虚数空間の攻防 2
マルケス艦長が叫ぶ。
「ロミュレイ! 艦首流動バリア展開。一番、三番ハッチ閉鎖、艦首戦闘機隊は待機。二番、四番ハッチ開放、艦尾戦闘機隊発進せよ」
ロミュレイとはフリゲート艦スタブスターを制御する人格コンピュータの名前である。常であれば音声での返事をせず、艦長以下権限をもつ人間の命令を『黙々と』実行するのだが——。
『警告。敵の実体弾は質量が大きく、偽装の可能性あり。流動バリア——』
男性の声を摸した合成音声が艦長席のコンソールから聞こえてきた。
「口応え無用だ、ロミュレイ! サワヌマ中尉に艦隊戦の基礎を学んでもらうのだ。この私の指揮手腕を見て貰うことでな。貴様は黙って私の指示に従っていろ」
『……了解』
一本調子なはずの合成音声に感情の揺らぎを感じ取ったユッチは、わずかに首を傾げる。
(そもそも、人格コンピュータを搭載してんのにブリッジクルー忙しそうだもんな。艦長、コンピュータ嫌いなのか?)
ふと正面に目を遣ると、ユッチが先ほどまで使っていた通信コンソールが目に入った。
ロミュレイという人格コンピュータがスタブスター全体を制御する対人インターフェイスである以上、艦内のどのコンソールからも会話が可能な筈だ。確信はなかったものの、ユッチは小声で通信コンソールに話しかけてみた。
「ロミュレイ。いま、偽装と言ったな」
俺に説明してくれないか、と続けようとしたユッチは、目を見開いて言葉を呑み込んだ。
(声を出さなくて結構です、サワヌマ中尉。表層意識に言葉を思い浮かべるだけで)
今聞いたばかりのロミュレイの声が、彼の意識に飛び込んできたのだ。
(こいつは驚いた。お前、コンピュータなのにテレパシーを使えるのか)
(少し違いますが似たようなものです。ただ、思考はなるべくセクダーン語でお願いします。私はこの船に乗り込む人間の脳波パターンを全て登録しています。要するに、発声前の電気信号を分析できるのです)
納得しかけたユッチは、新たな疑問に眉根を寄せる。
(分析? お前が俺の思考を読めるのはいいとして、お前の言葉を俺が感じ取れるのは何故だ)
(時間がないので手短にお答えしますが、あなたがBクラス以上の魔法士である上に、テレパシーに慣れておられ、無声会話ごときを『プライバシーの侵害』とはお考えにならないからです)
もっと掘り下げて聞きたかったが、今は非常時だ。普段からシシナのテレパシーによる会話に日常的に接しているからか、と簡単に納得したユッチは、最初に聞こうとしたことを伝えた。
(あの魚雷だが、どんな偽装を懸念しているんだ、ロミュレイ)
(私が最も恐れているのは、魚雷型の容器内にフォノン・メーザー砲発射装置を内蔵している可能性です)
「な!」
思わず声が出たユッチ。流動バリアとは分厚い水の壁のようなバリアである。もちろん実際の液体ではなく虚数空間内の物質を利用したバリアなのだが、重力圏の水中にいるのと似た物理法則が発生する。これによるメリットは、対戦闘機戦における相手の機動性を殺ぎ、実体弾の被弾による損害を大幅に抑える点にある。しかし、フォノン・メーザーに対する防御力ということになると、炎の前の紙に等しい。
艦内通信が味方戦闘機隊の大声をブリッジに響かせた。
『バルフォシス2、トボン、発進』
『アルタライ2、マガシュリ、発進』
『バルフォシス3、ヨスガダ、発進』
後部の二番、四番ハッチから次々に出撃するパイロットたちの声だ。続いて正面モニターの一つにユッチが良く知る戦闘機そのものの外観を持つ味方機が映し出された。
機体デザインを見たところ、バルフォシスやアルタライというのが機種名、トボンやマガシュリというのがパイロット名であるらしい。前者については戦闘機小隊のコードネームなのかもしれないが。
(我がスタブスターにおいては機種名で合ってますよ、中尉)
(そうか)
味方機のデザインが魚じゃなくて良かった、と安心するユッチをよそに、見る間に加速し敵機へと直線的に殺到していく。
「艦首発射管一番、三番。光子魚雷発射準備」
艦長の命令を火器管制オペレータが復唱している。
流される状況の中、部外者のユッチには口を挟む暇がない。
(この近距離で光子魚雷だと?)
(流動バリア展開中ですので本艦の実体弾もパルスレーザー砲も使えません。セオリー通りの攻撃方法です)
ロミュレイはユッチの疑問に答えると同時に、艦長にも音声で応答した。
『了解』
続けて火器管制オペレータが「精密照準——」と言いかけたが、それを遮ってマルケス艦長が怒鳴った。
「こちらがのんびり狙っている間に相手からは二発目、三発目をぶちこまれるぞ! 照準無用、とにかく撃て!」
「光子魚雷、一番、三番、発射」
火器管制オペレータがコンソールを操作し、正面モニターの隅にほんの一瞬光の筋が映る。こちらに迫りつつあった三機の敵機が一斉に機体側部を見せ、回避機動に移る様子がモニターに映った。まるでこちらの攻撃を予知していたかのような見事な機動。光子魚雷はいずれの敵にも命中せず、虚数空間に吸い込まれていった。
次いで、三機の味方戦闘機隊が敵の射線を塞ぐ位置に展開する様子をモニターが捉えた。味方戦闘機が発射したビームの輝きがモニターに映り、ひとつの爆発光が膨れ上がった。
『こちらバルフォシス3。実体弾ひとつ撃破、ふたつ撃ち漏らした』
「こちらスタブスター、了解。敵機は三機とも機動性に優れたトリアホーンです。敵機迎撃に集中願います」
『バルフォシス3、了解だ』
流動バリアは実体弾による破壊力を吸収するには非常に有効な障壁だ。しかし、バリアの有効範囲内は水中にいる状態に似た物理法則に包まれる。フォノン・メーザー砲は指向性の極超短波を照射する武器だ。流動バリア内であれば音速の十倍近い速度が出る。
(あの魚雷が本当に偽装弾で、フォノン・メーザー砲を内蔵してるのなら、俺たちはまんまと罠に嵌った格好だぜ)
『ヨスガダ!』
開きっ放しの回線から味方パイロットの悲痛な声が飛び込んできた。
「バルフォシス3が……、撃墜されました!」
女性通信士によるその報告は、ほとんど悲鳴と聞きわけがつかなかった。
「……距離三六〇。敵の初弾、まもなく流動バリアに接触します」
わずかに泣き声を混じらせつつも明瞭な声で気丈に報告する通信士。
防御オペレータの仕事を奪う格好となっているが、誰も文句を言わない。
単なる友情以上の関係であろうことに気付くユッチではあったが、ヨスガダの冥福を祈ってやる余裕はない。
艦長に流動バリアの解除を進言すべきか迷い、一秒で決断した。無用な押し問答で迷惑をかけるわけにはいかない。
(無断でやる)
(事後承諾の際はお力添えをします、中尉。ご存分に)
ユッチはその場に膝をつき、小声で呪文を呟き始める。
「【大地を覆う偽りの膜。真名を以て虚空へ還れ】」
ユッチの身体が青く発光し、ぎょっとしたブリッジクルーの注目を集めた。
ブリッジの床に幾何学模様が広がってゆく。
艦長が立ち上がり、口から唾を飛ばす勢いで怒鳴った。
「何の真似だサワヌマ中尉!」
「【汝の真名、ゴルベリマ!】」
突如、ブリッジの床に出現した幾何学模様。ユッチを中心とした巨大な円形魔法陣が青白く発光し、光源の乏しかったブリッジ内を目映く照らす。円の外周に沿って複数の小さな三角形や菱型が回転し、気圧差の存在しないブリッジ内に強風を巻き起こす。
それは召還魔法の亜種。魔神本体ではなく、時空を捻じ曲げ、広範囲にわたり自在に事象を変化させる魔神の力を一時的に借りる、古代魔法のひとつである。魔力を借りる時間が長ければ長いほど魔法士の体力を削っていく。
「すぐにやめたまえ、サワヌマ中尉!」
「艦長! フォノン・メーザー反応です」
マルケス艦長の怒声を防御オペレータの大声がかき消した。
今張っているバリアは電磁バリアではなく流動バリアだ。直撃箇所によってはこちらの艦体重量を半減させるほど蒸発する可能性もある。
表情を凍りつかせたのも一瞬、マルケスは直前の怒声を上回る大声で号令をかけた。
「総員、衝撃に備えろっ!!」
静寂に包まれるブリッジ。
ひとりユッチのみが呻き声を漏らす。
『艦長。サワヌマ中尉が二発のフォノン・メーザーを抑えてくださっています。速やかに流動バリアを切り、反撃のご命令を』
ロミュレイが無機質な合成音声で艦長の判断を仰ぐ。
「なにぃ!?」
頓狂な声を上げたものの、いつまでも迷っているマルケス艦長ではない。状況を把握するや、彼は即座に決断した。
「流動バリア停止。艦砲射撃用意。戦闘機隊各機は艦砲射撃座標を確認せよ。一番、三番ハッチ、開放。艦首戦闘機隊発進」
『バルフォシス1、オーチョビ、発進』
『アルタライ1、ユエリー、発進』
待ちかねたかのように出撃していく戦闘機隊。スタブスターの出撃可能艦載機は五機、これで全て出払った。
「援護射撃用意。撃て」
火器管制オペレータは艦長の命令を復唱した後、さらに言葉を続けた。
「針の穴を通すような砲撃だ。各砲撃手はロミュレイに頼らずマニュアルで撃ちまくれ!」
どうやら艦内の有人砲台に対する指示であるようだ。
「味方パイロットの腕を信じろ、遠慮は無用だっ」
ブリッジクルーの声を聞きつつ、ユッチは肩で息をしている。拭おうともしない汗は顎を伝って滴り、床を濡らす。
「中尉。もうフォノン・メーザーの心配はない。貴官の働きに感謝する。あとは我々に任せ、休みたまえ」
ユッチは立ち上がり、艦尾側を振り向くと大声を張り上げた。
「まだだ艦長! 敵の執念は消えていない。〈ゴルベリマ〉の力を借りている俺には感じ取れるんだ。後部ハッチが狙われている。座標転移……、カミカゼをやるつもりだ!」
咄嗟に特攻を意味する適当なセクダーン語が思い出せず、『カミカゼ』だけ日本語で言ってしまったユッチは、肝心のニュアンスがブリッジクルーに伝わっていないことに気付いて歯噛みした。言葉を重ねようとした矢先、通信士が報告の大声を張り上げる。
「敵一機、質量消失。撃墜ではありません。これは……座標転移です!」
今になってニュアンスの近い言葉を思いついたユッチは早口で叫ぶ。
「体当たりですよ!」
間に合わない。艦長の判断を待たず、ユッチは怒鳴った。
「ロミュレイ、衝突警報だ。後部ハッチ付近の乗組員をなるべく艦首側へ避難させろっ」
それは、戦闘機ごと体当たりする自爆攻撃。
ロミュレイもまた、艦長の判断を仰ぐことなく衝突警報を発令した。直後——。
「くそ、防ぎきるには俺の体力がもたない。全員何かに掴まれ!」
ユッチの剣幕に、艦長を含むブリッジクルー全員が手近の固定物を掴んだ。
限界だ。急速に魔法陣が収束していく中、自身もきつく目を閉じたユッチ。
激振。かつて経験したことのない激烈な振動の中、上下も左右も前後さえも曖昧になる。ロミュレイは天井と床および全壁面にエアバッグを展開させたが、ブリッジ内にはクルーの悲鳴と怒号が渦を巻いた。しかし、当のクルー同士には互いの悲鳴がほとんど耳に入ってこない。
爆音。鼓膜を叩く音は物理的な衝撃を伴い、それは彼ら全員にとって今までに知る轟音のレベルを遥かに超えるものであった。もはや身体のどこが痛むのかわからず、ひどい耳鳴りに苛まれ、いまだに意識を手放さずにいる者はごく少数だ。
『うわあ、スタブスター! くそったれフェアリーテイルがあぁ、よくもやりやがったな』
『一機は墜とした、残りは一機だ!』
『必ず落とせ、これ以上好きにさせるなあっ!』
ユッチはマギ・アウト直前の朦朧とした状態で目を凝らしたが、エアバッグのせいでモニターが見えない。
——あれほどの轟音にさらされたが、ブリッジの機能は生きている。パイロットの声が耳鳴り越しに聞こえるからな。
そう考えたのを最後に、彼の意識は途切れた。
* * * * *
額に感じる優しい感触。小さな手。
シシナ? いや、肉球ではない。
その懐かしさに、ユッチは重い瞼をこじ開けた。霞む視界にぼんやりと浮かび上がるのは黒髪の女の子。この春から幼稚園に通い始めたばかりの……。
「詩織? お兄ちゃんの風邪がうつっちゃうぞ」
そう口に出し、記憶の齟齬を自覚したユッチは一つまばたきをした。
——そうだ、俺が最後に熱を出して寝込んだのは十歳の頃。今の俺は十九歳で……、限界を超えた魔力の影響で発熱に良く似た症状に陥っている。下手すれば今後の任務に支障を来たすかもな。ミュウ、ツッキー、すまん。……ところで、この女の子は。
見上げるユッチにしっかりと黒い瞳を向けたのは十歳前後の少女。無言で笑顔を向ける彼女は、記憶にある妹よりも幾らか成長した容姿をしている。それでも、その瞳に妹の面影を見たユッチは、続ける声を微かに震わせた。
「詩織……なのか?」
あり得ない。何故なら詩織は——
胸中の葛藤をよそに、ユッチの口は問いかけを発していた。
しかし少女は首を横に振る。
上半身を起こしたユッチから、少女は手を離した。その手を自分の両手で包んだユッチは、「温かいな」と呟く。
彼の言葉に対し、無言のまま目を細めて応える少女。ユッチは満面の笑顔を向けた後、突然歌いだした。
「はるはぽかぽかはながさき」
「なつはだらだらあせをかき」
ユッチが歌ったのは詩織が幼稚園で習ったという遊び歌の一節だ。すかさず続けて歌う少女を見つめ、ユッチは声を立てて笑った。
「そうか。君はあの頃の……詩織の友だちか」
小さな子どものうち何割かは、彼らとだけ遊べる見えない友だちがいるという。それは、子どもに特有の、抜群の空想力が生み出すものかも知れない。だが、全てが空想の産物とは限らないのではないか。詩織には、この少女が見えていたのではないか。
しかし少女は笑みを消してうつむくと、呟くように言った。
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない」
あまり抑揚のない、小さな声。だが耳に心地よい、とても澄んだ声だ。
「よく覚えてないの。でも名前だけはわかる。あたしはイーリャ」
あの子が名付けてくれたのよ、と嬉しそうな顔で告げた。
——「あの子」とは詩織のことじゃないのか?
喉まで出かかった質問を飲み込んだ。覚えていないというイーリャに何を聞いても無意味だろう。ユッチは彼女の手を離すと自身の首を回し、肩を回してから言う。
「俺のこと治してくれたんだろ。ありがとうな」
マギ・アウトに陥っていたはずなのに、怠さが綺麗に消えている。
「このあたりであたしの仲間がたくさん生まれてて、気になって見に来たの。そしたらお兄さんが——」
「ユッチだ」
「ユッチが大変だったから」
顎に親指を当て、ユッチは虚空に視線を彷徨わせつつ、「IMがたくさん……。どういうことだ」と呟いた。
イーリャは首を横に振りつつ、「みんなイーリャと違う。怖い感じや悲しい感じの子ばかり」と言ってうつむく。
「それじゃあたし、もう行くね」
言うが早いか輪郭をぼやけさせたイーリャに対し、ユッチはあわてて声をかけた。
「待った、イーリャ。また会えるかい?」
この言葉に対し、イーリャは無言のままどうとでも取れる笑顔を見せ、姿を消してしまった。
暫しの沈黙。改めて周囲を見回したユッチは、そこがスタブスターの仮眠室だと知った。
「ん?」
寝ていたベッドの枕元に書き置きがある。どうやら部下たちはブリッジにいるようだ。
艦内通路に出ると、ブリッジを目指した。
(ロミュレイ。今の会話、聞いていたか?)
(まさか。就寝、入浴、洗面、トイレのプライバシーは絶対です。私は知りませんよ、イーリャという名のIMが乗り込んできたことなど)
(…………お前)
人間よりも人間的なインターフェイスだ。彼がこれまで艦長から受けてきたであろう冷遇を思うと、ユッチは心から同情するのだった。
(ありがとうな)
(私は優秀な対人インターフェイスですから。相手に害意があるかどうかくらい判断できます)
(だから警報を鳴らさなかったのか?)
(ふふ、報告義務違反という点では、私は中尉と同罪ですね。ご安心ください、記録に残しませんし、艦長にもずっと黙っていますよ)
(本当にコンピュータなのかお前)
(ですから、優秀な対人インターフェイスです)
死者〇、重傷者一、軽傷者七。重傷者はパイロットのヨスガダ。彼の脱出ポッドを別のパイロットが拾って帰艦したところ、肋骨が折れていたが生命に別状はなかった。
艦の被害状況は、後部艦載機射出口二番ハッチ損傷のみ。ロミュレイによる緊急シールドが奏功し、物理的な被害は最小限で済んだのだ。
ロミュレイとの無声会話により、ブリッジに上がるまでにこれらの知識を得た。いざブリッジに姿を見せると、彼を待っていたのはブリッジクルーによる熱烈な歓迎だった。
あれだけの不意打ちを喰らい、死者ゼロで済んだのだ。熱狂ぶりも当然。ユッチは顔面をややひくつかせながらも、マルケス艦長の大声による熱弁に耐えた。
やがて熱狂が収まると、艦長は神妙な声で言った。
「君に艦隊戦を教えるなどと偉そうなことを言っておきながらこのざま。まことに恥ずかしい限り。中尉の今回の功労に対する褒賞については、局から追って通知が届くとは思うが、それとは別に私にできる範囲で君にお礼をしたい。何か希望はあるかね?」
「そうですね。実は、SEデバイス改良のアイデアがありまして。ロミュレイの力をお借りしたいのです」
ユッチはさほど考えるまでもなく即答し、マルケス艦長の快諾を得た。
「班長!」
「ユッチ!」
声のする方に視線を巡らす。部下の少女二人と、片方の少女の肩に乗った白猫の姿がそこにあった。
書き置きには書かれていなかったが、どうやらスタブスターの乗客に過ぎない彼女らは、自ら志願してブリッジの片付けを手伝っていたらしい。
駆け寄る少女たちは眉尻を下げているが、白猫は背毛と尻尾を逆立てている。
「いや、なんというか、……すまん」
他に方法はなかったと信じている。だが、この場は謝る以外の選択肢を持ち合わせていないユッチなのだった。