大地の終わり
「この村はもう…」
胸が張り裂けそうだった。
「もう、駄目なんです…」
「…どういう意味ですか?!」
スミスは目を逸らしたが、俺はお構いなく聞いた。
「戦争が…戦火がこの村にも。あなたの行っていた戦争よ。私たちは皆、巻き込まれたのよ」
「そんな…。ジャンは? ジャンはどこです?」
「…居場所は知っています。案内しましょうか?」
「お願いします」
戦争だと…。なんてくだらないんだ。どこへ行っても、どこまでも戦争、殺し、だ。スミスの後をついて行くと広々とした砂漠に出た。
「ここは…?」
「…………あの子は、ここに眠っているの」
目の前には無造作にジャンと書かれた板が地面に刺さっていた。その他にも多くの板がそこらじゅうに刺さっている。
「どういう…」
「見えるでしょう。ここには多くの人が眠っているわ。ここは墓地なのよ。死者が多すぎてこんな所まで墓地になってしまったのよ。沢山の犠牲者がここに眠っているの」
「犠牲者…」
「そう、犠牲者よ」
頭が真っ白になった。
あの子が戦争の犠牲者?
「そんなこと…ある訳がない! 約束したんだ、生きるって」
「彼は生きたわ。そう、必死に。あなたの帰りを待って。でも、戦争が奪うのは弱者の命からだわ」
「……」
言葉も涙も出なかった。ただ心に空虚が襲った。せんそう、だと? 俺の、俺がジャンのために戦った日々は何だったんだ。
また、だ。
俺のせいで大切な人を失った。俺が不甲斐ないせいで。
「生きたのよ。ジャンは小さな小さな命で。希望を持って。生きたのよ」
「だが、死んだ。なぜ…」
「餓えよ」
「面倒を見てくれるって」
「役所が機能しなくなって孤児たちの面倒を見る人がいなくなったの。彼らは自分自信だけを頼りに生きなければならなくなったわ。皆、盗みを働き、人を騙して何とか生きようとしたわ」
「それを知っていて何故、助けてくれなかったのです?」
「甘えないでちょうだい。うちには子どもが三人もいるし、この時勢でお金もないわ。それに追い打ちをけるように戦争。自分の家族を守るので精一杯よ」
「死ぬほど困ってる人がいても?」
「えぇ。結局は自分の命よ。他人のために、なんて綺麗事。そんなこと言っている人から死ぬわ。死んだら元も子もないと思わない? 大体、小さな子どもを残して半年も家を空けているような人に言われたくないわ」
「……そうですね。案内ありがとうございました」
俺は小さな一枚の板の前に座り込んだ。何も考えられない。考えたくない。
ただ何かが大きな音を立てて崩れてゆくのが分かった。不安定だったその何かは、一度崩れ始めたら止まることを知らなかった。
ひたすら、
何も
残らなくなる
まで
崩れ落
ち
る。
本当にこの世界は下らない。長い思考停止の後、そう思った。スミスの言ったことは正しいじゃないか。他人のために生きる。誰かを守りたい。強く在りたい。全部、下らない事ばかりだ。結局何一つできやしない。それは今までの経験から明らかだ。
何のためにあの地獄へ赴き、何のために闘ってきたか。何のために汗水流して働き、何のために希望を与えようとしたのか。全てが崩れた今、それが分からない。
ひたすら生き残ることを考えた。必要とあらば、戦友さえ盾にした。待っている人がいたから。俺は剣の才が別格ある訳でも、勇敢な訳でもなかった。生き残れたのは約束があったからだ。
大切な人との約束を心に生きてきた。
……ジャンヌと、ジャンとした約束、どちらも守れなかった。心に仕舞っていたものは全て崩れ落ちた。全て終わりだ。もう、何も残っていない。生きる意味も気力も。
負けてしまったんだ。支配されてしまったんだ。なるほど、こういう気持ちか。心地いいものではないが、悪くはない。
俺はあまりにも血に染まりすぎている。残酷に狂酔している。今はそれが何故だか心地いい。
俺はあてもなくひたすら歩き続けた。もうどこにも思い残すことはない。全てを破り捨て、全てを壊した。
もう二度と戻れない。
生きる価値などとうになくなっていたのだ。
その時だったんだ。
あの男に出会ったのは。




