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FoxWarden  作者: Nekosan
1/2

#1

 新暦14年5月18日、13時15分、UTC。

 天気は晴天。視界は良好。身体機能に問題なし。

 オーバー。



 私達を乗せて動く装甲車は、軽快な音を立てて動き続け、戦闘の痕が色濃く残る廃墟を進む。放置されていた車両は潰され、校舎のような建物の一部が倒壊している。

 装甲車の上に出て、周囲を見渡す。視覚、聴覚の感度を最大限まで引き上げ、周囲を警戒する。今の所、敵性対象は無い。

 生体反応は1つ。装甲車の中に居る、私の主人。私の任務は主人を守ること。そのための身体と心。


「調子はどうかね?紗衣(さえ)くん。」軽装でハッチから身を乗り出してきた少女が話しかける。

「周囲に敵性対象無し、大丈夫ですよ。」

「違う違う、私は身体の調子を聞いているんだよぉ。」

「そちらも大丈夫です、異常はありません。」

「ふふふっ、なら良かった。何かあると私の株に関わるからね?」服装が軽ければ言葉も軽いのか、と紗衣は少し心の中で毒付く。この少女の名は殊音(ことね)。紗衣の主人。

「何かありました?」

「いやー、ずっと中に居ると気が滅入っちゃってね。外を見に来たのさ。」殊音はハッチから這い出ると、周囲を見渡した。

「運転は大丈夫なんですか?」

「私の自動運転装置を信じないのかね君ぃ?大丈夫に決まっているでしょ。そんなことよりこの暑さどうにかならないのかな。」

「中だと冷房が効いてるんじゃないですか?」

「それが燃料が無くてね。節約してるの。」

「とりあえず水分を取ってください。熱中症にでもなられたら私も困ります。」

「そうしようかな。私が居ないと困るもんねぇ~♪」

 そう言うと、上機嫌そうにこちらを眺めてニヤついている。紗衣は調子に乗るなとでも言ってやろうかと思ったが、あまり効果が無さそうなので黙っておくことにした。殊音は紗衣から水筒を受け取ると、一気に飲み干す。よほど喉が渇いていたようだ。白いキャミソールに汗が染み込んで、身体に張り付いている。

 紗衣は周囲の警戒を続けながらも、少し回想する。


 私が生まれたときから、争いはどこでもあったと記憶している。それからずいぶん時が経ったが、世界から戦争は消えることはなく、人間は各地で紛争を繰り返している。まもなくして、血で血を洗う戦争の主役は、人間たちが作った戦闘機械に取って換えられた。

 この変化によって、戦争に参加する人間はほとんど血を流さなくなった。その代わり、人間の指令によって、ただひたすらに壊し壊される機械がこの戦場に無数に存在している。

 私たちは、その戦場にいる。


 その時、突然空気が変わる。右前方に気配。紗衣はいち早く反応し、目線を向ける。

「主人!」

「お、何か来た?」

「敵性対象を確認。距離約500、4m級の四足歩行機械、銃座2門、大口径砲1門。」

「了解了解〜!」殊音が端末を取り出し操作する。数秒後、乗っている装甲車が足を止めた。ビル群の向こう、微かに姿を確認できる。

「まだこっち気づいてないね。えーっと、型番は...と。」周囲を見回すが、目立った戦闘、敵性対象はアレ以外には見当たらない。

「ここの戦闘での生き残りでしょうか。」

「たぶんね。左後ろ脚を少し損傷してるし、お仲間とはぐれたのか着いて行けなかったのか。」

 単独行動をしているということは偵察中か、損傷により撤退をしているかだ。殊音は後者と推測しているが、紗衣も同意した。戦闘機械が連携を取って行動すると厄介だが、単独ならばそれもない。都合が良い。

「解析完了。アレはZPX-03F。汎用対地四足歩行兵器「戦狗(せんく)」だね。 紗衣ちゃんこれはラッキーだよ。」

「はい?」予想外の言動に、紗衣は困惑する。

「私は今、この暑さに参っている。冷房をつけたいところだけど、あいにく燃料が足りない。」

「はぁ。」

「あの戦狗の燃料は軽油で、偶然にもこの装甲車も軽油で動いてるってわけ。わかる?」

「...つまり私に燃料を盗って来い、と。」

「さっすが紗衣ちゃん!察しがいいねぇ!」

 よくもまぁ戦場でこれほどまで呑気で居られるものだと、逆に感心してしまう。その緊張感の無さは、無知なのか余裕なのか、それとも絶対的な自信なのか。紗衣には分からない。

「簡単に言いますけど、アレは燃料をはいどうぞって渡してはくれなさそうですよ。」

 戦狗はこちらに気づいてはいないものの、しっかりと警戒している。戦狗のモノアイが周囲を見渡し、肩部の機銃が獲物を狩らんと威嚇する。殊音の言う通り左脚を損傷しているようだが、武装の方には大きな損傷は見えない。戦闘能力は健在といったところか。

 だが、このようなことを言ったところで殊音は折れないだろう。そもそも進路上に戦狗がいる時点で、戦狗の移動を待つか、あるいは排除するかの2択なのだ。主人が奴の燃料を欲しているのなら、やるべきことは一つ。

「主人、少し離れて隠れててください。あと小銃を1つ借りていきますよ。」返事を聞く前に、傍らに置いてあるSMGを取り動作チェック、弾倉確認、背負う。

「ほいほい。ECMはこっちで準備するから。行ってらっしゃい。」

 紗衣は装甲車から飛び出し周囲を確認する。殊音は装甲車を走らせ、既に退避を始めている。


「さてと。」紗英は改めて目標に向き合う。

「目標視認、距離400、目的は対象の撃破及び燃料の奪取。」

 一度目を閉じ、身体ステータスを確認する。関節機構、筋電アクチュエータ、電子神経異常なし。

「システム、戦闘モード。アクチュエータリミットレベルを2にダウン。ウェポンリンク完了。」

 装備はSMGと、二振りの刀。全てのチェックを終え、紗衣は自らの3倍程度の体格を持つ戦狗に向き合う。戦場に、一人立つ少女。その眼に恐怖はなく、敵を真っ直ぐにみつめている。

「主人、目標の討伐を開始します。」殊音より、返信。

「了解。あ、紗衣ちゃん。」

「?」

「グッドラック!」回線が閉じる。

 少しノイズの混じった、ただの一言。その一瞬の心地よさを感じつつ、紗衣は地面を蹴り、戦場を駆ける。

漫画のプロットとして書いていたものを小説化してみました。

女の子が戦うお話を書きたかっただけです。



【登場人物】

殊音ことね

戦場で過ごし、回収品を改造、売却して生計を立てる狐族の少女。


紗衣さえ

琴音に機械の身体を与えられた、元獣人の少女。

風貌に合わない戦闘能力を持った身体を使い、殊音と共に旅をしている。

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