる様に思い出した。
彼のアルバムの、恋のページはほとんど埋まっていない。
だが、事件のページは、全部埋まっていた。
また、新しいものを買わなければ。