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「えっ? 二人がいない?」
「はい、どうしましょう」
「どうしましょうじゃない!」三崎は夕張を怒鳴った。
「なんで僕が」夕張は縮こまる。
「特に心配は、ないと思われますが」寿洲貴が、三崎の後ろから、恐る恐る言った。「あのー、お嬢様と樫木様は、玄関から出て行きました」
三崎は、夕張とともにロビーにいた。これから、この館にいた人物から、順番に事情を聞くところだったのだが、柳深美という、この館の長女と、樫木伊住という、茶話矢花屋店のアルバイトの少年が、館の中にいなかったのだ。
「いつ、館から二人は出ていったんですか?」三崎は、笑顔を作りながら寿洲貴に聞く。
「うっわ、僕の時と全然違う」
「うるさい」三崎は、夕張の足を踏んづける。
「ぐえっ」勿論、ロビーにも蛙はいない。
「奥様達が、死体を発見する前、この玄関から出ていきました」寿洲貴は、左にある立派な木でできた扉を指さす。「あ、それでですね、この館の外の門を開けるには、この館の中に連絡を取らなきゃ行けないんですね。インターホンで。でも、まだ連絡は来ていないので、この館からは二人は出ていないと思うんですよ。この館は、周りが塀に囲まれていますし」
「なるほど」三崎は、偶然にも、事件に関係のある情報を聞き、急いでメモをする。彼は、所謂メモ魔である。
「あのー、それで、できればすぐ戻ってくると思いますので」寿洲貴は伏し目がちに言う。「できれば、お嬢様の、その、デートが終わるまで待って頂けないでしょうか? 多分、すぐ戻って来ると思うんです。それに、私、お嬢様に内緒にする様申しつけられているので、すぐ行くと、その、私が喋った事が、お嬢様にも」
「うーん、そういう分けにもですなあ」三崎は頭を掻く。
「三崎さんはデートした事ないから」夕張はくすくす笑う。「だから、男女の気持が分からないんだ、って、ぐええっ!」
「まあ、その二人は、事件に関係なさそうですから、とりあえずはいいでしょう。館の外へも行けない様ですし」三崎は溜息をつく。「よし、夕張、それじゃあ、そろそろ、事情聴取を開始しよう」
「えーと」夕張は右足をさすりながら言う。「先程、柳婦人から、客間の一つを、取り調べ室として、お借りしました。取り調べは、そこで行いましょう」
「ん? 客間は、誰かが休んでいるんじゃなかったのか?」
「いえ、その他にもまだ幾つか客間はあるそうですよ」夕張は三崎を見ながら言った。「まず、誰からお呼びします?」
「決まってる。柳婦人からだ」