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単純な世界

「確認したいことがある。ジャンヌは何て言う? お前が死んだらきっと悲しむ」

「そうね、彼には心配を掛けたくないわ」

「あいつはもう長くない。命を粗末にすることをどう思うだろうか」


 ジャンヌは病で床に伏してからもう長い。彼にはまだ打ち明けていないが、医者に手の尽しようがないと言われて大分経つ。この村ではよくある話だ。


 二年前のある日、政府からの任務通知がジャンヌの元に届いた。その内容は政府が行っている調査を手伝ってほしいというものだった。しかし、通知には詳細が記されておらず、高額の報酬が支払われることから、俺とメリーナは怪しみ、彼を止めた。それを気にも留めず、ジャンヌは平気な顔で行くことを決めたんだ。後で俺だけに、家庭の事情があるからと冗談めいた風に漏らした。


「ミロだって知ってるだろ。僕は、僕たちは誰かを守るために自分のことを顧みずに生きてきたんだ。だから、僕は行くよ。心配しているような事は何も起こらないさ」


 出発当日、いつも通りに笑って去りゆく彼の背中が見えなくなるまで目が離せなかった。その姿を目にしかと焼き付けておかなければいけないような気がした。


 任務から帰った彼はあの日の姿とは違っていた。しかし、その時は異変に気が付くことができなかった。しかし、半年ほどで彼の肌は青白くなり、その琥珀色の瞳は光を寄せ付けなくなった。体も次第に痩せていき、誰から見ても不健康なことが分かった。医者に行ったが、時既に遅く、原因も不明なままここまで過ごしてきた。


「もう一度言う、ジャンヌは、命を粗末にすることをどう思うだろうか?」

「…よく思わないでしょうね」

「必ず、そうだろう」

「うん。だから、私、あの人が死んだ後に死ぬのよ」

「…何故、そこまで」

「あの人がいない世界なら、もう終わりにしようと思うの。簡単でしょ。私の世界は単純なのよ。でも、それが大切なの」

「そんなの勝手だ! 残された人はどうなる? 子どもは?」

「勝手じゃないわ。私の命ですもの! それにミロ、あなたさっき、子供が死ぬ選択をするのかと聞いたとき、言ったわよね? 分からない、って」

「あぁ」

「それは、私に死なれたくないというあなたの気持ちの表れ。結局、あなたも子供の事なんか考えられないんだわ。それは勝手と言わないの?」


 彼女の言うことは正しい。俺は黙った。彼女の命さえ助かればいい、ただそうであってほしい、俺は自分勝手な選択をしようとしたんだ。自分が情けなかった。心が痛い。


「今日は遅い、もう帰れ」


 ただそう言うことしかできなかった。この時、初めて弱い自分に気が付いた。

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