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涙雨の運命

「永久の絆を君の心に」


 すっかり夜も明け、朝日が射してきた。今日が始まる。どれだけ拒んでも、今日という日は昨日とは違う。


 新しい物語だ。


 それをいくら悔もうとも泣こうとも無力な俺にはねじ曲げられない。


 運命、ジャンヌはそう言っていた。なんて残酷な運命。俺の運命だ。生きるしかあるまい。誰かを守るということは、泣く場所がなくなるということ。泣いてなどいられない。強く、前を向いて。


 今日(いま)を生きるんだ!


 俺にはまだ残された約束がある。約束を果たさなければ…。





「ミロさん! 朝だよ!」


 元気な声に起こされる。


「あぁ、今起きる」

「そう言っていつも寝ちゃうんだから」


 あの日から六年。ジャンヌとメリーナの子どもは順調に成長していた。元気な男の子だ。メリーナと共に、ジャンという名前を付けた。


 ますます情勢が悪くなり、村の治安は悪化し、俺の給料も少なくなった。二人で生きるには窮屈だったが、少しずつ日常が戻りつつあった。


「ミロさん、ボクお腹すいちゃったよ」


 俺は小さなジャンの頭を撫でた。


 自分の世界を持っている感じはあいつにそっくりだ。メリーナはジャンヌが死んだ後、すぐにその後を追っていってしまった。一度失った大切な場所に今は二人が残してくれた子どもがいる。もう二度と失う訳にはいかない。


 朝食を作ってジャンと二人で食べ、俺は仕事へ行く時間になった。


「留守を頼んだぞ」

「うん、いってらっしゃい」


 しっかりと返事を聞き、家を出た。


 今日も働く。誰かのために働く。誰かのために生きる。この子だけは俺が必ず守り通す。


 最近、少しづつ暖かくなってきた。一面に花が咲き乱れる季節がやってきた。


 …もうすぐあの季節だ。


 帰りに食材を買わなければ。そんなことを思いながらゆっくりと歩いた。今日の晩御飯はもう準備してある。ジャンの好物だ。きっと喜ぶだろうなどと考えると自然と笑顔になる。





「ただいま」


 そう言っても、ジャンはもう寝ている時間なのだけれど。出来るだけ静かに扉を閉め、家へ入る。すると部屋に明かりが点いているのが見えた。こんな時間にまだ起きているのだろうか。


「起きてるのか?」

「ミロさん! お帰りなさい。今日はミロさんが帰って来るの、待ってたんだ」

「何か困ったことでもあったのか?」

「ううん。違うの。今日、手紙が来たの。ミロさんに」

「…それで?」

「兵隊さんだったんだ! 格好良かったの」

「兵隊?! 見せてみろ!」


 何だか嫌な予感がした。あの日の記憶が蘇る。


 ジャンヌ…。何も起こらないよな? お前に似たこの子は守り抜いて見せる。何があってもこの子だけは、世界(あく)から救って見せる。運命に逆らい、時の刃に抗い、死などよせつけない。この命を懸けても。


 必ず。

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