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現在の時刻 夕方の五時三十分
図書室に入り向かって右側の奥の席では
二人の男女が向かい合って座っていた。
別に色恋関係ではない。
男の方は三年生の鞍馬 孝士
知っている人には探偵と呼ばれている男
女の方は同じく三年生の片桐 綾日である
片桐の後ろには、月城 かなえと舞浜 奈津子が立っていた。
「片桐さん あなたとこうして向かい合って話すのは初めてですね」
鞍馬はクラスメイトの片桐に丁寧な口調で言った。
「そうね、お互いクラスメイトとはいえあまり接点もなかったし」
片桐はクラスメイトに対しての口調で言った。
「今度、大きな展覧会があるとか、すごいですね 私もぜひ見てみたいものです。」
「…あ、ありがとう」
鞍馬が展覧会の話をしたとたんに片桐の顔が曇った。
それを見た鞍馬は
「でも、私の元へ来たのはどうやらその展覧会についての話のようですね」
「…」
片桐は黙って下を向いた。
それを見たかなえは
「そうなんです その事についてお願いがあるんです」
片桐のかわりに答えた。
それを聞いた鞍馬は
「なるほど、では話を聞かせてくれますか?」
後輩であるかなえにも丁寧な口調で尋ねた。
「実は…」
「月城さん、待って」
訳を話そうとしたかなえを片桐がさえぎった。
「先輩?」
「自分で話すわ」
そう言った片桐はゆっくりと話始めた。
展覧会を辞退しろと示された文章が作品に貼られていたこと。
辞退しないと過去の作品すべてを傷つけると脅されたこと。
すでに一つの作品が傷つけられたこと。
片桐はポツポツと話した。
鞍馬は黙ってそれを聞いていた。
片桐が全てを話したあと、鞍馬はこう尋ねた。
「展覧会に出展する絵は美術室にありますか?」
「えぇ…」
「傷つけられた過去の作品は?」
「他の人が見ると大騒ぎするので今は私の家に…」
そこまで聞くと、鞍馬は立ち上がり
「美術室に行ってみたいですが 時間も時間なので、明日行ってみるとしましょう」
かなえがふと時計を見ると、いつの間にか六時を過ぎていた。
「脅迫文は捨てましたか?」
「すぐにでも捨てたかったけど、いつかは誰かに伝えなきゃとも思ったからそれも家に…」
鞍馬はそれを聞くと
「分かりましたでは明日、その絵と脅迫文を持って放課後またここへ来てください」
ということで、本格的に動くのは明日というわけで、帰ることになった。
かなえと奈津子は一緒に帰るが片桐は方向が違うため、校門前で別れた。
帰路につく中 奈津子が
「思ったより中身の印象違ったね」
と言った。
「そうだね、外見からいってもっと豪傑な人かと思った」
かなえもそう言った。
はたしてあの人は片桐の暗い顔を晴らすことはできるのだろうか。
片桐は脅迫文を捨てずに持っていると言っていた 最悪、先生に伝え警察に頼むつもりだったのだろう。
かなえとしてもこの件はあの鞍馬という男になんとかしてもらいたかった。