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アジサイ笑って、走って逃げた  作者: お休み中
第二章 ばらばらばらばらばら
11/40

「えーと、ここ、屋上ですよね?」

「そう、屋上ね」

 樫木と、深美は、青く、白く、広い空の下にいた。

 あの後、二人は、猛スピードで、駆け足で、真ん中の螺旋階段を上り、手を繋いで、傍目から見るとロミオとジュリエットの様に、屋上まできたのだった。 全体位置としては、北の間の三階にあたり、また、この館で一番高い場所になる。

 足下は、白いタイル調のコンクリート。正方形が、ジグゾーパズルの完成後の様に、整然と敷き詰められている。また、この屋上の足下の外枠は、一段段差が上がっているだけで、驚く事に、金網や、手すり等、そういった、転落防止のアイテムがなに一つなかった。つまり、一歩、段差を踏み外せば、即転落という、なんとも常識では考えられない光景となっていた。

 他にはなにも、この屋上には存在しない。唯一の例外は、望遠鏡だけだ。あの、東京タワー等にある、あれである。今、深美が立っている、横にある。

「心配しないで」深美は左手を挙げる。「ガラスが、三百六十度、この屋上には、張ってあるの」

 よく見ると、確かに、深美の近くの、太陽光の反射の仕方がおかしい。電車に乗っていて、窓際の席に立っている時、窓を見ると、反対側の席の景色が反射で見える、あの現象の様なものだろうか。

「この屋上一面が、ビニールハウスみたいになってるんですか?」

「そうよ。さあ、こっちきなさい」

 樫木は、唾を飲み込んだ。正直言って、単純に、かなり怖い。

 今、深美は、館の玄関の真上に位置する場所に立っている。あと数歩進めば、下に落ちる位置である。樫木の現在位置から、約十メートル。

 一歩、一歩。確実に進んでいく。まるで、ゲームの様である。いや、ゲームよりゲーム的だ。そして、ある意味、今までの中で、一番生きた実感が湧いた瞬間かもしれない。大袈裟ではなく、それくらい、この壁が全くない屋上は怖かった。

「もう、遅いわよ」深美は、頬を膨らます。「あなた、男の子でしよ? こんな事ぐらいで怖がってどうするの?」

「男の子の前に、人間です」樫木は、顔が引きつった。

 目の前には、今まで茶話矢と通った景色が広がっていた。十字に分かれた大きい道路。 その十字の上部分には、黒い鉄格子の玄関。右部分には、車を止めてある駐車場。左部分には、話に聞いただけだが、確かに庭園があった。下部分には、漢字の一の様に、横に流れる川に、さっき通ってきた、橋がうっすら見えた。後の部分は、ほとんど木や、芝生だった。

「絶景ですね」樫木は言う。「いい眺めです」

「あなた、私がここから突き落とすとか思ってないでしょうね?」

「ちょっとだけ」樫木は、深美の方を振り向き、右手の親指と一差し指で、横に太ったカタカナのコの字を作って言った。

「あれは、見えた?」

「あれってなんです?」樫木は、深美の方向を向いたまま喋る。もう、前は、一生振り向きたくなかった。

「まあ、いいわ。あんなもの、一回見たら、飽きてしまうしね」深美は、樫木の手を取って、屋上の真ん中に連れ戻す。「初めての人って、みんなこう」

「ここ、庭園じゃないですよね?」樫木は、深呼吸しながら言った。

「うん、嘘ついたから」深美はさらっと答えた。

「あのー、もうそろそろ戻らないと」

「あなた、彼女いる?」深美は、樫木の右手を両手で握りながら、目を見据えて言った。「いや、いませんけど」

「キスしない?」

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