嵐の音色
「さぁ、自己紹介が終わり次第、世界終末のシナリオをお話ししましょう」
私はシリウスに促され、自己紹介を始めた。
「サクラと申します。よろしくお願いします」
すると、真っ先にソファーに寝転んでいた薄茶の瞳の青年が人懐っこい笑顔を浮かべて話し始めた。
「オレはルーカス。新入りは嬉しいぜ。よろしくな」
次に、部屋の隅に佇んでいた白藍の髪の青年が静かに口を開いた。
「僕はマノン。歓迎するよ」
「…俺はミロだ」
最後に漆黒の髪の青年が面倒くさそうに言った。
ここでは名前以外を話すのは禁忌なのだろうか。誰も多くを語る者はいなかった。
「さぁ、それでは僕たちの計画をお話ししましょう」
シリウスは心なしか嬉しそうだった。計画を聞いてしまったら最後、もう二度と私にとってのあの平凡な日々は戻らないような気がした。私は深く息を吸って、頷いた。
「お願いします」
シリウスの表情は相変わらず穏やかだ。そこに何処か恐怖を感じずにはいられなかった。
「では、マノンに説明をお願いしましょう」
マノンは自分は無関係と言わんばかりに部屋の隅に佇んでいたが、それを聞くとはっとした様子で笑顔を浮かべた。彼とシリウスはどこか似通った部分がある。
「…“始まりの五人”の一族と王家、そして平民で世界が成立していることは知ってるね?」
「はい。王家はフローレス家、貴族はエバンズ家、セイラー家、ハルトマン家、エウィング家、ロレーヌ家ですよね。平民は私たちのように苗字は持ちません」
マノンはゆっくりと頷いた。
「それぞれの貴族は憎み競り合っている。滑稽だと思わないかい? 罪なき善良な民は、罪深き貴族に利用され、殺し合っているんだ」
彼のその表情は変わらずにこやかで、そこから読み取れるものは何もなかった。
「世界終末のシナリオは単純明快。圧倒的武力を持ってそれは為されるんだ」
「武力行使…ということですか?」
「その通り。世界の終わりにぴったりだと思わないかい?」
淡々と語る彼のエメラルドの瞳はより一層深みを増した。その静寂なる耀きは私を捕らえて放さず、目を反らすことはできなかった。
「マノン、それくらいにしてやれよ。怯えてるだろ。なぁ? サクラ」
私の顔を覗き込みながらルーカスが会話に入り込んできた。
「あはは、ごめんごめん。怖がらせるつもりはなかったんだよ」
「本当に、その性格なんとかなんねぇの」
「そればっかりは難しいなぁ」
マノンは楽しそうに肩を竦めて見せた。
「そう言うわけで、僕たちは民を味方に王から貴族までの制圧を考えています。ここ一年ほどは戦場へ出向いて怪我人の手助けをしています」
シリウスがマノンの説明に補足をした。彼に説明されるとやけに現実味を帯びてきて、物騒な思想の意味が身に染みて分かった。
「今日もこれから行きますよ。準備してくださいね」
「戦場にですか?!」
「はい、もちろん」
その内容とは裏腹に彼の口調だけは穏やかだった。