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星の色人

 前などろくに見ずに歩いた。


 もうどうなっても良かった。空虚は大きくなるばかりで、もうその重圧に耐えられるはずもなく、早く死にたいとばかり思った。


 砂漠の村に珍しく雨が降ってきた。


 こんな雨では俺のこの血に汚れた命は洗われることなどない。


 その時、一人の男にぶつかった。俺はその場に倒れこんだが、起き上がる気もしなかった。


「大丈夫ですか?」


 その男は馬鹿真面目に俺の心配をしてきた。


 …早く、去ってくれ。


「さぁ、手を」


 差し出された手を無言で払いのけた。自分のことだけ気に掛けていればいいものを。他人のことなど助けようなどという気を起こせる奴は本当の苦しみを知らないのだ。


「どうかしましたか? 僕はある人を探しているのですが、知りませんか?」

「……」

「確か、この村の人なのですが」

「……」

「ジャン、と言う方です」


 ジャン。俺は顔を上げた。その男は雨を滴らせた金髪に暗きを除け、輝きを放つ碧眼を持っていた。


「やっと話を聞いてくれそうですね」

「お前は誰だ」

「おっと、自己紹介が遅れて申し訳ありません。シリウス、と言います。以後お見知りおきを」

「なぜ…ジャンを…?」

「あなたの気を引けると思ったもので」

「ふざけるなよ…!」


 俺はその男に殴り掛かった。


 男はそれを避けもせず、静かに殴られた。俺はそれだけでは飽き足らず、倒れこんだ男の上に馬乗りになり、何度も何度も殴った。男は全く抵抗しなかった。されるがまま、声も出さなかった。


「何者なんだ…! 一体、お前は」

「……」

「もういいだろ。俺は行く場所がある」


 俺は立ち上がり、男に背を向けた。


「崖、にですか?」

「?!」

「崖。メリーナさんが死んだ」

「お前…!」

「死んでも何にもなりません」

「そんな綺麗ごとが俺の心に届くとでも?」

「では、言い方を変えましょう。あなたは生きなければなりません。これは命令です」

「ふん、馬鹿な」


 男は静かに俺に近づき、しゃがみ込んで下から俺を覗き込んだ。その顔は血だらけだったが、その美しい瞳はしっかりと俺を捕えた。いつの間にか降っていた雨は止み、雲は消えかけていた。


 空は闇に覆われかけ、一番星だけが煌々と輝くのだった。




「僕のために死んでください」




 穏やかに、しかし、強く彼は言った。


「僕のために生きてほしい、とは言いません」


 そんなこと、そう言おうと思ったが、声が出なかった。シリウスは俺の手を取った。


「あなたが必要なのです」


 明るきを奪う夜の闇は恐ろしかった。心までも真黒に染められてしまいそうで。しかし、彼のその瞳は暗闇を歩く俺を照らし、導いた。

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