紅葉の錦
それは異様な光景だった。
見渡す限りの景色は赤く染まり、上がる炎は空をも焼かんと高く昇っていた。
大勢の人が倒れ、死に切れず、もがき苦しんだ。その姿はまるで悪魔のようだ。
断末魔の叫びがあちらこちらから聞こえる。剣を交える音がそこら中で響き渡る。その音は冷たく激しく耳の奥まで響き渡った。
死体の焼ける臭いに交じって魂の匂いがする。
戦場は異様な光景だった。
足は震え、もう一歩でも歩けそうにない。目の前に音を立てて人が倒れこんできた。
「きゃっ」
こんなのおかしい。狂っている。
「大丈夫だよ。気を失ってるだけだから」
マノンが背中越しに言った。その手に持つ剣は血に汚れていたが、その服は純潔を保っていた。
「それにしても、人を守りつつの殺陣は意外に難しいんだな」
ルーカスも剣を振るいながら背中越しに言った。
「そうかい? 僕は平気だよ。守りの剣を学ばなかったの?」
「オレのとこは攻める一方だ。自分がどうなっても目下の敵を殺せってさ」
「あはは、劇しいね」
「お前んとこが緩いんだよ」
「そうかもね」
この地獄の最中で笑っていられる二人はどうかしているに違いない。
「サクラ、手が止まってる」
その声にはっとして振り返ると、ミロがこちらを見ていた。その時、彼と初めて目が合った気がする。
私の手の中には怪我人がおり、それを戦火の外へ連れ出して手当をすることが任務だ。ミロも同様であり、その他の三人は渦中から私たちを守る役目だ。
「効率は良くありませんが、確実に戦闘人数を減らすことができます」
シリウスの言葉が頭に浮かんだ。この不毛な戦いを鎮めることが一番の狙いだが、死の淵から救われたという恩を心に刻む怪我人に私たちの考えを示すこともするという。
「もう大丈夫ですよ。動けますか?」
私はできるだけ笑顔を作ってその男に話しかけた。
「…あ、あんた……危ないよ。女の子が、こんなとこ…」
「私の仲間が守ってくれます。あなたを助けに来ました」
その言葉に男は安心したような表情を浮かべた。次の瞬間、男は目を見開き、声を荒げた。
「…うしろ! はやく!」
男の指差す方を振り返る。そこにあったのは煌めく剣の光。それを振り下ろさんばかりの男の表情は、慈悲もなく恐怖もなかった。あるのは、狂気。それだけだ。もう逃げられない。それは容赦なく力の限りに振り下ろされる。私は目を閉じ、歯を食いしばった。
「…っ!」
……痛くない。 感じられるのは温かな…。
「血…?」
「サクラ…怪我は…?」
私はミロに庇われたのだ。私を抱きしめ、倒れ込む彼の肩からは生温かい鮮血が流れ出し、私の頬を伝った。
「ミロさん!!!」