霧迷う
「…こりゃあ、徴兵通知じゃねぇか」
「ちょうへい?」
「兵隊になって戦争に行けってことだよ」
「え、ミロさん…。行かないでよ!」
「あぁ、お前を置いてどこへも行かないよ」
調査と戦争。内容は違うとは言え、ジャンヌの時の記憶が蘇えった。
「兵隊さんがね、言ってたんだよ。うちは貧乏だから、この手紙持って来たって」
「どういう意味だ?」
通知をよく見てはっとした。
そうか、報酬が出る訳か。しかも、俺が一年働いて貰える額の何倍もある。貧乏人から徴兵していくってことか。
腐ってるな。無能な貴族共め!
しかし、金がない事も事実だった。これだけの金があれば、ジャンに満足に食べさせてあげられる上に、学び舎にも行かせてやれるかもしれない。出来るなら少し貧しくても普通の暮らしをさせてやりたいと日々思っていた。これだけの金があればそれが叶う。考えてみる価値はある。
ジャンを寝かしつけてから家を出た。村にある役所に行くのだ。この件について聞いておきたいことがある。
「ジャンヌ…おまえの気持ちが少し分かった気がするよ」
少し、急ぎ足で向かった。
役所は閉まっていたが裏へまわったところにある扉を叩けば誰かが出てくるだろう。
「少し尋ねたいことがある。誰かいませんか?」
奥から物音がした。やはり役人がまだ残っていたのだ。
「もう時間を過ぎているんだ。明日にしてください」
「ほんの少しなんです。今、聞いてもらえませんか?」
「…なんだ?」
「徴兵の件なのですが、これはどれくらいで戻って来られるのでしょうか? そして、家には子供しかいないのですがそれは?」
「あぁ、半年くらいだろうね。子どもしかいないんなら役所で預かっている孤児と一緒に半年間、面倒を見ますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
良かった。
心配なく戦場に行ける。ジャンはしっかりした子だ。帰って来るまでの辛抱。今以上に贅沢は言ってられなくなるが、あの子は耐えてくれるだろう。
翌朝、ジャンを叩き起こし、眠たい眼を擦る彼にこう言った。
「昨日、言っていた徴兵のことだが、俺は行こうと思う」
「危ないんでしょ? ミロさん」
「半年、だ。半年でお前においしい食べ物を買ってやれるし、学び舎にも行かせてやれる。それまでは辛いかもしれないが、役所のお世話になって頑張ってくれないか?」
「どうしても行かないといけないの?」
「あぁ」
「ミロさんは行きたいの?」
「あぁ」
「…そうか。じゃあ、ボク、聞きたいことがあるんだ。教えてくれる?」
「何だ?」
「ボクのお父さんとお母さんのこと、知りたいの」
それを聞いて、驚いた。
彼にジャンヌとメリーナの話をしたことは一度でもなかった。母親は死んだと告げていたが、父親が死んでいることは全く告げていなかった。
「どうして、そんなことを…」
「だって、隣のスミスさんが言ってたよ。ボクの瞳はミロさんと違うから本当の家族じゃないのねって。紫の瞳の人からは琥珀の子は生まれないんだって」
そうか、それで知っていたのか。確かにジャンの瞳はこの子の両親と同じ、琥珀色だ。
「お父さんとお母さんの話をしてよ。ボク知りたいんだ」
ジャンヌもこうして俺の心を覗き込むようにこちらを見ることがあった。その何でも見透かせると言わんばかりの自信に溢れた瞳、やはり、親子なんだ。




