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楽浪は、昨日今日生まれたのではない、古参の神である。それは間違いない。
けれど、どれくらい昔に生まれたのか、何百年あちこちを彷徨ってきたのか、まったく覚えていない。
出会った人も、見た景色も、思い出も、名も、何もかも全て。
長い放浪に記憶も擦り切れ、錆ついてしまった。
たった今手のひらにすくったばかりでも、やがて葉が落ちるように消える。
だから、思うのだ。
この一瞬を、せめて楽しく。
暮れゆく秋は、消える浪は、落ちて朽ち果てるもみじ葉は。
すぐに消える定めでも、せめて楽しく。
だからこそ、今を楽しむ。全身全霊をかけて。
神としてはどこかずれているのかもしれないけれど。
それが、彼の生き方だった。