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4月、別れの時期だった3月を終え、出会いの時期がやってくる。
ここの、とある高校でも入学式が執り行われ、多くの新入生を迎えた。
新入生が門をくぐっているのを、窓枠で頬杖をついて二年生の、月城 かなえは見ていた。
いや、別にカッコいい後輩がいるかも、と思って物色しているわけではない。
厳密に言うとかなえは考え事をしていて、その時に目にはいっているのが、あの一つ歳の若い後輩たちであり、別にあそこに誰もいなくても、頬杖をやめず、そこらのアスファルトでも見ながら考えていただろう。ちなみに、今は自習時間である。
「かなえ~…って、なにしてんの?」
黄昏てる後ろ姿に一人の少女が話しかけてきた。かなえの友人の舞浜 奈津子だ。
かなえは頬杖をやめ、奈津子の方を向き、
「考え事してた」と言った。
「ふーん、考え事ねぇ」
さして興味のないような声を奈津子はあげ、
「ま、どうせ今暇だから聞いたげる」
と、仕方のないような顔をしながら言った。
何か小言でも言ってやろうかとも思ったが、素直に話すことにした。
「ちょっと相談を受けてさ、それでどうしようかと思ってた」
「相談? 誰から?」
「先輩」
短く答えた。
「美術部の?」
「うん」
かなえは美術部に所属しており、その先輩から相談を受けたのだ。
その人は、近々大きな展覧会へと作品を出展する予定だった。
「内容は? 聞いていい?」
少し遠慮がちに奈津子は聞いた。
少し悩んだが、聞いてもらおう。
これは少し重い
「実はね…」
かなえは話すことにした。
かなえが先輩から受けた相談というのは、簡単に言ったらこうだ。
-展覧会を辞退しろ でなければ貴女が描いた絵の全てを傷モノとする-
この文章が、先輩の展覧会に出展するために描いた絵に貼ってあり、傍らには刃物のようなもので傷をつけられた、先輩の過去の作品の一つが投げ捨てられていた。
脅迫だった。