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艦長の決断

「くっ、どうなってんだ。あの人型メカ、全部避けやがる。スールン!」

『オーケイ、相棒。——艦長、大技での制圧を提案するぜ』

 砲術士とスールンの言葉を聞いてはいたが、バームドは数秒の瞑目を経てから告げた。

「慌てるな。敵艦が見当たらん」

「本艦バブルバリア付近に艦艇クラスの質量も他艦バブルバリア反応も探知できません! ソナーに反応があるのは、あの人型兵器とトリアホーン、そしてバルフォシス3の三つだけです」

 索敵オペレータの報告を受け、苦い顔でモニターを睨む。

 味方機、四機撃墜。最後の一機も時間の問題だろう。

「スールン! バルフォシス3の援護にリソースを割け! もう十分だ、呼び戻してやらねば」

「バルフォシス3、被弾! 本艦への帰投シーケンスへの移行を確認」

 防御オペレータが声を張り上げた。

 次の瞬間、壁面モニター群のほぼ半分が攻性被膜のレーザービーム光で真っ白に染まる。

『バルフォシス3のケツは守るぜえ! 相棒』

「おうよ! でやああああ!」

 砲術士が端末を操作するにあたり、特に声を出す必要はない。単に気合を入れているだけなのだが、バームドはこれを「必要なパフォーマンス」だと認めていた。

「艦長! 敵の割り込み通信です。遮断できません」

 女性通信士が悲鳴のような声で報告した。

「構わん」

『最初から今みたいなダンスだったらボクだってもっと派手なステップを披露したのにな。もう接収とかどうでもいいよ。今のでボゴヤも被弾しちゃったし、ボクもさすがに余裕かましていられないからね。——さよなら。ちょっとは楽しかったよ』

 パウラは言いたいことだけ告げると、バームドの返事も聞かずに通信を切った。

「反物質リアクター、負荷率五十パーセント」

「人型兵器接近。距離三百三十、三百十……」

 各オペレータの報告を受け、バームドは決断した。

「砲術士、スールン! アレを許可する」

『その命令を待ってたぜ!』

「了解っ」

 ディメンションクラッシャー。攻性被膜を一方向に集め、直径百メートルに及ぶ破壊のエネルギーを射出する。戦闘空域を面で制圧する大技である。

 その準備作業に入ることで、攻性被膜のレーザーが一時的に沈黙した。

 弾幕がなくなったことで逆に警戒したか、人型兵器の接近速度が鈍る。


 端末の操作に集中する砲術士に代わり、艦長自ら砲撃班に命令を出す。

「右舷パルスレーザー、バルフォシス3の帰投を援護せよ。艦首魚雷、炸裂弾頭。(ひと)番、三番発射準備」

「距離二百五十、二百三十……」

「魚雷発射!」

 あの人型兵器にとって、何の脅威にもならない牽制だ。

 だが、レーザーを沈黙させたことで必要以上に警戒してくれているようで、敵は魚雷を大げさに避けてくれた。いったん距離が開く。

 そのあたりは見た目通りのパイロット、やはり経験値が低いのだろう。

 しかし——


 バームドは歯軋りした。ここに至り、完全に理解したのだ。


 ——本命はこちらではない。なぜなら、敵艦がそばにいないからだ。少なくとも即座に指示を受けられるような状態ではなく、人型兵器とトリアホーンは独自の判断で動いているのに違いないのだ。

 我々は足止めを食らった。そして、あの人型兵器の実力は、まだまだこんなものではない。


「通信士。バルフォシス3につなげ」

「はい」

 モニターにヘルメットを着用した戦士が映る。

『ルルマッカ、バルフォシス3です。艦長、面目ない。味方が全て……くっ』

 悔しげに歯噛みするパイロットに向け、バームドは冷厳な眼差しを向けた。

「挽回の機会が欲しいか」

「艦長!?」

 ぎょっとして振り向く通信士を無視し、告げる。

「アルタライ3が整備済みだ」

『ありがてえ! 帰投したらすぐに再出撃します!』

「その意気や良し。だが、あの人型兵器とトリアホーンはこのルルマッカが引き受ける」

『は。……しかし、それなら自分は何のために再出撃を?』

 パイロットは反射的に返事をしたものの、訝しげに質問を寄越した。

「反物質リアクターの過負荷まで、まだ余裕があるからな」

『すみません艦長! 仰る意味がわかりません』

 バームドはモニターを見据え、吠えるようにして告げた。

「貴様をスタブスターのバブルバリアへ転移させる! スールンのコピーと戦闘記録データを、マルケスに届けるのだ!」

『はっ! 了解しました』


 強敵だ。初見で凌げる相手ではない。

 ——そう、我々も。

 俯くバームドの両目が濃い陰影に隠された。

 きつく唇を噛み、ある一点を睨みつける。

 その先にあるものは、透明のプラスチックケースに保護された、黒と黄色のストライプ模様を斜めに施されたボタン。


 パウラはああ言っていたが、万に一つでもこのルルマッカが接収された上、スタブスターを攻撃することなどあってはならない。

 ふと気付くと鉄の味がする。唇の端から血が流れていたのだ。

「だが、まだ希望は捨てぬ。こちらには大技があるのだ」

『ディメンションクラッシャー、発射準備完了したぜ』

 バームドの独り言に応えるかのようなタイミングで、スールンが報告した。

 続いて通信士が報告する。

「バルフォシス3、着艦しました」

「よし! ディメンションクラッシャー、発射!」

「了解! ディメンションクラッシャー、発射!」

 砲術士の復唱とともに、ルルマッカの前方から巨大な光の奔流が噴射された。

 たっぷり三十秒ほど、光の噴射が続く。

「反物質リアクター、負荷率七十パーセント」

「人型兵器、トリアホーン、反応消失!」

「よっしゃあ!」

 索敵オペレータの声に、ブリッジクルーは喜びの声を上げる。

 だが、バームドは怒声を張り上げた。

「気を抜くな! 索敵オペレータ、艦首以外の探知も怠るな!」

「は! え!?」

 ブリッジを激震が襲う。天井の一画から火花のシャワーが降り注いだ。

「上です! 本艦の真上、距離八十! 人型兵器、トリアホーン、共に健在」

「被弾箇所、艦首B1ブロック。損害状況、人員六名、パルスレーザー砲門二門」

 その報告を聞いた途端、バームドはボタンを覆うケースを割り破った。

「アルタライ3、スクランブル! スールン、アルタライを空間転移させろ。座標はC・C・X・4」

 再び激震。敵の本気を確信し、黒と黄色のストライプ模様のボタンを強く押し込んだ。

『本艦はこれより自爆シーケンスを実行します。——自爆まで三百秒』

「すまん、みんな」

 バームドの苦い声に対し、ブリッジクルーの声は明るいものだった。

「いいってことよ、気にすんな艦長」

「覚悟はできています」

「敵に一矢報いることができるのなら!」

「俺たちの本気、見せてやりましょう」

「お前たち……」

 声を詰まらせるバームド。

 そこへ、格納庫から連絡が入った。

『アルタライ3、発進準備完了』

「緊急発進! わかってるだろうな、スールン。艦の外に出る前に転移だぞ」

『任せな、ボス』

『艦長、ご武運を!』

 格納庫内滑走路を移動するアルタライは虹色の光に包まれ——かき消えた。

「よし。マルケスよ、後は任せ——」


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